余韻
第七話
その愛と呼ばれるもののしるしは
美佳からだった。
どれぐらい抱きしめていただろう
まるで何かに縛りつけられていた物から
解き放たれたごとく二人は強く抱き合っていた。
やがて強く抱きしめていた手は
美佳の頭を優しく撫でて
もう一度優しく口づけをした
そして手を握り、あるき始めた
「美佳、海の方に行こう」
「うん」
(二人は手を握りながら突堤の方へ)
ポーアイ北公園
(駐車場から少しあるくと公園と
突堤がある、ちょうど神戸大橋の南
の端の下にある公園
北側の第四突堤の向かい側にあたる
橋の袂の下では
ダンスやバスケをする若者
釣りをしている人たち
寄り添って座っているカップル
いろんな人たちがいる
「ほら、夜の街が綺麗だろ」
(山から見る神戸の夜景は綺麗だが
海から見る神戸の夜景の方が私は好きだ)
そんな私の好きな場所に美佳と
一緒に来たかった。
「ここから見る夜景が好きなんだ」
美佳と一緒に見れたらなって思ってた」
「ほんとだね、都会のあかりが
すぐ近くにある感じが素敵」
(美佳は自分から口づけをしたのが
恥ずかしくてか心なしか静かだった)
(二人はベンチに腰掛けて)
寄り添って、黙って 夜景や
そこにいる人たちを見ていた。
先程の余韻に浸るのではなく
きっとこれからどうなっていくのだろう
と考えていたのかもしれない。
(いつもの美佳じゃなかった…)
「明日は日曜日だから忙しいね」
「そうだね、平日はお一人で来られる方が多いけど
休日は旦那様やお友達と来られる方が多いし、
雑誌を見て来られる方も多いので」
「大忙しだね」
(私もさっきの余韻のせいか、あまり
会話が続かない)
そんな時、美佳が
「ねぇ、パパは泊まりで出張とかないの?」
「あるよ」
「ユーザーのところの修理に同行したり」
「関東に支社があるし、九州にも営業所があるから
そこに会議に行ったり」
「まぁまぁ、あるかな」
「どうしたの、何かあるの?」
「うん、一緒にお泊りできたらなって」
「そしたら、ゆっくり出来るでしょう」
(てっきりさっきの事を後悔していたのかって
思っていたのだが)
美佳のまさかの提案に驚きがあったが
そこは冷静に
「いいね、何も気にせずお喋りできるし」
(何もというのは旦那様や妻という事で
自分の行いを棚に上げて、本音がでてしまっていた)
「それなら、なんとか考えよ〜」
「そう、そう、美佳さぁ
出張じゃないけど
来週、研修で大阪の本町にいくんだ」
「午前で終わるから、昼から空いてるけど、
会えるかな?仕事かな?」
(図々しくも、私は不倫という事を忘れて
普通のカップルの様に喋ってしまっていた)
(ただ、私以上に美佳は気にしていなかった)
「金曜日はお店だね、けど、少しなら
お店を抜けれるから帰りに連絡して、
岡本駅降りたところに
喫茶店があるから、そこでお茶しよう」
(たとえ1分でも会いたかったので)
美佳の言葉は嬉しかった。
「うん!いいよ、帰り岡本駅で降りるね
楽しみだね、仕事中の美佳も見れるね」
(時計をみて)
(気がつけば、あと30分ぐらいになって
いた)
「そろそろ帰ろうか?」
「家まで30分ぐらいだよね」
(美佳も時計を見ながら)
「ほんとだね、あっという間だね」
気まずい雰囲気も少しあったが
あっという間の2時間だった。
「そしたら、帰ろうと、二人は車に乗った」
「車を走らせながら、岡本の方だよね」
て美佳に聞くと
「その手前の魚崎のあたりだよ」
「私が案内するね」
当時はナビゲーションは高価なもので
当然、私の車には装備していなかった。
コミュニケーションとして
そこ右、つぎ左とか言うのもなかなか
よかった時代だった。
すこし迷いながらも家の近くについた。
「そこに見えている道を入って次を右にいくと
美佳の住んでいるマンションがあるの
そこの1階、」「マンションはそこしかないし
入り口から2番目だからすぐ分かるよ」
「車は通れるけど、本当に狭いので
歩くからここでいいよ」
「それと、ほら(右側の契約駐車場を指差し)
あそこの駐車場の手前から3番目の
ス○ル○ガシーがケンちゃんの車」
「今は止まってるからお家にいるね」
(えっ?内心、出てこないか?不安になって
しまった、そうだ旦那様がいた事を忘れていた)
(美佳は平気な顔で)
「なので、よろしくね」
「それじゃ、おやすみなさい」
(車を出て見送るところを万が一
見られるとよくないと思い)
(そのまま)
(おやすみなさい)
美佳は車を出て僕の方にまわり
「明日、午前中空いてる?」
「う、うん大丈夫」
(日曜日予定はわからなかったが
午前中ぐらいだったらなんとかなると思った)
「そしたら、明日の朝8時にここに来れる?」
「うん、来れるよ」
「そしたらお願いね」
「美味しい紅茶を飲ましてあげる
今日本社でもらったんだ」
「それじゃね〜おやすみなさい」
(なんのことだかさっぱりわからないまま、
美佳は帰っていった)
この時、私は続けて起きる事が理解できなかった
同時に不安を抱えていく事になる
準備もまだ出来ていなかった。