第105話 予想外のお誘い
いつもご覧いただきありがとうございます。
今週2話目の投稿です。
ランチをたらふく食べた後に、商業ギルドに向かう。
ケン君とのミーティングの約束があるからね。
商業ギルド内は商談等のためにやってきた商人で賑わっているが、今日は前回来た時よりも若干雰囲気が違う。
商人達の話に聞き耳を立てていると、どうやら「8番格納庫」印の魔導具の販売について、この後発表があるらしい、とのことだ。
商人達はみな、販売価格と購入方法について気になって仕方がないらしい。
そんな商人達の間をくぐり抜けて受付にたどり着いた僕たちは、受付のお姉さんに、
「冒険者のタクです。松戸屋さんとの商談の約束があるのですが。」
と申告する。
「タクさんとそのお連れさまですね。
松戸屋さんからは伺っていますので、奥の会議室にどうぞ。」
と案内される。
「ありがとうございます。」
と返事をした僕たちは指定された会議室に入っていくと、既にケン君とクリスさんが待っていた。
「タク先輩、お疲れさまです。
わざわざお越しいただきありがとうございました。」
「いや、僕達も街に用事があったしね。
それにお城では話せないことも多いしね。
こちらのほうが都合がいいよ。」
「そう言っていただけると、助かります。
では早速打ち合わせといきましょう。」
と、早速本題に入る。
うん、時間を無駄にしないところが、できる商人といった感じだね!
「まず格闘技大会ですが、結果から言うと大成功でした。
大会を通じて大きなお金が動いて、街の経済活動も活発になり、各商会や飲食店も賑わったようです。
また開催してほしいというお願いが早速届いています。」
「それは良かったね。
今回の大会を見て出場を希望する冒険者も増えるだろうから、次からはもっと盛り上がると思うよ。」
「はい。それを期待しています。
それに関連して、例の魔導具の販売については今日の午後3時、このミーティングの後に発表予定です。
結論から言うと、今回に限り例の魔導具5点セットで1,500,000エソで販売する予定です。
内訳は、ポーチが50万、バッジが40万、点火、点灯、放水の魔導具等がそれぞれ20万エソです。
かなりのサービス価格ですよ。
ちなみに今回は格闘技大会【ASYURA】の開催記念特別セールですからね。
次回のロット以降はそれぞれ10万エソを上乗せしてセットで200万エソで販売する予定です。」
「150万エソ!?ちょっと高すぎないかい?」
「いえ、そんなことはありませんよ。
魔法を使えない商人や冒険者にとっては魅力的な魔導具ですからね。
水や収納の確保は旅には必要不可欠ですし、時として生命に関わる話ですから。
既にいくら高くてもいいから売って欲しいと言うオファーが殺到しています。」
「そうなんだね。」
「はい、ここからが話の本題です。
我々とタクさんとの取り分の話です。
これを詰めておかないと販売できませんからね。
こちらの提案ですが、まず服とかキャンプグッズについては通常の商慣習に従って、利益の10%を著作権等としてタクさんにお支払いしようと思いますがいかがでしょうか?」
「ああ、それで問題ないよ。
お城の各工房とか、実際に作ってくれている人達にも利益を還元してあげてね。」
「はい、もちろんです。次に魔導具についてです。
魔導具はタクさんしか作成できないという特殊性がありますので、販売によって得られた利益の20%を私どもが受け取って、残りの80%をグレイ商会さんにお支払いするということでいかがでしょうか?
ざっくり言うと、販売価格の8割が原価でグレイ商会からの仕入れ値、2割が私どもの利益です。」
「8割ももらっていいのかい?」
「ええ、当然です。タクさんあっての魔導具販売ですからね。
その代わり魔導具については私どもとの独占販売契約とさせていただけませんか?」
「うん、それはかまわないんだけど・・。
少し事情があって、今後の話をしないといけないんだよ・・。」
と言いながら皆の方を振り向き、念話を発動すると、
『例の旅立ちの件を話さないといけないから、ケン君達にも念話の魔導具を着用させて話してもいいかな?
どこでお城の関係者が聞いているかわからないしね。』
と念話で話しかける。
皆はOKと言わんばかりに首を縦に降る。
「ケン君とクリスさん、悪いがこの道具を僕達と同じように着用してくれるかな?」
と、アイテムボックスから予備の念輪の魔導具を取り出して2人に手渡す。
「これは何ですか?」
「うーん、まあ、着用してみればわかるよ。
危険はないから大丈夫だよ。」
と言いつつ、2人に着用してもらう。
ちゃんと着用したことを確認してから、
『ケン君、クリスさん。
これは念話の魔導具戸と言って、念話のスキルを付与した魔導具だよ。
頭の中で話したいことを念じるだけで会話ができる魔導具さ。
これから内緒の話をするからよく聞いてほしい。』
『タク先輩、この道具はすごいですね!
道具についていろいろ聞きたいことがありますが、先にタク先輩のお話をどうぞ。』
『助かるよ。まず結論から言うと、僕達は明日旅立つことにしたんだ。
僕のスキルの有用性が王族に気づかれてしまうとお城に軟禁状態にされてしまうかもしれないからね。
だけど、ケン君の商会には今後も魔導具やその他の商品のアイデアを卸していきたいので、今後の連絡体制について整理しておきたいんだ。』
『そうなんですね!
突然のお話で驚きを隠せませんが、理由は理解できます。
私も自分の商会を立ち上げたのは同じ理由ですからね。
お城の調達部の職員として取り込まれる前に、自ら独立したんですよ。
もう少ししたら王都に自分の店舗兼住居を構える予定です。
それはともかく今後のやり取りですが、タク先輩達が行った先にある商業ギルドに王都の松戸屋あての手紙を預けていただければ連絡可能です。
連絡をいただければ使いを出すなり、自分で取りに行くなりしますのでご安心ください。』
『了解だよ。ありがとう。
商業ギルド経由で連絡が取れるなら問題ないね。
ところで早速新しい魔導具を作ってあるんだけど、プレゼンしていいかい?』
『新しい魔導具ですか? もちろんです!』
僕はヤトノとチャロンと一緒に作ったタトゥーシールの魔導具をアイテムボックスから取り出す。
『これはタトゥーに見える模様を転写する使い捨ての魔導具さ。
本当の入れ墨ではなく、光の反射をなくしてタトゥーに見えるだけなんだけどね。
昨日のチャロンや僕の様子を見て、冒険者達の間で流行るのではと思って作成したんだよ。
使い方は肌の表面に当てて魔力を流せばいいだけなんだ。
よかったらこれも「8番格納庫」ブランドの商品として販売してくれないかい?』
『これはすごいですね!
実はタクさん達のタトゥーも冒険者達の間でかなり話題になっていたんですよ。
あんなタトゥーを自分たちも入れてみたいってね。
これは飛ぶように売れますよ。ぜひ販売させてください。』
『じゃあ、このまま預けておくからよろしくね。
あともう一つお願いがあるんだけど、魔導具の販売は基本的には松戸屋さんに任せるとして、僕達の旅先での営業活動としていくつかの魔導具を販促品として配るなり、販売してもいいかな?
広告塔として影響力のありそうな商人や冒険者達に実際に使ってもらったほうが旅先の街でのよい宣伝になると思うんだ。
それが今後の松戸屋と「8番格納庫」ブランドの発展に繋がると思うしね。
建前としては、僕達のパーティー「炎狼小隊」は「8番格納庫」ブランドとスポンサー契約を結んでいるので、開発中のものを含めて魔道具や服などの支給を受けている、という事にしておいて欲しい。』
『それはいいですね。ぜひともお願いしますよ。
パーティーを結成していたことは今初めて知りましたが、確かにタク先輩が率いるパーティーとスポンサー契約すると言うのはいいアイデアですね。
それであれば最新式の道具をいろいろと持っていても説明しやすいですからね。
お城の展示会場に販売用の在庫品をストックしてありますので、いくつか持っていってください。
あとで展示会場のスタッフに連絡しておきますね。
あと、魔道具についてはタク先輩の匙加減で作るなり販売するなり提供するなりして頂いて結構です。』
『ありがとう。僕からの話は以上だよ。』
『ありがとうございました、タク先輩。
たいへん厚かましいお願いなのですが、この念話の魔導具を譲ってもらうことはできますか?
私とクリスさんの間で内緒話をするのにこんな便利な道具はありません!』
『ああ、いいよ。
でもお城にバレると確実に取り上げられると思うから取り扱いと秘密の保全には気をつけてね。』
『はい、わかりました!』
『では今日はこれで失礼するよ。
魔導具の販売がんばってね。』
『お任せください!』
と話し終わって挨拶を交わすと僕達は会議室を出る。
商業ギルドのホールには魔導具販売の発表を待つ商人達で賑わっている。
僕達は目立たないようにホールの端をそそくさと歩いて商業ギルドから退出する。
さあ、お城に帰って旅立ちの準備をしないとね!
◆◇
商業ギルドを出てお城に戻り、展示会場の格納庫に行くと、展示会は既に終わっていたが、これから販売されるであろう賞品がたくさん並べられていた。
どうやら各工房が頑張って商品を製造しているらしい。
ブラックな環境になっていなければいいけどね。
「おや、夜の勇者様じゃないか?
昨日は大活躍だったらしいね。」
と、声をかけられたので振り返ると、そこにいたのは服飾工房のチーフデザイナーさんだった。
「あ、どうもです。チーフデザイナー。
お陰で各種商品の良い宣伝になりました。」
「そうみたいだね。
夜の勇者様やチャロンのお陰で、その緑の戦闘服も話題になっているらしいわよ。
お陰で注文がたくさん入って、うちの工房も嬉しい悲鳴でいっぱいさ。」
「それは良かったですね。」
「ああ。そんなことより宣伝用の商品を受け取りに来たんだろう?
さっき松戸屋の勇者様から伝言が届いたのさ。
武器工房と防具工房にも連絡があったからここに準備しているはずだよ。
代金は松戸屋の勇者様からもらう事になっているから遠慮なく持って行きな。」
「ありがとうございます。
それじゃあ、いくつか商品をサンプルでもらって行きますね。」
と他のメンバーに指示をして戦闘服やブーツ、魔女っ娘服、巫女服、ハイカラさん服、キャンプ道具などを5セットづつピックアップして集積する。
「ありがとうございます、チーフデザイナー。」
「ああ、問題ないよ。
あ、あと夜の勇者様に頼まれていた制服?風の衣装も出来上がっているから後で服飾工房に寄って持って行きな。」
「何から何までありがとうございます。
明日からちょっと長めに出かけるので助かります。」
「・・、どこかに行くのかい?」
「はい、訓練を兼ねて商隊の護衛の依頼を受けることになったんです。
ちょっと遠くの街まで行ってきます。」
「・・ 、そうかい。最近は危険な魔物がチラホラ出ているっていう噂があるから気をつけて行くんだよ。
あと、チャロンは勇者様方のお世話を頼んだよ。
あんたも健康に気をつけて達者で過ごすんだよ。」
「はい。ありがとうございます。」
「・・はい、チーフデザイナー・・。
勇者様方のお世話は私におまかせください。
皆さんのお世話係として立派に務めを果たします。」
と言って丁寧に挨拶をすますと、僕達は格納庫をお暇する・・。
チーフデザイナーは何かを感じていたようであるが、明日からの本当の計画は言えないしね・・。
すみません、チーフ。
短い間でしたが大変お世話になりました。
どうかお元気で・・。
◆◇
・・・。
あたしは格納庫を出ていく勇者様方とチャロンを黙って見送る。
思い起こせば10年前にやって来た勇者様方もそのまた10年前にやって来た勇者様方もこうやって見送ったっけね。
まだ訓練期間の1ヵ月は過ぎてないけど、目端の利いたできる子達はさっさと出て行ってしまうのさ。
お城に・・、いや王室に都合良く使われるのがわかってしまうのかね?
あの子達もそれに気づいて、訓練に行くという名目でそっと出ていくつもりなんだろうさ。
ほとんどの勇者様方は訓練期間中はワガママに過ごすんだけど、あの子は、あの夜の勇者様は服や道具、おまけに料理まで、いろんな事を教えてくれて、お城の工房のみんなを喜ばせてくれてよかったよ。
あんないい勇者様は私の知る限り初めてだったね。
全くチャロンもいい子を捕まえたもんだよ。
あたしもあと20歳若くて独り身だったら強引について行ったかもね。
今となってはだったら話だけどさ(笑)
まあ、あの子がデザインしてくれたメイド服(夜用)のおかげで旦那も何年かぶりに毎晩構ってくれるようになったからいいんだけどね。
あたしにできる事は10年前と同じで、勇者様方をそっと見送るだけさ。
あの子達とチャロンの幸せを祈るとしようかね。
さあ、松戸屋の勇者様からの注文の品を頑張って作らないとね!
シンミリしている時間は服飾工房のチーフデザイナーにはないのさ!
◆◇
格納庫を出た僕達は、武器工房と防具工房に寄って、それぞれの工房長に宣伝用の商品を受け取ったお礼を述べて回る。
各工房長は何かを悟ったような顔をしながら、「達者でな。」という旨の見送り?の言葉を頂いた。
僕たちにとっては初めての勇者召喚でも、お城のスタッフさんたちにとっては10年に1度の定例イベントだから、いろいろ思うところがあるのかな?
もしかしたら僕たちがいなくなるのも分かっているのかもしれないね・・。
そんな感じで若干寂しさを感じつつ服飾工房に到着した僕達は、それまでとはうって変わってハイテンションな工房のお姉様方に熱烈な歓迎を受けた。
何でも、ケン君の松戸屋経由でかなりの量の戦闘服や魔女っ娘服の発注を受けているらしく、このままいけばかなりの給料UPとボーナスUPが見込まれているらしい。
それに、新しいデザインの服を作れるのが純粋に嬉しいそうだ。
しかもアイル君のお姉さんにはことのほか感謝された。
何でも念願の妹がようやく出来たという理由らしい。
いや、アイル君は男の子、いや、男の娘ですよ!
僕が発注した帝国陸軍風の制服と米海兵隊風の制服も無事に出来上がっていた。
もちろんチャロン用の女性用制服もしっかりと仕上がっている。
これらもその場で試着させられてお姉様方のおもちゃにされたのは言うまでもない。
しかも頼んでないのに着替えまで手伝ってくれて、図らずも上半身のタトゥーモドキの鑑賞会になってしまった(汗)
中にはいろいろと盛り上がってしまったお姉様方もいたらしく、妖しい目で見つめ合いながら手をとり合って工房の奥の小部屋へと消えて行った(汗)
ナニをしにいったかなんて聞けるわけもない(汗)
どうもこの世界の女性は色々と肉食系のようだ(汗)
そんなこんなで、工房のお姉様方とチャロン、楓ちゃんとアカネちゃんは盛り上がっていたが、亜季ちゃんだけはジト目であった。
何故に?
◇◆
ようやくお城の別館の自分達の部屋に戻って来た僕たちは、戦闘服の上着を脱いでリラックスする。
獣魔たちも床に寝そべってだらけている。
クロロなんていわゆる溶けてしまったフクロウのポーズだ(汗)
ヤトノもようやく元の姿に戻れてリラックスできたようだ。
「ふう、今日は疲れたね(汗)
でも明日の出発に備えて部屋の片付けもしないといけないし、もうひと頑張りかな?」
「ですね!
でも荷物もほとんどありませんし、とりあえずタクさんのアイテムボックスに収納して、私の生活魔法で掃除すれば問題ありませんよ。」
「それもそうか。
まあ、夕食を食べたら片付けをしようかな?
今日はどこの食堂で食べようか?
屋外者用の食堂でBBQか、はたまた屋内勤務者用の食堂で定食か、悩むところだね。」
「ですね!
でも美味しい肉が食べたいです!」
「久しぶりにビッグバードの胸肉の照り焼きとか、山賊猪の強欲カレーが食べたいね〜。」
「いいですね!とりあえず屋内勤務者用の食堂に行きましょうか?
何か美味しそうな肉料理があれば、それにしちゃいましょう!」
「ご主人様!私も強欲カレーなるものを食べてみたいです!」
と、チャロンとヤトノと3人で夕食について盛り上がっていたら、突如頭の中に念話が響く!
『タク先輩、私です、亜季です。聞こえますか?』
『亜季ちゃんかい?
僕だよ、タクだよ。聞こえているよ。
何かあったのかい?』
『大変です、タク先輩。
部屋に帰ってきたら聖から、クレア王女様から召喚勇者宛に夕食会への招待が届く予定だから今夜はでかけないように、との伝言がありました。
私達も夕食に行こうかと思っていましたが、部屋で待機中です。
タク先輩のところにもお城のお使いの方が行くかもしれませんので気をつけてくださいね。』
なんと、このタイミングでクレア王女からのお誘いですか??
これは何かありそうな予感ですよ!
最後までご覧いただきありがとうございました。
感想など頂けると助かります。
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