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行きはよいよい帰りは怖い

 

「そっち行ったぞー」

「りょ」


  振り下ろされる拳を避けて、腕の上に乗るとそのまま駆け上がる。こいつの基本攻撃は両手両足のみ、そして……首はほかの箇所より柔らかいっ!


「あっ、蝙蝠行ったぞ」

「おう」


  自分よりも一回りも二回りも大きい鬼もどきを切り捨てる。さて、あっちはどうかなと視線を向けると、クソ上司がでっかい蝙蝠を叩き落とすところだった。


「ふぅ。これで一旦は一段落……だよな?」

「多分な。つーか、ここ数日ずっとこんなんだぞ……」


  何日も間戦い続け、この辺にいる魔物の攻撃パターンが、無意識的に分かってしまうところまで来てしまった。


「これ、キリがないな。倒しても倒しても現れやがる」

「よしクソ野郎。囮として遠くへ行け」

「ははは、クソ上司。お前がやれ」


  一旦距離をとるべく走りながら、憎まれ口を叩き合う。さすがに本気では言ってないだろうが、様式美としてそう返してやる。……え、本気じゃないよね?

  攻撃パターンも分かって、初めと比べりゃだいぶ楽になったものの、蓄積疲労は消えない。このままいけばジリ貧で、いつかどっちかやられることになるだろう。片方がやられりゃ、均衡は崩れてもう片方もやられることになる。


「片方が洞穴でも作って休むか……」

「そんな時間ねぇだろ」


  ぶつぶつとどうにか休養をとれないかと思案するクソ上司に、そう言葉を投げかける。


「つっても、これ以上戦い続けても持たねえだろ」

「ぐ……」


  分かってはいる。分かってはいるのだが、タイムミリットが近いのだ。ここまで来るのにおよそ五日。ちなみにサンミドルから魔王城までは三日なので、移動だけでも十三日も必要となる。となれば、準備、秀一を探す時間を十七日で終わらせなければならない。

  だというのに、もうここに来て四日。秀一の影さえも見当たらない。


「一回、レイ達と合流するべきか……?」


  情報を交換をすることで見えてくることもあるはずだ。きっと、おそらく、多分。……もしかしたら、既に秀一を見つけていて合流できないだけかもしれない――


「うわっ!?」


  風を切る音が聞こえてきて、反射的にかがみ込む。頭の上を剣が通り過ぎた。


「クソ上司っ!」

「あん? 何やって……ん、だ……」


  面倒そうに振り返ったクソ上司の動きが、目を大きく見開いて固まった。おい、何やってんだ。


「おうおう。いきなり首狙ってくるとかどういう了見……だ……!?」


  振り返って、襲いかかってきたやつの顔を見てやろうと見上げると、そこには割と見覚えのある顔があった。


「秀一……」


  俺がそう呼びかけてみるも、反応はない。というか、今殺そうとしてきた? 結構際どい攻撃だったけど……。


「……ああ、ごめんね。手が滑っちゃった」


  記憶にある通りの爽やかな笑顔を浮かべて、そう弁明してくる。それと同時に、彼の後ろから複数の足音が聞こえてきた。


「おー、サトウじゃねぇの」


  振り返るとレイに真緒、シモン、ルノーがこちらに来ていた。クソ上司は兄の顔を見るやいなや、パァっと顔を明るくした。


「兄ちゃん!」

「おう。無事かァ」

「うん、らくしょーだよ!!」


  ついさっきまで死にかけた目で戦ってたのは言わないでおこう……。温かい目で見守っていると、クソ上司がシモンに抱きついた。


「ちょ、おい、力入り過ぎてねェ? あ、だから力入れんじゃ……痛ェ! 痛てェから!!」


  眼福眼福……合掌。

 

「秀一、ちょい頼みがあるんだが」

「ああ。それならもう聞いたよ。もちろん力になるさ」


  にっこり笑ってそう返してくれる。うんうん、お前ならそう返してくれると思ってた。あとなんでシモンくんはこちら睨んできてるんですかねぇ?


「ただ、そのためには早くここから出ないと」

「ああ、確かに」


  今のところ魔物は寄ってきていないが、いつ襲いかかってきていてもおかしくない。


「じゃあ、もう帰るってことでいいか?」

「おっけー!」

「え……あ、うん」


  明るく振る舞う真緒とは対照的に、レイは何事か考えているのかぼーっとしていて反応が遅れた。とりあえずは、目的は達成したのでここから出るため移動することに。……シモンモンク兄妹は無視でいいかな。


「おいこら、何無視しようとしてんだよォ」

「あ、やっと解放された」

「うるせェ」


  からかい混じりにそう言ってやると、恨みの籠った視線を送ってくる。……いや、そんな目で見られても抱きついたの俺じゃねぇし。煽っただけだし。


「……あー、そういや、よ」


  ガリガリと頭を搔くと、シモンは言いづらそうに淀みながら口を開いた。


「ん、どうしたよ」


  その珍しい様子に、目を丸くして聞き返す。だが、彼はちらりと俺の後ろを見ると黙り込んでしまった。後ろになんかあるのか? ……秀一ぐらいしかいねぇぞ。


「あー、いやなんでもねェ。気にすんな」


  聞いてきたくせに途中で止められると、逆になんて聞こうとしてたのか気になってしまう。けれどもシモンの反応が反応なだけに、言及するのもはばかられた。


  しばらく誰も口を開かない時間が過ぎる。どのぐらい歩いだろうか。もうかれこれ二三時間は歩き続けているはずなのだが、なかなか外に辿り着かない。いやまあ、数日適当とはいえ進んだんだし、そうすぐには出れるはずないのも重々承知だが……。


「そういえばよ、なんで秀一はここにずっといたんだ?」


  沈黙で歩き続けるのもどうかと思ったので、なにか話題のきっかけになればとそう話しかける。


「ん、ああ。まあすぐに分かるよ」


  首だけで後ろを振り返って、そう返してくる。すぐにわかるってなんだよ、と思っていると唐突に地面が揺れだした。


「地響き!?」

「魔物の大群でもいんのか!?」


  辺りを見回してみるが、それらしき魔物もいない。単なる地震か? ……いや、違う。いる。


  不意に地面を見下ろした瞬間、それは見えた。地面の色と同化して、固さも地面とほとんど変わらない。けれど、確実に地面ではなく生物がそこにいた。

  地面が、否、地面だと思っていて踏んでいた生物が起き上がる。


「行きはよいよい帰りは怖い。……ここから抜け出そうとすると、現れるんだよ。こいつが」


  唯一落ち着いていた秀一が、おもむろに口を開いた。そして、せりあがってくるそれを眺めながら言葉を紡いだ。


「クラーケン」


  秀一によってクラーケンと名付けられた魔物が、この場に姿を現した。


  タコは空飛ばねぇよ!!


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