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五号


☆ □ ☆ □ ☆


「そこ、動かないで貰えますか?」


一同が突然現れた男に戸惑う中、ダミアンは九号に剣先を突きつけるとそう口にした。


「おいおい、勘違いすんなよ兄ちゃんよ。俺ァ、そこのガキの仲間じゃねぇんだ。そう脅されたって素直に聞くかよ」

「そうですか」


ニッコリと微笑むと、ダミアンは勢いよく剣を振りかぶった。


「痛いっ!」


腕を切断……とまではいかなかったが、少女の細腕は切り裂かれ、赤赤とした肉とその奥からちらりと見える骨。九号は苦痛で身を捩り、悲鳴をあげる。


「ちっ」


五号は忌々しげに唾を吐き捨てると、屋根から飛び降りダミアンの下へ走り出す。そんな彼に向けて、ダミアンは手を伸ばす。


「『アキュートロック』」


五号の足下から鋭い岩が生成される。しかし、五号はそれを察知すると即座に横へ飛び回避した。


「『アキュートロック』」


それを追撃するように鋭い岩が生成され、五号はそれを回避するという動作が続いた。


「すごい……」

「ダミアンは、うちで一番魔法が上手なんですのよ」


ふふんと薄い胸を張り、自慢げにそう言うカトリーヌ嬢。


「ただ、人質を取るなんてダミアンらしくない戦い方ですが」

「そうまでしないと勝てそうにないんだよ、なんか強そうだし!」

「そうですわよね……」


そうやって話す二人とは別に、レイは一点から目を離せずにいた。それは、ダミアンと五号との戦闘でも、苦しみ悶える九号の姿でもなく、ぴくりとも動かない六号の姿だった。


「――――」


何を言っているのかは分からない。けれど、さっきから忙しなく口が動いているあたり、何かしら喋っているのだろう。それが、レイにとっては不気味で、且つ嫌な予感がした。


「ダミア――!」


レイの呼びかける声よりも早く、ダミアンは魔法を発動した。


「『アキュートロック』」


それは、五号を狙っての攻撃ではなかった。


「い、いやあああぁぁぁ!!」


六号の悲鳴が辺りに響く。

鋭い岩石は、九号の小さな体を貫いて赤黒く染っていた。


「てめっ……! やりやがったな!!」

「次は貴方です――グハッ!?」


ダミアンの上半身が――吹き飛んだ。

全身がでは無い、上半身のみがである。


「ダミアン!?」


カトリーヌ嬢が悲鳴をあげる。

その場にいた全員の視線が一人の少女へと注がれる。

驚くべくは、ついさっきまで鎖で囚われていたという事実。恐怖すべきは、棍棒で上半身のみを吹き飛ばしたという事実。

切ったのでもなく、潰したのでもなく、だるま落としのように上半身を吹き飛ばしたのだ。人の体を。

ふらふらと立つ六号からは、さっきまでの子供らしさは一切なく、ただただ狂気だけが感じられた。


「おい、六号! 目ェ覚ませ!!」

「……」

「クソが!」


六号の姿が消え、五号の背後に現れる。振り下ろされる棍棒を、五号は体を捻って回避し、勢いそのままに斬りつける。


「ちぃっ……!」


それをすんでのところで躱され、五号は強く地面を蹴って距離をとった。そして、一瞬だけレイたちの方へ視線を向けた。


「ガキども、邪魔だ! さっさとどっかに行きやがれ!!」


そのせいで今までスルーされていたレイたちの方へ、六号が向かっていってしまった。


「早く逃げよう!」

「カトリーヌ様、気を確かに!」

「え、ええ、わ、分かっていますわ」


未だに動揺しているカトリーヌ嬢を引っ張って、レイたちはなんとか逃げようとする。しかし、狂気を宿した六号に即座に追いつかれてしまった。


「……セシル、ここは私が足止めする。だから逃げて」

「うぇ!? な、なんかそれ、フラグのような……」


セシルに逃げるよう指示を出し、こちらに向かってくる六号を迎え撃つ。


「勝手なことすんじゃねェよ」


六号がレイの下へ辿り着くより先に、五号レイの前へ現れた。


「狐狸流『円狐』」


円を描くように振るわれた剣筋は、向かってきた六号を絡めとる。


「……」


だが、六号は剣に棍棒を押し当て軌道を逸らし、危なげなく攻撃を防いだ。


「さっさと行け、クソガキ」

「あ……と。はい、じゃあよろしくお願いします」


ここに残っても何も出来そうにないと判断したレイは、軽く五号に向けて礼をするとちょっと離れた位置にいるセシルの下へと向かった。


「……」

「おいおい、よそ見してんじゃねェよ」


無言でレイの姿を見送る六号へ向け、五号は剣を振るった。彼女は、それを危なげなく受け止め、様々な感情がごちゃ混ぜになった瞳で彼を見る。


「こうやってやり合うのは久しぶりだよなァ」

「……」

「暴れたりねェなら、俺が相手になってやるぜェ、嬢ちゃん!」


☆ □ ☆ □ ☆


「二人とも早く早く! これ絶対やばいやつだって!!」

「セシル、少し落ち着いて。カトリーヌ様も、大丈夫ですか?」

「え、ええ……」


ダミアンがやられたことをまだ受け入れられていないのか、動揺が収まっていない様子のカトリーヌ嬢。しかし、彼女はレイやセシルに心配をかけさせまいと気丈に笑う。

辺りには誰もおらず、三人が黙り込むと辺りは静まりかえる。足早に駆ける影が三つ、異様なまでに静かな道の真ん中で揺れていた。


だからだろうか、その音が二人の耳に届いたのは。


「とりあえず、屋敷へ向かいましょう。屋敷でしたら、安全なは――」


努めて冷静に最善の策を模索するカトリーヌ嬢の声が、突然途絶えた。


「カトリーヌ様、どうし――」

「へ……!?」


三つの影のうち一つが、宙に浮く。ユラユラと揺れる足、それを伝って地面へと流れ落ちるどす黒い血。

血で真っ赤に染った岩が、カトリーヌ嬢の細く小さな体を貫いていた。


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