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目的もなく、ただ彷徨う


「あーづーいー」


背後から鬱陶しい声が聞こえてくる。

この暑さの中で、暑い暑いと連呼されると、なんとなくもっと暑くなったような気がしてしまう。


「ちょっと休憩しましょーよー……」

「うるせぇ……」


またしても背後から鬱陶しい声が聞こえてきた。

それに苛立たしげに返すと、むっと背中に体重をかけられる。そう、俺は今、絶賛荷物とレイの二人を運んでいるのだ。

いや、この場合レイはお荷物になってるから一括りにしても大丈夫か……?


「重い……」

「はははー、ちょっと聞こえなかった……なっ!」

「痛い痛い痛い! ギブギブギブーっ!!」


背後から首を絞められる。

あの、ちょっ、めっちゃ苦しいのと、背中にその……当たってるので……!


「女の子に重いなんて言ったらダメだよ、サトウさん」

「はあ……。なら降りてくれませんかね? そしたら、互いにとってもいいと思うんだけど」

「えー、ほら、暑いじゃん」

「いや知らんよそんなの……」


なんかこの子、最近距離が近くない……? いやまあ良いんだけどさ。

旅に出たあの日から、少しだけ俺たちの関係は近づいたような気がする。まあ、レイの俺への態度に遠慮がなくなったという変化なので、一概にいいとは言いづらいけども。


「ってか俺、お前の荷物も持ってんだけど……」

「あー、なんか眠くなってきたー」

「おいこら寝るな逃げるな、自分の足で歩きやがれ」


ゆさゆさの揺さぶってみるが返事はない。なんなら絶対に起きてなるものかという意思すら感じる。


俺たちは、西の街へ向かって歩いていた。特に目的なんかはない。ただ、レイの故郷が西の方にあるらしいので、一応そちらに向かっているのだ。

ただ、ここからあとどのくらいかかるのかとか、距離が一切分からないのは不安だけども。

え、これガチでやばくね? なんかやばい。何がやばいって、俺はともかくレイがやばい(語彙力)。


「暑いし……ここしばらくずっと歩いてるし、人どころか馬車や竜車も通りはしないし……」

「……なーにぶつぶつ言ってるんですか?」

「将来を思って絶望してるだけ」

「……多分、それ先に絶望するのは私だと思うんだけど」


おお、さすが。しかし、こればっかりは気づかない方が良かったような気がする。一応、食料水はまだあるが、どのくらいかかるかも分からないので不安だ。誰だよ、こんなに無計画に旅始めたやつ……俺じゃねぇか。


と、そんな時遠目にきらりと光る何かが見えた。


「ん……ありゃあ……?」


目を凝らしてみると、水が、キラキラと輝いていた。あの大きさ的には……。


「池……? いや、湖か!」

「え……なに……?」


お前……本気で寝てたのか。ちょっと待って、なんか背中に湿った感触あるけど、まさか涎とか垂らしてないよな? な?

「湖だよ! 水だ、魚がいるかもしれんぞ!!」

「なるほど……今の現状を打開するチャンスという訳ですな」


ふんふんと頷いている気がするレイの反応に、俺も軽く頷きを返す。これで、当面の食料飲料の問題は解決……のはずだ。


「というか、湖って魚いるもんなんですかね?」

「……さあ?」


というか、湖と池の違いも全然わからん。何が違うの? 透明度とか?


「まあ、いると仮定して……どうやって取ろうか」

「釣竿作るか?」

「作れるの?」

「いや、作り方知らん」

「ダメじゃん」


困った……本当に困った。

そんなことを話していると、湖に到着した。


「着いたから降ろすぞ」

「うむ、大儀であった」

「一気に落としていいか?」

「冗談だから」


カラカラと笑うレイをジト目で睨みつける。

こいつ、楽しやがって……。

まあいい。と、首を横に振って思考を切り替える。これからどうするかを考えるのが先決だ。

うんうん唸って考え込んでいると、ちょんちょんっと肩をつつかれた。


「え、なに……?」

「ナイフ持ってます?」

「あー、投げナイフと小刀を何本か持ってっぞ」


ゴソゴソと荷物から目的のものを探し出す。


「よーし、持ってるね。それじゃ……!」

「えっ、なに……ちょっ、ほんとに何!?」


何故か担ぎあげられる俺。

え、何この状況。生贄か? 俺もしかして生贄なのか?


「ふっふっふっ、素潜りって言葉、知ってる?」

「え、そりゃ知ってるけど……まさか……!!」

「そっ、君ならいけるでしょ」

「いや待て、確か素潜りはなんか道具とか使ってるんじゃないのか?」

「いけるいける」

「えっ、ちょまっ、本気で投げるの!?」


いけるいけるじゃねぇ!! ってか、ほんと待って、まだ心の準備と装備の準備が!


「うおりゃあぁぁぁ!!」

「いやあぁぁぁぁぁ!!」


大きな音を立てて水面に叩きつけられた。

いや、冷たい! あと割と深い!!


「じゃっ、頑張ってねー。私は……ふわぁ、お昼寝してくるから」


ひらひらと手を振って木陰へと歩いていくレイ。

ちくしょう! 覚えてろよ!!


☆ ☆ ☆


「うわー、大量だねぇ」

「はっはっはっ……さぶっ」



肩を抱いて小さく震える。さすがに疲れたな。


「というか、よくこんなに捕まえたねー。どーやったんですか?」

「なんかこう、ぐるっとしてガっと掴んだ」

「んー……分からないなぁ……」


はてと首を傾げるレイ。

説明が下手なのか、単純に理解力がレイにはないのか……。きっと後者だな。うん、俺の中では後者だということにしておこう。


「それじゃあ、この魚焼いて食べよー」


テキパキと薪に火をつけていく。

あれ、薪なんてあったっけ……?


「もしかして薪集めてくれてたのか……?」

「え? いや、普通に昨日とか一昨日とかの焚き火で使った薪の余りを集めてただけだけど」

「あっ、なるほど」


少しだけ感心したのだが、まあレイだしこんなもんだろ。

と、うんうん頷いていると、焼く準備が整ったらしい、レイが俺を呼んだ。


「じゃあ食べましょー」

「おう」


……にしても、めっちゃ寒い……。


☆ ☆ ☆


湖にて魚をとってから数時間後、歩いていると遂に街を囲む防壁が見えてきた。


「おー、やっと着いた……」


疲れた……本っ当に疲れた……。

ふぅっと息を吐くと、隣を歩くレイへと視線を向ける。


「なんとか着いたな」

「……」


声をかけてみるが反応がない。

まあ、奴隷だったってこともあり、もしかしたら不安なのかもしれない。人間のいる場所へ行くことが。


「だいじょう――」

「ねえ、サトウさんは指名手配されてる可能性があるけど、大丈夫なの?」


…………。


「……忘れてた」

「何かで顔を隠していた方がいいかも……」


そう呟くと、レイは荷物を漁って木で作られたバケツを取り出した。


「どうぞ」

「いや、どうぞって……。これ、前見えないと思うんだけど……」

「未来が見えないんですから、大丈夫だよ」

「いや何それ……」


とにかく、それはいらない。前見えないし、普通に不審者じゃん、見た目。


「あー、いいから。俺にはこれがある」


今度は俺が荷物を漁って目的のものを取り出す。それを見てレイは、はてと小首を傾げる。


「え、これでどうするの?」

「えっ、付けるんだけど」

「いや、無理でしょ。それで隠し通せるはずないって」


鬼のお面をつけてみる。顔にでは無く、頭に。


「いや、しかもそこにつけたら意味ないでしょ……」

「いいんだよ、これで」


そう、これはこれでいいのだ。むしろ、これがこのお面の使い方なのである。


「これは俺の秘密道具なんだよ。これをつけると、認識されにくくなる」


要はあの家に張っていた認識阻害の結界を小型にしたみたいな認識でいい。


「しっかりと見られると効果はないが、流し見程度の確認なら問題は無い」

「なんか凄いのでてきた……。というか、そんなのがあるならもっと早くに言って欲しかったよ……」

「お前が突っ走ったんだろうが。なんでバケツを頭に被るんだよ、不審者っぽさが増すだけだろ」

「その悪人面よりかはマシだと思ったんだけどなー……」

「おいこら、なんだと」


誰が悪人面だ、誰が。

睨みつけてみるが、効果はなく流されてしまった。


「それならさっさと行きましょ。早く休みたいですし……」

「ほとんど俺に背負われてたやつがよく言うよ……」


疲れたようなため息を吐いて、荷物を背負い街の方へと向かう。

なんの調子も崩れることも無くついてくるレイを横目で見ながら、俺はそっと安堵の息を漏らしたのだった。


☆ ☆ ☆


「――はい、次ー」


声に促されるまま、衛兵の人の前へ出ていく。


「えーと……凄い荷物だね」


俺が背負っている荷物の量を見て、軽く引きながら尋ねてきた。


「ええ、まあ……。ちょっと旅をしてまして」

「ああ、なるほど」


そう言うと、衛兵の人は納得したようにひとつ頷き、何やら書類にペンを走らせる。


「というか、警備結構厳重っすね。なんかあったんですか?」


不意にそう思い、口に出して聞いてみる。すると、ああ、という声が返ってきた。


「最近この辺で盗賊が出るらしいんだ。なんでも、子供やら女性やらを攫ってるとか」

「へー、今どき盗賊っているんすね」

「いつだってそういう輩は一定数存在するからなぁ……」


そんなことを話していると、レイが信じられないものを見るような目でこちらを見てきた。

……おい、なんだよその目は。俺はもう盗賊じゃないからな。ほんとやめろよ、その目。


「その盗賊はどの辺に出るんすか?」

「最近だと、リンドウの森かな。ここから出て、南に真っ直ぐ行ったところにある森だよ。あそこは薬草とか色々採れるから、最近じゃ、薬とかはどこも品切れ状態だって聞いたな」


ほー。それなら何か薬でも持ってくりゃ、高値で売れたかもしれないのか。


「まあ、あの辺はこの街の騎士の人達が見回りしてくれてるから、大丈夫だと思うけどね」


安心されるようにニコッと微笑む衛兵の人。

なんか、今のフラグっぽかったけど……。


「じゃ、もう通っていいよ」

「あ、ありがとうございます」

「旅、頑張ってねー」


手を振って見送ってくれる衛兵の人にぺこりとひとつ礼をする。レイもそれに続いて頭を下げた。


「いやー、いい人だったねぇ……」

「これで俺が人間じゃないのバレたら、あの人に迷惑がいくと考えると、申し訳なくなってくるな……」

「だねぇ……」


あの人のためにも、バレないように気をつけよう……。


「というか、盗賊いるんすかって、君も元盗賊だよね」

「元だからな、元。今は関係ない」

「ああ……そう……」


げんなりと肩を落とすレイ。


「まあ何はともあれ、さっさと宿屋へ向かおうか」

「了解です……」


レイを連れて、宿屋へと向かう。

その道中で俺はケホッと、小さく、一度だけ咳をした。


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