41話 ミツルとヤユイ
「くっ!」
ミツルはカマキリのような鎌とトンボのような顔をしたモンスターと戦っていた。
死角の無い相手の視界には空間の歪みがはっきりと見え、ミツルを攻撃していた。
ミツルは自分の特性である透明をフル活用している。
そのせいで、装備品がないのだ。
防御力も攻撃力も下がり、尚且つそれは相手には意味が無い。
マントに仕込んでいたアイテムのスペルカードもマントごと吹き飛ばされている。
ミツルがモンスターに接近して拳を突き出せば、カマキリの鎌に寄って反撃される。
切り傷が浮遊して動くと言う奇妙な光景が出来る。
「ギシシシ。我に死角ない。お前の相手は最適なり」
「気持ち悪い顔しやがって」
ミツルは加速してモンスターに攻撃を仕掛けるが、モンスターは余裕を持って躱し反撃する。
「攻撃がワンパターン。避けて、反撃して、そう言っておるのか?」
「かは!」
モンスターが銀色の斬撃の残像を生み出す速度で鎌を振り回し、ミツルを攻撃する。
防御姿勢を取るが、ミツルはかなりのダメージを受けていた。
ミツルは種族故に気配などが全く無い状態に出来るが、その反面速力以外の身体能力が軒並み低いのだ。
普通の能力者と比べたらモンスターであるミツルの方が圧倒的に高いのは事実だが、モンスター同士で、しかも同じレベルの強さの場合、ミツルは弱い。
「にしても、誓約とは厄介なモノだな。数の暴力すら出来ないのだから」
「うるさい!」
体勢を低くしたミツルがモンスターの懐に入り込み拳をアッパーで突き上げる。
その拳に合わせるようにトンボの顔を上げて躱し、その隙にミツルが突き出した左拳の正拳突きを鎌で防ぐ。
「そもそも我は気になっている事がある。何故諜報員であるお前が選抜された?」
「お前らが私の大切な部下の分体を吸収したからよ! その復讐よ!」
「我欲でわざわざ来たのか⋯⋯まぁ違う奴が居た場合は我は出て来てないがな」
「あんたの主のアビリティチート過ぎるでしょ!」
鎌の拘束な斬撃を躱しながら叫ぶミツル。
せめて武器は拾いたいと思いながらもモンスターからは目を離せない。
「ギシシシ。お前が言うか。魔法を無限に生み出せて使える。しかも詠唱も無くて。そっちの方がチートだろ」
「スペルカード作るにはかなりの体力を使うのよ!」
「ギシシシ! まぁどっちもどっちだな!」
「そう思わないけどね」
鎌と見えない拳がぶつかり合い、火花と轟音を撒き散らす。
しかし、押されているのは間違いなくミツルの方だった。
◇
ヤユイは鞭を扱っているサキュバスと戦っていた。
「うふふ。アタシに飛び道具は効かないわよ?」
ヤユイは高速でハンドガンを放ち、空中に展開しているミニガンを連射していた。
「特別な弾は使わないのかしら?」
「⋯⋯」
「あらあら。無言で連射? なにか言ったらどうなの?」
半透明のシールドがサキュバスを覆い、弾丸を防いでいる。
特別な弾丸を扱える銃は展開するのに時間が掛かる。
ヤユイはあの鞭を警戒していた。
「でも、アタシも飽き飽きしちゃった。あのね、ヤユイちゃん」
「気安く呼ぶなババア」
「大人のお姉さんよ。ガキ」
銃弾が意味ないと思いながらもヤユイはただひたすらに放つ事しか出来なかった。
ヤユイは銃の扱いが天音のダンジョン内で一番上手い。戦闘人工人間の長でもある。
しかし、身体能力は低い方だ。
「あの管理者、雨宮天音君。結構可愛い顔しているわよね」
銃を使いながらもヤユイはピクっと眉を動かし、サキュバスを睨む。
「ああ言う人って、大人の女がタイプなのよ。クールで清楚なタイプ。清楚は無理でも、他はアタシ当てはまっていると思わない」
露出の多い服のサキュバスは色っぽいポーズをとる。
「貴方にはないだろうけど、きっとあの子にアタシが夜這いしたら一瞬で落ちるわよ。あの子は巨乳⋯⋯いや、美乳タイプよ!」
キメ顔でサキュバスはそう告げる。あながち外れてないのが恐怖である。
ヤユイの瞳に怒りが灯る。
「それに比べて貴方は貧乳! まな板よりもまな板!」
指を指して笑うサキュバス。
命の取り合いをしているとは思えない下品な会話。しかし、相手の狙い通りなのかヤユイの照準は少しぶれていた。
さっきまでは全て相手の顔や頭を狙っていたのに、体の方にも弾が行っているのだ。
「きっと貴方は天音君に振り向いて貰えないわね。永遠に主従の関係よ!」
「違う! 天音の名前を貴様が言葉にするな! 別に天音の隣に居ようとは思ってない! 天音の隣には相応しい人が周囲に沢山居る! それに、天音は友達だ! 主であって友だ! 知らねぇババアが口挟むなあああ!」
ヤユイが完全にキレた。
「それに、天音はスリーサイズを気にしない!」
それは魂の籠った言葉だった。
「ヒヒ!」
サキュバスも本気で笑った。
サキュバスの異能は飛び道具を無効にする。
能力は相手の嫉妬に寄って全能力が向上する。
ヤユイは感情を基本的に表に出さない。しかし、ヤユイは感情豊かだ。
かなりの上の立場のヤユイだが、一部からは妹のような存在と成っている。
「死に晒せババア!」
「かかって来いガキ! それにアタシはお前よりも若い!」
事実である。
ヤユイは生まれたから十年、サキュバスは一年である。
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