3話
訓練場で皐月が自分の武器を取り出した。
大剣である。
ウチの鍛冶師の最高傑作の1つでもあったりして、皐月が長年使って、自我が芽生えた魔剣。
対する俺が使うのは刀身が紫色の刀だ。
「じゃ、いつも通り10秒ね」
「はーい。行くよ、ロード!」
互いに地を蹴って接近して武器を振るう。
別に殺す気はないけど、殺す勢いでの戦いだ。
じゃないと訓練に成らない。
正直に言うと、近接戦闘だけで言ったら戦力は皐月の方が上である。
俺から見たら10分かと思える長い時間、しかし外から見たら10秒と言う短い時間での訓練。
神経と集中力を凝縮しての訓練方法である。
紫の閃光と赤い閃光がぶつかり合い、激しい火花を散らす。
そして、10秒経った。
「ハァハァ。流石はロード!」
「はぁーはぁー。いや、毎回思うけど、そんな身の丈クラスの大剣片手で持って良くあんな速く動けるな」
皮肉にしか聞こえない。
そうしていると、秋が飲み物とタオルを持って来てくれる。
俺はそれをありがたく受け取り、汗を吹いて喉を潤す。
「皐月様どうぞ」
「助かる」
皐月もメイドから俺と同じような物を受け取る。
このダンジョンには他にも様々なモンスターが居るけど、基本的に集まる事は無い。
無駄に強い皐月は助け人的な役目で基本的に管理室に居る。
他にも階層守護者、まぁ階層ごとのボスが居る。
これは変わる事が無い。
なので、道中よりもめっちゃ強く感じる場合もある。
昔からこんな感じの訓練を続けていたら、俺は人間のスペックを大きく越えた気がする。
「さて、そろそろ帰るよ」
「左様ですか。では、また明日」
「ロード明日ねぇ!」
「ああ。スペルカード、退室、発動」
入室した所と同じ場所に出て来る。
ダンジョンに入る時と出る用のスペルカードは作っていて正解だったと毎回思う。
「帰るか。スペルカード、帰還、発動」
自宅の前に座標をセットした転移魔法が発動して、俺は家の前に出る。
亜久は部活で家に居らず、母はパートに、父は会社に行っている。
俺の家はマンションの一室である。
「あれ? 天音君おかえりー」
ブフー、え、み、見られてないよね?
転移した所見られてないよね?
俺が能力者だと知っているのは国と役員と家族と千秋だけだ。
あんまりバレたくないんだが⋯⋯問題無さそうだな。
「麻美さん。はい。今帰りです。麻美さんは仕事サボってコンビニですか?」
「言い方に棘があるなぁ〜一休みと言ってくれないか? どうせ1人っしょ? 寄ってく?」
「遠慮しておきます。お酒臭いので」
「ねぇ、毎回思っているけど。天音君って私の事、嫌い?」
「いえ別に」
「にしては言葉に棘が」
「気の所為です」
「そう?」
webデザイナーの仕事を在宅ワークで行っている麻美さん。
フレンドリーな隣の部屋の隣人だ。
俺は家に入り、自分の部屋に入る。
今更だけど、家に誰も居ないなら家の中に転移すりゃあ良かった。
ちなみに出る時に制服に着替えている。
制服を脱いで、私服に着替え、寝る。
寝る事の出来る日常は1番の幸せだと、何処かで聞いた事がある。
翌日、普段のように登校して、2限目の移動教室へと向かっている。
その途中で俺は持っていた筆箱を落としてしまった。
「あ、落としましたよ」
「ゆ、⋯⋯甘百合さん。ありがとうございます」
雪姫に落ちた筆箱を拾って貰い、渡して貰う。
今日はめっちゃツイてる。
ありがとう神様。⋯⋯この場合ってゼウスに感謝するのか他の神様、架空の神に感謝するのか分からんな。
移動を再開すると、隣の千秋がニヤニヤして話しかけて来る。
「良かったね」
「あぁ。これは家宝にしよう」
「貸して」
千秋に筆箱がありえない速度で奪われ、雪姫が触れた箇所を自分の服で拭く。
「な、何してんだよ!」
「いや、こんなん家宝にされたら家族が迷惑でしょ」
「冗談やん」
「ほら、行くよ!」
基本的に俺は千秋とつるんでる時が多い。
だが、勘違いしないで欲しい。俺にだって友達は居る。
居る⋯⋯居るんだぞ!
「お二人さんは相変わずお熱いですね」
「大和やん」
「大和やね」
「何その反応」
大和、俺の友達。
大和は能力者でアビリティは火を生み出す力だった筈。
この3人で移動教室に入った。
席は俺と千秋は離れているが、大和とは隣だ。
「なぁ、お前ら何時になったら付き合うの?」
「はぁ? 俺は甘百合さんが好きなの」
「全く羨ましい奴め。でもさ、甘百合さんも学校では人気だけど、それと同じかそれ以上に千秋も人気なんだぞ?」
「へぇー」
「反応薄!」
「まぁ、俺には関係ないからなぁ」
あぁ、地味に今日初めて雪姫と会話したなぁ。
あれは会話にカウントされないとか言われそうだが、俺からしたら列記とした会話だ。
誰がなんと言うと会話だ。
また、話せると良いな。
そんな事を考えて、明日から夏休みと言う事もあって、今日は全校集会である。
学年事に体育館に集合して、先生の長い話を聞きながら座ると言う苦行を行う時間だ。
そして、全員揃ったその時だった。『それ』が起こったのだ。




