突然の恋
第六話
お店は土曜日の夜という事で
沢山のお客さま、ファミリーや
カップルで賑わっていた。
その喧騒らしきもので
逆に緊張が和らいでいた。
レストランは明るく
まして、前に美佳がいるので
しっかり顔が見れるのだか
あまり、マジマジと見れなかった
うつむきかげんで話しをするのも
失礼なので、しかし照れもあるし
そのせいか、話しも電話みたいに
スムーズにできなかった。
けれど、やっぱり美佳はいつもと
同じペースで明るく、楽しく
ずっと前から一緒に居たかのように
ハイペースで喋ってきた。
こういう美佳は本当に助かる
というか、僕にはとても合う。
私は自分から積極的に喋る方ではない
かといって、つまらない奴だとも
思っていないが
私の静かなペースに美佳はいい感じで
来てくれるから、いつも心地よかった。
「美佳、ミーティングはどうだった?」
(そうそう、言い忘れていたが
美佳と呼ぶようになったのは、
美佳の私の敬語を使わない練習で
美佳さんから美佳にしなさい!と
言われたからだ、今は自然に美佳だが)
(今日は初めて会ったのでついつい
美佳さんと呼んでしまいそうな気持ちだった)
「うん、秋冬物の打合せをしたの
どうやってプレゼンしていこうとか」
「お店によってね、やる事がちがうので
それの確認とか」
「一番の、推しはどうお客さまに••
美佳が一生懸命話してくれているのだが
私は話しを聞いているようで
美佳の顔をずっと眺めていた。
美佳の顔を論評する気はないが
ストレートに言うと、大好きな
タイプな顔だった。
よく、芸能人でいうと○○さんが好き
かな、なんて言うが
本当に当時好きだったアイドルに
どこか似ていた。
他の人が見たら「ぜんぜん」
というだろうが
私にはそのようにしか見えなかった。が
理想と現実が区別つかなくなっていたのかも
しれない
恋に恋していたのかもしれない。
ウェイターさんが
コーヒーを持ってきてくれていた
「お腹いっぱいだね」
「パパはどう?あまりパンを食べてなかったけど
足りてた?」
「うん、もうじゅうぶん、美味しかったよ」
私はコーヒーを飲みながら
「美佳は時間大丈夫?もう帰らないと
いけないんじゃないの?」
(美佳は少し怒った顔で)
「そんなに帰したいの?」
「初めて会ったんだよ、もっとお話をしようよ」
「いいよ、ドライブでもしてどこかでお喋りしよう」
「うん、そうしよう」
(美佳はよく「うん」を使うが
とても上手に使い分ける)
楽しいときの「うん」
甘えているときの「うん」
怒ったときの「うん」
つまんないときの「うん」
すねたときの「うん」
など、まだ色々使いこなして?いる。
たぶん使いこなしているのではなく
自然と感情が言葉に出てきているのだろう。
「それなら何時ぐらいまでなら大丈夫?」
「2時間ぐらいは大丈夫」
「ケンちゃんにはミーティングのあと
に食事に行ったて言うから」
「そしたら日付が変わる前に送るね」
家の事もそうだが、美佳は明日も仕事だから
気にしてあげないといけない。
「2時間ならあそこにしよう」
「どこ?ホテル?デートだもんね」
急にそんな事をいう美佳は
ほんとうにわからない時がある
「そう、そう、2時間だったら休憩
バッチリ、ってバーカ」
「冗談いうんじゃないの••」
「うん」
今の「うん」はどれだったんだ?
わからなかったぞ
「夜景が綺麗なとこがいいね」
「うん、いいね」
車はハーバーハイウェイに入り
神戸大橋を渡った
「パパ、綺麗だね、すごく綺麗」
といいながら
微睡んでいるように見えた
(疲れたんだろう)
(起こさないように小さな声で)
「うん、今からのところも綺麗だよ」
神戸大橋を渡った交差点を右に入り
私はポートアイランド北公園の駐車場
に車を駐めた。
(このまま寝かせてあげたかったから
ものすごく小さな声で)
「さあ、着いたよ」
「は〜い、起きてますよ
ごめんちょっと寝てたネ」
私は降りて
助手席側に回ってドアをあけた。
「ここは?」
「ポーアイの北公園」だよ
「夜景がきれいだから見に行こう」
さぁ、と手を差し伸べて美佳の手を握った。
彼女をぐっと引き寄せたとき
美佳は私に寄りかかり
両手で私の顔を引き寄せキスをしてきた。
(まだ寝ぼけているのか?いや違った)
「パパ、好き」「ほんとうに好き」「会いたかった」
美佳は強く抱きしめてきた
私も美佳を強く抱きしめていた、
そして優しくも激しく口づけをしていた
さっき初めて会った二人なのに長年
愛し合ってきたかのような激しい口づけをしていた
感情をコントロールできずに
口づけしながら強く強く美佳を抱きしめていた。
言葉は出なかった、いや出せなかった。
ただ心は「大好きだ!」と叫んでいた。
二人はこの日を境に誰にも認めてもらえない
恋に陥るが、それが嵐のように
数奇な運命に翻弄されていく事になる。