16話 火種
花蓮の部屋は管理室の使用人部屋の1番奥の部屋だった。
中には一通りの物は揃っている。
翌日、今日は何も無いのでゴロゴロしているとラインが届く。
『天音〜』
千秋からだった。
俺は適当に返信していく。
『何』
『一緒に買い物行こー』
『昨日色々あって眠いから無理なり』
『えー! だったら一人で行く!』
『お気をつけて』
『適当だなおい!』
それから数時間、俺はぐっすりと眠った。
寝る前に本当に行かないの? とか、新しいデパートだよ? とか来たけど、行かないと返信した。
特に疲れてないけど、眠いんだ。
すまんな千秋。
起きてから俺は飲み物を飲みながらテレビを付ける。
そこにはニュースが流れており、新しく最近出来た近くのデパートの話だった。
大きなところの新店舗はニュースに取り上げられる事が多い。
それもその一例と思ったが、違うようだった。
ゲートが急遽出現し、辺りの人を吸い込んで行ったらしい。
管理者は出て来ておらず、現在は攻略のアドベンチャーラーを結成しているらしい。
同時に近くの川ではモンスターが出現した。
その2つの関連性は今のところ発見されてないらしい。
俺は急いで家を飛び出した。
「千秋!」
なんやかんやでこれまでずっと共に居た幼馴染だ。
そんな千秋が危険な目に会っていると考えただけで、俺の中で何かが締め付けられたような痛みを感じる。
「スペルカード、フライト、スピードアップムーブメント、発動!」
2枚のスペルカードを発動させて、俺は高速で飛び立ち飛行する。
目指すのは新しく出来たアパートだ。
急がないと、何が起こるか分かったもんじゃない。
確実に大量の人が集まるようなところでダンジョンを開設したんだ。
「クソ! もっと、もっと速く!」
こうなるなら一緒に行けば良かった!
管理者にとって、大量の人がいる場所でダンジョンを開く最大の目的、それはきっと、人間の魂だ。
ダンジョンで人を殺せばその魂は留まり、管理者の物と成る。
魂には様々な使い方がある。
管理者は人を殺さないようにしないといけない。
だが、ニュースで問題にされると言う事は勝手にダンジョンを開いたのだ。
確実に悪意があってやっている。
新しい場所にダンジョン設置場所があるならニュースになんて成らない。
急がないと!
◆
「来たようだね。さぁ。急ぎたまえ。君がどんな絶望を見せてくれるのか、私はとても楽しみだよ」
1人の老人がそう言った。
「この世にSSSクラスは2つも要らない。そろそろ古株には退場して貰うよ。これはその本の僅かなプレゼントだ。雨宮天音君」
◆
デパートに着いた俺は窓ガラスを蹴飛ばして侵入する。
目の前には紫色のゲートがあった。
まさかのSSクラスのダンジョンだった。
俺は躊躇う事なくその中に入った。
ゲート入室付近に人は居なかった。
「スペルカード、サーチ、発動!」
⋯⋯サーチでモンスターは見つける事が出来たけど、肝心の千秋の気配がない。人の気配もだ。
何分前からダンジョンが出来たか知らないけど、急がないと。
俺は仲間を召喚すると言う考えが出ない程に焦っていた。
◆
「はぁはぁ」
私は走っていた。
天音が買い物に付き合ってくれないし、他の友達もみんなダメだった。
そんな中1人寂しくデパートに来た訳なのだが、現在起こっている事は前と同じだった。
どこの誰かは分からないけど、ダンジョンを作ったようだ。
私はそれに巻き込まれた。
それも、私含め沢山の人が巻き込まれて。
混乱したが、私はすぐに冷静になり、逃げ出した。
前と同じならモンスターが人を襲う。
だから、逃げる。
他の人も逃げ延びてくれると嬉しい。
「天音、来てよ」
ただ心細い。
今さらだけど、私の隣にはいつも天音が居てくれた。
誘えば付き合ってくれるし、登下校もいつも一緒。
子供の頃に怖い目にあっても助けてくれて、年上の怖い人達に絡まれても助けてくれた。
私は沢山天音に助けて貰った。
そして、いつしかそれが当たり前に成っていた。
だからだろうか。
今日も、今回もまた天音が助けてくれる、そう思っていた。
たけど、考えれば考える程それはありえないと思い始めた。
ここはダンジョン。今回は天音も巻き込まれた訳じゃない。
今頃攻略チームが組まれている筈だ。
アドベンチャーラーでは無い天音は参加出来ないし、来れない。
私は天音に助けて貰えない。
天音は中学の頃から甘百合雪姫にゾッコンだった。
だが、臆病で話しかける事すらしなかった。
奥手で相手から話しかけてくれるまで話さないタイプ。
だからこそ天音には友達が少ない。
私はずっと天音の最初の友達で良い幼馴染で、隣を歩くと思ってた。
これまでもこれからも。
「あぁ」
だけど、無理だ。
今、私の目の前には大きなトカゲ、ドラゴンが居る。
その体格、見た目の凶暴さ。
私は、ここで死ぬんだ。
「嫌だなぁ」
せめて、天音にありがとうって言いたい。
まだ、終わる訳にはいかない!
私は心に喝を入れて背後に走り出した。
◇
「秋さん」
「なんですか花蓮」
「どうして私ってアビリティオーブが使えたんですか?」
「あぁ。それはさっきのお風呂の時にここに住む決意があると分かったので、ダンジョンエナジーを使って体を能力に耐えれるようにしました。だから使えたんです」
「そんな事に使って良かったんですか?」
「マスターが止めなかったと言う事は良いって事ですよ。それに、それでも全然ありますからねエナジー。あの地獄魔法の方がエナジー消費は激しいです」
(そんな凄い物をポンっと渡してくれたのか⋯⋯)




