緊張
第二話
今日の彼女は前とは違って明るい。
逆にこちらはぎこちない、なぜか不自然な
敬語が恥ずかしかった。
「今お仕事中ですよね、大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫ですよ、今の時間はあまり
お客様は来られませんし、
ほとんどが常連さんなので…
それと今はお昼の時間ですしね」と
「そうなんですか?」
といいながらも全然緊張がとけてはなかった。
この前はちゃんとたのしく出来ていたのに
これじゃ美佳さんに嫌われてしまうじゃないか
ヤバイんじゃない?と焦るだけで
話せば、話すだけ空回りしていた。
リアルに声が聞こえていると彼女が
目の前に居ると思い錯覚して
緊張をするのだろうか?
勝手に身近な存在に
感じてしまっているのだろうか?
それとも、すでに次は会えるのかな
なんて期待をしてしまってるのだろうか?
いや、俺はまだそこまで勘違いする
バカではないはず。
とにかく早く自然にしゃべらなければ
嫌われて、次は無いなって感じていたのは事実だ。
「アパレル関係の仕事でしたね
接客だと、色々大変ですじゃないですか?」
(何を聞いてるだ、色々てなんだよ!)
(もっと具体的に言えよ!)
それでも美佳は優しく答えてくれた。
「はい、今は販売をしていますけど
本当はデザイナー志望なんですよ」
「会社は製造、販売なので
本社にはデザイナーさんがいますから
いつかはわたしもそこで仕事をしたいな~
なんて思っています」
「それとね、ここでお仕事しているのはね
学生の時に、ここのお洋服のデザインを見て
ものすごく素敵だったので
こんな洋服を作りたいって思って
ここで働かして下さい‼と直に社長に
会いにいって、直談判したの」
「すごいですね、行動力ありますね」
(いきなり)
「ずっと敬語なんですね
わたしの話しはつまらない?」
やっぱり気づかれていた!どうしよう⁈
電話だから見られてはいないが
私の顔は真っ赤になり
額から滝のように汗が流れ落ち
それが伝わったのか
気まずい雰囲気になってしまった。
こんな時は下手に取り繕うより
正直にいうべきだろうと。
「ごめんなさい、めちゃめちゃ緊張しているので
なぜか敬語になってしまいます」
「ほら、また敬語だよ」
(けど、急になれなれしくも出来ないし)
「けど、フランクなしゃべり方は苦手なので
慣れたとしてもあまり敬語は減らないかもです」
確かに緊張もあるけど、私は普段からあまり
フランクな しゃべり方はしないほうだ。
人見知りするし、照れ屋だし
本当に心を開けれる人はほとんど居なかった。
「仕方ないね、その内慣れてくれるわよね」
「たぶん・・そのうちをまた頂けるのでしたら」
「アハハ!上手ですね、その言い方はいい!
頂けますよ!」
「真さんは、まじめだけどたまに面白い方ですね」
「B型なので実際はお調子者です」
「私はAB型・・どうなんだろうBとは相性
いいのかかな?」
こんな、たわいもない会話ではじめての
電話は終わっていた。
それじゃ、「さようなら」って切った後に
「またベルで鳴らしてねって」
言うのを忘れていた、「しまった!」
けど「頂けますよ」って・・言ってたな
からかわれたのかな? 次はあるのかな?と
いろいろ考えながら、思いながら帰っていた…
私はこの時次に核心に触れる
話題になるとは思っていなかった。
今なら、簡単にスマホでおしゃべりできるけれど
当時はこんな感じで、私は公衆電話、
美佳はお店の電話で不便だったが
便利なものがなかったから、比べる物もなく
不便だとは感じなかった。
楽しく話しができるだけで二人は幸せだった。