49話 迷宮都市
ルシが入れてくれた紅茶を飲む。美味しいけど、いつ入れたんだろう?
「さて、君の事はなんて呼んだら良いんだね?」
代表として決めていたのだろうか。目の前のおじさんがメインで話してくれる。
ありがたい。複数人相手に話す事は苦手だ。
「お好きにどうぞ。それで、お答えは?」
「ふむ。まず最初に、君は法を犯している事を理解しているのかな? 君だけを特別扱いする事は出来ないぞ?」
「⋯⋯どうでも良いでしょ」
「はい? そもそもまずは顔を見せてくれないか?」
「はぁ。どうして上から目線で話されないといけないの? 今回は対等な立場を求めていたんだけど」
「⋯⋯君こそ理解してるのか? 君は法を」
「だから?」
「いや、だからって」
「こっちは迷宮都市に付いて、YESかはいを聞きたいんだけど。それから、ゲートを動かせなどなど、そちらの条件はあまり応えられないと理解してる貰う」
「ふ、ふざけるな!」
左側の人がドン、と机を叩いて叫んで来る。
こう言う政治的な話は苦手なんだよなぁ。リエがその人を睨んでいる。
俺はそれを手で制す。
「政府が抱えているSSクラスの管理者の全勢力、秘密兵器の能力者チーム、アビリティランチャーのメンバー全員、これらで攻めて来ても、我々は圧倒的な勝利を約束しよう」
「は?」
「まぁ、要するに、我々の戦力はこの日本を簡単に沈める事が可能なレベルって事。それを理解して欲しいね」
「な、何を言って」
「あぁもうめんどくさい。あなた方がネチネチと自分の非を責めて来そうなので、本題に無理矢理入るね? 迷宮都市の考えはどうかな?」
「⋯⋯」
「別に問題ないですよね? アビリティの影響で処刑出来ない極悪人、、あなた方で対処出来ない困った人達」
例えば虐待されている子供やホームレス。生産性のないヒキニート。ただ捕えて牢屋に入れる事しか出来ない人達。
俺は。
「それら全ての人を受け入れます。入居を本気で希望する方を迎え入れます」
「何が目的だ?」
「善意?」
「ふざけているのか?」
「少しは本当ですよ。だって、心の底から困っている人に、あなた方は手をさしのべないではないですか。出来ないだけかもしれませんが。それを我々が補うって言っているだけです」
「何故、ゲートを動かさない?」
「ちょっとした理由がありましてね。詮索は禁止です」
「何故、迷宮症候群を起こした?」
「それはただの濡れ衣ですよ。我々は関与してません」
「君が現れたタイミングと、SSSクラスの管理者、金栗さんが消えたタイミングが同じなのは?」
「偶然ですよ」
「それを信じるとでも?」
「勝手に思っていれば良いでしょう? それよりも、認めてくれますか?」
「⋯⋯国を敵に回す事を問題視してないのに、何故我々の許可を求める?」
「世間体ってのは、必要でしょ? あ、あと。あなた方が人体実験で使った人達、失敗作? 廃人に成った人達もこちらで預かりますよ。殺す必要はないです」
その瞬間、この場の空気が凍りついた。
アビリティの性能を無理矢理上げる人体実験などを政府は裏で行っていた。勿論、一部の人だ。
これらはただの外道だ。人体実験なんて最低な行為だ。
「⋯⋯」
俺は薄らと笑みを浮かべる。
人体実験なんて反吐が出るし、別に潰して良いと思っている。
しかし、その実験で助かった人が居るのは事実なのだ。
アビリティの活性化に寄って病弱の体を治す。その為に犠牲になった人も普通にいる。
その実験体は、それ用に育てた人達。ほんと、反吐が出る。
そして、この場にいる奴らは全員、それ関係者。
「廃人だろうとなんだろうと、きちんと治します」
廃人は精神的問題がある。そして、精神的なモノの治癒は簡単には出来ない。
それを無理矢理治癒出来るのは、本当に神くらいだろう。
しかし、いずれ心にゆとりが出来れば治るかもしれない。
その場を俺らは提供する。だって、可哀想だろ。
実験の為に生まれ、そして捨てられる。
「どこまで知っている? 何故、知っている?」
怒りを抑えるような顔をする。分かりやすい。
「まぁ、色々と?」
日本全域に俺らの手は回っている。
俺の前で堂々と会議が始まる。ルシの紅茶を飲んで落ち着く。
ルシに味覚があるのか分からないが、良く美味しい紅茶が作れるモノだ。
左側からリエがクッキーを出して来る。
「私が作りました。食べてみてください」
「あ、うん。ありがとう。⋯⋯美味いよ」
「ありがとうございます」
「紅茶のおかわりを入れますね」
「ありがとう」
「こっちのクッキーもどうですか?」
「コーヒーも入れますね」
「二人とも落ち着こ?」
後ろで睨み合っている二人に苦笑いを浮かべながら、政府の応えを待つ。
一時間後。
会議って長いね。
紅茶、四杯目だよ全く。クッキーでお腹いっぱい。
「認めよう。だが、条件がある」
「使者ですか?」
「アイテムだ。SSSクラスで生成出来るアイテムを流して貰う」
「ふむ。では、こんなのはどうですか?」
俺は最高のアイテムを取り出した。
それは透明のアビリティオーブだった。
ポーションや武器は作成するモンスターがおり、ダンジョンエナジーを使ってない。
しかし、アビリティオーブはエナジーじゃないと作れない。
そして、このアビリティオーブは『空』。
「これは、なんですか?」
「アビリティに耐えれる体にするアビリティです」
政府の皆様が驚きの顔をする。
適正があっても、最初にアビリティが神から与えられないと、他のアビリティに体が耐えれず死ぬ。
人体実験を繰り返しても、無能力者に無理矢理アビリティを入れる事は出来なかった。今でも行っているようだ。
そして、これは簡単には作れない。
体の基礎を作るだけのアビリティは簡単そうに思えて、実は結構難しい。失敗すると体が粉々に成るからね。
さらに、エナジーもそこそこ使う。一般的に見たらかなり使う。
信じ難い皆様。
「試して見てください。これを、政府に、日本に年間10個お渡しします」
無能力者でも素晴らしい戦闘センスがある人はいる。
しかし、アビリティがあるとさらに強くなる。
それを、意図的に出来る。
幼い頃から英才教育を施した殺人鬼にアビリティを施す。それは最高の兵器となる。
「ワシが試そう」
代表さんがアビリティオーブを握り、地面に向けて投げる。
割れると、粉々になったオーブが光になり、代表に吸われる。
「適当に何か試してください」
これで違ったら代表は死ぬ。正しいのなら、代表はアビリティを手にする。その覚悟、俺は嫌いじゃない。
適正なんて分からないので、全種類用意した。どれも最底辺のモノだけどね。
結果は当然、成功だ。
「これが、魔法」
代表は驚いているようだ。しかし、こんな所で火を扱うのはどうかと思う。
「さて、誓約書をこちらで用意しました」
内容は簡易的。
こっちは空のアビリティオーブを年間十個与える。
相手はこっちに東京タワー入口のゲートを認め、そして日本の中の町、『迷宮都市』を認める。
その他省略。
入居者はこちらで選別する予定だ。
さて、こっからは宣伝だな。
俺達はこの場を後にする。政府が敵対するなら叩き潰す。
「犯罪者と廃人をゲートに放り込む」
「分かりました。丁重に相手をさせましょう。さーて、この世に絶望して、本当に神にも縋りたい人達を集めるとしましょうか」
俺はいずれ、神になる。そして、これはその為に必要な工程だ。




