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不朽のバール


☆ □ ☆ □ ☆


「確かにお前は戦闘のセンスがある、スキルも強い。だが、そこまでだ」

「はい?」


ある日のこと、真人さんに稽古つけてもらっていると、全然ダメだとダメ出しされてしまった。


「……なんでっすか。超絶賛じゃないすか」


拗ねたようにそう言うと、彼はいやいやいやと首を横に振った。


「言ったろ、そこまでだって。そのままじゃ、お前はそれ以上にはいけない。スキルとセンスの限界がお前の限界になる」

「つっても、それで大体のヤツらどうにかなるし、別によくねーか?」

「甘いな」


そう言いつつ、わたしの頭にチョップをかましてきやがった。わたしは「いたぁ」と口の中で呟くと、ジト目で何すんだよと抗議する。


「昔、最強と呼ばれた奴がいたが、そいつだって首をはねられたり全身が爆発したら死んだぞ」

「いや、そりゃ死ぬでしょ」


むしろ、それで生きてたら逆に怖ぇわ。


「ま、ようするにだ。どんなに強くても、いつかは死ぬ。その最強よりも弱いんだ。お前だって、死ぬ可能性はある」

「いやまあ、それはそうっすよ」


自分だって、この世界に来て苦労もなく生き抜いたわけじゃない。わたしに限らず、他の六人だって自分が死ぬ可能性については考えているはずだ。

不意に、真人さんに頭をくしゃりと撫でられた。


「心配すんな。お前らは死なせないからさ」


そう言って笑う彼の笑顔には、少しだけ陰りがあったかのように思えた。しかし、わたしはそれに気付かないふりをしてジト目で睨みつける。


「女の子の頭を撫でるとか、ドン引きなんすけど」

「悪い悪い」

「はあ……。ま、わたし以外にはしない事っすね。ドン引きどころか、気持ち悪がられるっすよ」

「まあ、そうだろうなぁ」


仕様がないっすねぇと口の中で呟くと、そういえばと話を変える。


「最強の人が使ってた技とかないんすか? ほら、なんかすっごいやつ!」

「すごいってそんな曖昧な……」


困ったように頭を搔く真人さんだったが、その手がピタリと止まる。


「あー、あれとかどうだ?」

「あれってなんすか」


あれやそれじゃ当然伝わらず、わたしは首を捻って聞き返す。


「俺あんま出来ないんだが、似たようなのなら見せれるぞ」


そう言うと、手だけで離れろと指示してくる。そして、一定の距離まで離れると、彼は剣を抜いて少しだけ離れた気に向けて構える。そして――。


☆ □ ☆ □ ☆


「太刀風」


ゴウっと空気を切り裂く音が聞こえてきて、わたしは反射的に地面を蹴る。


「……っ!」


その風は、わたしの前髪の先を切り裂いてさっきまでいた場所の向こう側にある建物を破壊する。


「マジかよ……」


その様を見て、わたしの頭には真人さんとの思い出が想起される。もちろん、今回とあの時の威力とでは天と地ほどの差があるが。


「『具現化』」


長槍を生成し、力任せに一号へも投げつける。けれど、一号の近くに来た瞬間、槍が真っ二つに割れた。

彼女が手に持っている得物は大剣。にも関わらず、細い槍を綺麗に真っ二つに切ったのだ。


「……」


驚きのあまり、一瞬だけ硬直してしまった。彼女はその隙を逃さず、わたしのすぐ側に現れた。

槍を切った大剣が白い軌道を描きながらわたしへと肉薄する。


「おっと……!」


十号戦の時に生成しておいたバールを取りだし、大剣を受け止める。


「ぐっ……!」


ジリジリと押されていって、地面を砕きながら後ろへ押し出されてしまう。


「……」


何を思ったのか、大剣に加えていた力を弱めて距離をとってきた。不可解な行動に訝しんでいると、彼女はおもむろに話し出した。


「驚いた。ここまで粘るなんて」

「余裕綽々って感じだな、おい」


苦い顔をして、嫌味を言ってみせる。けれど、彼女は嫌味が通じていないのか、さっきまでと同じような態度で話を続ける。


「その……鉄の棒? どうなってるの?」

「あー、これか」


首を傾げて問いかけてくる姿を見て、ため息を一つ吐き出すとコンコンとバールを叩く。


「これはわたしのスキルで作った特別性でな。『不朽』って特性がついてんだ」


朽ち果てることの無いバール。この特性の『不朽』には、耐久力を上げる効果がある。それも、普通では破壊できないほどの耐久力まで。


「ふぅん……なるほど。面白そう」


うんうんと何度も頷くと、兜の中から見える瞳がキラリと光ったような気がした。


「何言って……」

「ちょっとだけ、本気、出す」


言うや否や、一瞬で距離を詰めてきて大剣を大きく振りかぶる。


「ぐっ……!」


バールを掲げ、受け止めるがあまりの威力に両足に酷い負荷がかかり、悲鳴をあげる。

バールを傾け、力を受け流す要領で攻撃を逸らす。が、即座に追撃とばかりに横一線に大剣を振るってきた。


「『具現化』っ!」


厚みだけはある大きな盾を生成する。しかし、その盾は一瞬のうちに破壊されてしまった。ただ、ほんの一瞬ではあるが勢いが少し鈍った。その隙に飛び退いて距離を取り、その攻撃はなんとか躱す。


「……ふっ!」


一号は一度息を吐き出すと、剣筋の軌道を無理やり変えて、地面を蹴り、更にこちらへ追撃を加えてくる。これ以上は無理だな、と察すると、バールを構えて相手を見据える。

彼女が肉薄してきて剣を振るうのに合わせてバールを振るう。


「……っ!!」

「……」


大剣とバールがぶつかり衝撃波を生み出した。そして、膠着状態となり互いに互いを睨みつける。

大剣も、バールも互いに悲鳴をあげて、どちらが押し込まれてもおかしくない状態。そんな状態が少しの間続いて……。


――鉄が砕ける音がして、壊れるはずのないバールが破壊されてしまった。


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