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準決勝

 


  超至近距離で剣を振るい、受け止めを繰り返す。相手にスキルを使わせる暇を作らないよう、互いに攻撃の手を休めず戦い続けていた。


「しっ……!」


  わざと大きく剣を振って、御幸との距離をとる。


「結構体力持つな」

「ここ数年遊んでたつもりは無いからね」


  からかうような口調で褒めてやると、ふっと笑って受け流された。


「じゃあちょっち新技見せてやる」


  そう言うと、中段に構えて気を木刀に纏うように練る。何かすると直感した御幸が突っ込んでくるが、それよりも早く剣を降った。


「『太刀筋』っ!」


  反射的に剣を前にしてガードした御幸の体が、宙に舞う。観衆がどよめくのを尻目に、にやにやとからかう様に声をかける。


「どうよ、この技。真緒が言ってた技を俺流に改良した」

「元の技を知らないからなんとも言えないね……」


  騎士隊服についた砂を払いながら立ち上がる御幸。

  この技は、真緒の記憶を元に真似ることが出来ないかと模索して完成した技である。まあ、真緒曰く本物はもっと凄いとのことだが。


「ところで今追撃しなくてよかったのかい?」

「なに、一度見逃してくれた貸しを返しただけだ」

「つまり二度目はないと」

「そういう事だ」


  実践で使うのは初めてだから、使用感を確かめたかったってのもあるが。このぐらいの威力かつ、魔力消費量を考えるといい感じのお手軽技だな。


  うんうんと頷いていると、早速さっきの仕返しとばかりに御幸がこちらへ距離を詰めてきた。

  懐に潜り込まれたその一瞬、氷塊の欠片を生成して至近距離で放ってきた。それをモロにくらい、俺は空中に吹っ飛ばされる。

  身体をねじり体勢を整え軽やかに着地を成功させる。しかしそれと同時に、さっき同様懐に潜り込んできた。


「二度も同じ手に乗るか……よ!」


  強引に木刀を振り下ろし、御幸に距離を取らせる。そして次の手が来る前にこちらから距離を詰めた。

  姿勢を低くして横に剣を振るうも、御幸はそれを峰に当てて受け流す。そしてお返しとばかりに剣を突いてきたのを、軽く左へ体を動かし回避する。

  今度はこちらが懐へ潜り込み、『螺旋』で投げ飛ばそうと試みるが、体が宙に舞い回転するのに合わせて首を狙ってきたので技を無理やり中断した。

  ここで一度距離が出来たので、互いにふぅっと一息つく。


「はっ、そろそろ疲れが溜まってきたんじゃねえのか?」

「それはこちらのセリフだよ。僕は鍛えてるから大丈夫だけど、貴方はどうなんだい?」

「これぐらいよゆーだっての」


  強がりそうは言ってみせるものの、かなり息が上がってきてこれ以上続くと集中力が切れる可能性がある。そうなっては、確実に勝てない。となると、短期決戦を目指すべきか。

  一瞬でも隙が出来たら畳かけようと、彼の一挙手一投足に意識を向ける。だが、御幸は攻撃を仕掛けようとも隙を見せることもなく、ただただ構えたまま固まっていた。


「どうし――」

「本当に、変わってないね」


  俺の言葉を遮って、御幸はそう言った。


「なんだよ急に」

「あんなことがあって、それでみんながバラバラになった。バラバラになって、それぞれがそれぞれの形で変わっていった」


  そう言いながら、俺の姿を映し出す瞳は憐れんでいるかのようであった。


「普通は変わるもんなんです。同じ痛みを味わいたくないから、自身を守るために変わるんです。でも、貴方は――」


  その瞳が、声音が、無性に俺の神経を逆撫でした。


「『太刀筋』」


  それ以上は言わせないと技を繰り出し、牽制する。そして不意の攻撃に怯んだ隙に懐に潜り込み――木刀を手放した。


「『発勁』っ!」

「ぐぅっ!?」


  拳が勢いよく腹部にめり込んだ。

  御幸は少しだけ体が宙に浮いて、膝から倒れ込む。


「変わる変わらないのは、どっちが悪いとかはないって何回言えば……」

「――僕がもっと強かったら、力があったら彼女が死ぬことは無かった!」


  地面を凝視して彼はそう言った。


「だから変わった。だから、変わったのに……」


  弱々しい彼の姿を見て、俺はつくづく不安定な人だとそう思った。記憶の中でも、彼は幹部の中で精神的に不安定だった。

  感情が昂り、言葉を吐露し続けてしまう。今、彼はそんな状態なのだ。


「貴方は本当に変わってない。強がって、前に出て、本当のことを話さない。彼女も、そうだった……」


  きっと彼は、皆と一緒に居ることで自己を保っていられたのだと思う。それがバラバラになって一人になり、不安定さが増してしまった。

  今話していることは、ずっと誰かに吐き出したくて、吐き出せなかった事なのだろう。

  本当に彼と過ごしたことの無い、俺には何を言うのが正解なのかは分からない。けれど――


「バカかお前。強がってたのも、前に出てたのも、本当のことを話さなかったのも、お前じゃねえか」

「え……」


  そんなはずは無いと、顔を上げて目で訴えかけてくる。


「一番空気を読んでいていたのはお前だってこと、皆知ってる。強がってたのもな。いつも無理をしてたのに、もっと強かったらなんて言うなよ」

「でも、それでも、まだ力をつけることは出来たはずなんだ。本当は、もっと……!」

「もっともっとうるせえよ」


  軽く頭を叩いて黙らせる。

  この手の問題は、自分自身で納得するしか解決出来ない。例え外からなんと言われようと、自分が納得することが出来なければ自分を責め続ける。


「昔の自分のこと、嫌いなのか?」

「……嫌い、だ」

「じゃあ、今の自分は?」

「……」


  彼はその問いに答えない。けれど、時には答えないことこそが回答になることもある。


「これは俺とお前の意地の張り合いだ。お前が、変わった自分を肯定できないんなら、最初っから俺の勝ちになる」


  これは屁理屈なのだろうと、言っていて自分でもそう思う。理屈を弄ってねじ曲げて、都合のいいように改変している。


「……それに、全く変わらない奴なんていないよ」


  声のトーンを一段上げて、ニヤリとニヒルに笑ってみせる。


「俺だって、変わったんだ。ここ一年ぐらいでだけどな」


  この旅をしていて、何度も変わってないと言われたことがある。けれど、今ならそれを否定出来る。進みたい道も見えて、やるべき使命も手に入れた。きっと、昔の自分とは似て非なる存在なのだろう。


「パッと見で分からんだろうけど、変わるってのは外を取り繕うってもんでもねえだろ。変えちゃあダメなところも、変えたいと思うところも、最初っから、」


  腕を強引に引っ張って、立ち上がらせる。突然の事でよろける御幸を支えながら、軽く拳で御幸の胸を叩いてやる。


「ここだろうが」


  これ以上は、俺が出来ることはない。そもそもとして、出来ることがあまりなかったのもあるが、これ以上他人が関わると本人にとって良い結果にはならないだろう。あとは、御幸がどう解釈してどう納得するかにかかっているが……。


「そうか……うん、そうだね」


  その時、初めて目が合った。


「どうした? 納得出来たのか?」

「僕なりの解釈となるがね」


  意地の悪い笑みで問うてみると、ふふんと笑って返される。その姿は、今までと違い不安定ながらも芯が通ってるように見えた。


「……なら、どうする。意地の張り合い、続けるか?」

「もちろん。変わった僕も、僕は肯定するからね」


  声は聞こえていないだろうが、俺たちの突然止まったり話し合ったりといった奇行に、困惑している観衆実況たち。時間的にも、そろそろ決着をつけた方がいい時間帯だ。


「知ってるか? 男の意地の張り合いは、古来より拳と拳で語り合うもんなんだぜ」

「殴り合いは得意ではないけど、乗った」


  互いに視線をぶつけ合い、ニヤリと笑うとほぼ同時に殴りかかった。



  歓声と実況の声を右耳から左耳へと聞き流し、俺は澄み渡るほど青い空を見上げていた。

  火照った頬を風が撫で、ヒンヤリとした気持ちよさに目を瞑る。


「なあ、一つ聞いてもいいか?」

「なんだい?」


  空に向けて声を上げると、それを拾って言葉が投げ返されてくる。隣に横たわる人物の姿を見ないように意識して、あの時と同じ問いかけを投げかけた。


「お前は何になりたい?」


  そう問いかけると、ふっと小さく笑う音がして――


『準決勝を制したのは、《氷結の騎士》ミユキーー!!』


  実況の声と同時に、歓声が一際大きく聞こえてきた。


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