4話 街中のモンスター
俺達が学校から帰っている最中、雲がないのに影が入った。
「⋯⋯」
最近やたらと数が多く、さらに動物型人工人間達では捌ききれない。
雑魚が沢山なら良いのだが、海の方から来ているモンスターもいるようで、時々街の中にモンスターが入って来る。
海のモンスターは地上や空のモンスターよりも強い。
そして、現在俺と千秋の前にモンスターが居る。
魚のような、龍のような、そんな感じのモンスターだ。
千秋は震えて足が動けないでいるので、手を引っ張って逃げる。
俺は一般人だ。ここはアドベンチャーラーの仕事だ。
正確にはハンターか。
だが、何時もならこう言うのはすぐに探知して、さっさと討伐するのが基本だ。
「千秋屈んで!」
手を地面に向かって引っ張り、屈ませて尻尾の薙ぎ払いを躱す。
「あ、天音、どうする! 家屋の方には被害が無いようだけど」
千秋が冷静になった。モンスターは暴れながら俺達を喰らいに向かって来ている。
俺を狙っている。だが、悟られてはダメなので、一緒に逃げている。
気が変わって千秋が襲われたら対処がしにくい。
自然モンスターは魔力を保有しているモノを喰らい、成長していく。
俺の魔力はかなりあるので、いい餌だと思っているのだろう。
「まだかよ」
家などへの被害は俺がスペルカードを使って防いでいる。
「ぎじゃあああああ!」
咆哮と共に、口の中に水色のエネルギーを溜め、俺達に向かって一直線に放って来る。
水色の光が辺りを綺麗な水色に染める。海の中にいるような、そんな気分になる。
「流石に地面が抉れるっての! スペルカード、バーニングブレス!」
スペルカードを一枚取り出して、目の前に翳して発動させる。
スペルカードの目の前に大きな魔法陣が展開され、そこから火炎のブレスが一直線に水色のブレスと衝突する。
一進一退の攻防の末、相殺で終わる。
「やばいな」
相手のモンスターが思っていた以上に強かった。
今のである程度ダメージを与える予定だったのだが、相殺で相手はノーダメだ。
千秋がいるので、強いスペルカードは使用できない。
今の世の中、ただの家でもかなりの強度だが、あいつの攻撃はそれを壊す可能性がある。
「輪切りにしまーす!」
透き通る声が響き、モンスターが数個のブロックに斬られた。
血の雨の中立つのは紫色の髪を肩まで伸ばしている女性だった。
「君達大丈夫? 適当な家に匿って貰えば良かったのに」
そんな余裕なんてねぇーよ。
ドアを開けた所にブレスを叩き込まれたら内部も大変だし、被害が大きくなる。
「助かりました」
「そう? そう見えないけど」
「あ、天音! この人、テレビで見た事あるよ! 莉奈さんだよ! 柴莉奈さん!」
「誰?」
「アンチアビリティ、或いはアビリティポリス! 極悪組織【バルス】を壊滅させた警察能力者特殊部隊の隊長! ちょー有名人だよ!」
全然知らない。そう言うのは調べないからな。
ただ、バルスが壊滅された事は知っていた。
詳しい事は知らんが。
「詳しいわね」
「は、はい! あの、どうして対能力者の柴さんがモンスターを?」
「それね。迷宮都市の影響よ」
は? 俺達のせい?
「ここら辺のアドベンチャーラー達がこぞって迷宮都市に引っ越したのよ。あそこ、基本なんでも揃ってるし、迷宮を楽しむ事も出来るらしい。しかも、ゲーム感覚で、それがアドベンチャーラーのやつらにはハマったらしいのよ。
だから、ココ最近はそこ以外のダンジョンには人が少ない。モンスターを倒して、その死体を換金出来るけど、それだって迷宮都市内で十分、寄ってモンスターを狩るハンター共が減って、モンスターが街中に入って、我々も動いているって訳。
モンスターの反応はこの辺にはもう無いから、安心して家に帰りなさい。これが落ち着くまで、無駄な外出はしないように、通学路は要警戒しているから、安心していいわ。今回のような事は滅多に起きないから。起きても焦らない事。とにかく逃げる。良いわね」
「「ちょ、長文ご苦労さまです」」
ついでに申し訳ないです。
「あはは。あなた達仲が良いわね。⋯⋯その制服、今そっちの高校にウチの妹が居るかさ、仲良くしてやってね。それじゃ、残業行きますか」
伸びをして、火の魔法で死体を完全に焼き払って、魔石を取ってから去って行った。
紫色の髪、⋯⋯まさかな。
家に帰り、亜久が縋り付いて来た。
「あ〜に〜ぎ〜だずげでぇ! あの吸血鬼、酷いんだよ!」
「でも、教えるのは上手いだろ?」
「だからっで、ゲームを完全没収、休憩無し、朝昼晩、寝る時間、全て管理されて自由時間ないんですけど! 友達と遊びたいのに財布も隠されているんですけど! もう嫌! 顔しかいい所ないじゃん!」
ケケケ。そう、あいつは教える事は上手いが、融通の利かない完璧主義者なのだ。
故に、効率を重視したスケジュールを建てる。
友達との遊び? ゲーム? 息抜き? そんなの必要なんですか? を地で行くのだ。
だからこそ、迷宮都市では学校を束ねる役に成って貰っている。
「テストが終わるまでだ」
「いーーやーーだあああああ!」
「さぁ、妹様、行きますよ」
背後から肩をポンっとおく、家庭教師、その笑顔は正に悪魔。
はは。
「頑張れ〜」
「いやあああああああああああ!!」
亜久の絶叫を右耳から左耳に流しながら、自分の部屋のベットに転がる。
ふわふわとガチ装備のコートが飛んで来て、俺を包み込む。
次の瞬間には服が一気に変わり、装備が管理者の物に成る。
この装備はコートが中心核であり、コートに意識があり、学校以外では基本的に俺に引っ付くようになった。つまり、毎日着ている。
洗濯などしなくても良いのだが、なんか、なんとも言えない気持ちになる。
性能などには問題ないんだけどね。気持ち的にね。
「と、ダンジョンに入るか」
流石に俺のミスは俺で直さないと。
現在の迷宮都市は、迷宮都市内から攻略用のダンジョンに入れる。
そこは48階層あり、都道府県に成っている。
動物型人工人間達の力を使って、隅から隅まで再現し、下から沖縄県から北海道になっている。
大きさや建物も再現しているので、観光用と攻略用、二つとも使える。
観光の場合は安全保障や移動手段を、攻略の場合は専用の機械を使って、攻略用アバターを形成して、攻略する。
本来の体の性能をきちんと再現し、アバターで訓練したモノも本体にきちんと適応される仕組みである。
このアバターの役目は、本気の殺し合いが出来る点にある。
迷宮のモンスターも挑戦者を殺せる。さらに、死という恐怖を生身に体験出来る攻略者。死線を潜り抜ける事に寄って得られる力もあるだろう。
その結果、死なないように、そして相手を倒せるように、より強くなる(あくまで考え)。
そして、下の方の階層のモンスターはダンジョンエナジーで作ったモンスターでは無いが、ここのダンジョンのモンスターである。
一階の迷宮も健在だ。
元来のダンジョンはきちんと残している。付け足しただけだ。
人が住む所も別の階層として作った。
だからだろう、迷宮都市から外に出る人が減って、アドベンチャーラーの人も来るのは。
ただ、今でもネットはこの迷宮都市は賛否が分かれる。
迷宮症候群を信じる者、元々ダンジョンは悪だと決めてる者、そこには様々な人の考えがある。
「さーて、編成考えるか」
大群で、沢山のモンスターを狩れる奴を選ばないと。




