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お前は、誰だ


四肢は潰され、だるま状態になった十号の状態を見て、さすがの俺も軽く引く。


「さーて、と。さぁ、じゃんじゃん吐いて貰おうか。どうして襲ってきたのか、上で何が起こってるのかをじっくりとな」


真緒はコンコンと十号の頭の近くの床を叩いていた。さっきまで圧倒的な攻撃力を誇っていたバールだったが、力加減をしているのか床が壊れたりする様子はない。


「ギャハハ! おめぇ、俺様がそんな簡単に吐くとでも思ってんのか」

「まあ、やっぱり仲間は売れないってか」


俺が前へ出ると、ギロリと睨みつけてきた。


「腰抜けが前出てきてんじゃねぇぞ。あと、あいつらは仲間じゃねぇ」


うーん、これはまた手厳しい。こういうタイプのやつは認めたやつには甘いが、認めてないやつに対してはとことん厳しかったりする。


「おん? 仲間じゃないのか」

「仲間なわけねぇだろ、あんなイカれた連中」

「お前が言うのか……」

「あ?」

「なんでもないっす」


こいつがイカれてるって言うほどの連中とか、何それ怖い。既に俺の脳内では、足が二十本とか、右半身が竜で左半身が人間とかの化け物が、上で暴れている様が思い浮かんでくる。


「あー、いや、待てよ」


そう言うと、考え込むように一瞬間をとる。そして、何を思いついたのかニヤッと悪どい笑みを浮かべた。


「……いいぜ、教えてやるよ。上で何が起きてるのかをよ」


急な心変わりに、俺と真緒は二人揃って怪訝な目で十号を見やる。


「怪しいな、こいつ。処すか?」

「いや、一応聞いてみるだけ聞いてみようぜ。その後、殺そう」

「おめぇら、そういうのは聞こえねぇところでやれよ」


……確かに。

……まあいいか。

互いに視線だけでやり取りを行うと、十号へと向き直る。


「さて、さっさと吐け」

「さっさと吐けー」

「痛い思いしたくなったらな」

「なかったらなー」


俺が模範的な脅し文句を言うと、真緒が続けて繰り返す。なんの意味があるのかは知らんが、意味は無いのだろう。


「一度しか言わねぇからしっかり聞いとけ――」

「あっ、ちょっと待って」


何を思ったのか、十号を制止するとこちらに向いてきた。


「『具現化』。これ、着けてて」

「は……?」


手渡されたのは、サングラスとお玉。


「え、なんでこれ……?」

「ほら、なんか尋問みたいだし雰囲気作り」

「ああなるほ……え、なんでお玉?」

「悪いな、止めちまって。続きをどうぞ」

「聞けよ」


結局なぜお玉を渡されたのか理由を聞かされることなく、話は再開してしまう。まあ、真緒のことだし深い意味は無いのだろう。むしろ、お玉に深い意味があった方が怖い。


「……一度しか言わねぇから、しっかりと聞いとけよ」


そうは言ってるが、一回言い直してくれてるんだよなぁと、思いながら暖かな眼差しを向けつつ話の続きを待つ。


「まず上の状況だが、九十九人の人間だとか獣人だとかが無差別にここの住人を襲っている」

「なんでまた……」

「深い理由はねぇ。ただ、この街が結界に覆われてる限り、最後の一人になるまで戦い続ける」


「まあ、俺様は負けちまったんだがな」と、自嘲気味に笑った。


「この状況を打破する方法は三つ。今回、依頼してきたやつを殺すか、この状況を作り出しているやつを探し出すか、襲いかかっている連中を全員殺すかだ」


そこでふと、疑問に思う。

依頼してきたやつとこの状況を作り出しているやつが別になっている。ということはつまり……。


「まず依頼してきたやつを殺すっていうのだが、依頼してきたやつがいなくなれば、わざわざこんなことを続ける必要がないってことだ」


考えをまとめていると、十号はこちらを気にすることも無く話を続ける。


「二つ目だが、さっきのと一緒で、この状況を作り出しているやつ抵抗してまで依頼を果たそうとはしねぇから、見つけたらすぐにスキルを解除して逃げ出すだろうよ」


やはり、依頼してきたやつとこの状況を作り出しているやつは別人か。


「三つ目だが、これは目指さない方がいい。ほぼ不可能だ」

「というと?」


詳しく説明しろと、急かすように言う。すると、諦めたようにため息を吐いた。


「言ったろ、イカれた連中だって。特にボス……一号は無理だ。あれに勝つには物量で押すしかない」


強気な十号が、そんな諦めの言葉を吐くのが意外で、まじまじと顔を覗き込む。すると、ものすごい目で睨まれた。


「知らねぇだろうから教えてやる。俺様は……というより、ここの襲撃者である百人全員死者だ」

「「は……?」」


俺と真緒の声が重なった。支社ってことは、この状況を作り出しているやつっていうのはネクロマンサーなのか?


「犯罪者暴君騎士狂人総長異端児……歴史上の最悪の連中が勢揃いってことだ。生前よりは衰えていても、一筋縄じゃいかねぇ」


何それ怖い。そんなオールスターが敵とか嫌な予感しかない。


「話は以上だ」


話し終えた十号。俺と真緒は互いに顔を見合わせると、ゆらりと立ち上がった。


「十号、お前はこの状況を作り出しているやつがどこにいるのか、知らないのか?」

「教えてくれたら、痛い思いはしなくて済むぜ」


真緒はバールを、俺はお玉を十号へ突きつけ、そう言い放つ。しかし、十号は俺たちの言葉などまるで聞いていないかのように、にっと獰猛に笑った。


「……健闘を祈る」


その瞬間、ゾクッとした嫌な予感が背筋を走る。俺と真緒は咄嗟にその場から大きく飛び退いた。


「『龍の息吹』」


開いた口から漏れ出る光が飛び出す瞬間、十号は口を閉じた。そして、閉じた口の隙間から光が漏れ出ていると認識した瞬間、十号の頭部は爆発した。

もくもくと煙が立ち上り、目を細めて十号の姿を見ようとと目を凝らす。


「……逝ったか」


真緒がそうぽつりとそう零す。

煙が風に舞って消えていき、俺の視界に映ったのは……。


でこぼことした、大きなクレーターだけがあった。


☆ ☆ ☆


「まさか自決するなんてな」


真緒が生成した木の板に、『十号ここに眠る』と書いていると、彼女はそう意外そうに呟いた。


「……そうでもないだろ。悪の組織の幹部ならよくある終わり方だ」


秘密を守って死んでいく。それは、誰かの上に立ち、誰かの下につく者としては最上級の死に方なのではないかとさせ思う。


「でも意外だよ。兄ちゃんって、人間が嫌いなんじゃなかったのか?」

「変わらず嫌いだよ」


そう即答する。

元幹部の仲間や、レイとセシルとかは別なだけで、基本的には人間が嫌いだ。なにか特別な理由がある訳では無いけれど、とにかく人間は嫌いだ。


「でも、竜人は別に嫌いじゃないからな」


この墓作りを言っているのだとしたら、彼が竜人だったからこうやって墓を作っているだけなのだ。彼が人間だったら、こうして墓を作るなんてことはしなかっただろう。


「ふーん……竜人と人間、何が違うんだよ」

「よしっ! 出来た! ……ん? なんか言ったか?」

「いんや、お前には関係ないよ」


そう言うと、真緒はスタスタと先に歩いて行く。俺は一度墓を拝むと、さっさと先へ行く彼女を早足で追いかける。


「……兄ちゃんは、真人なんだよな?」

「ん、ああ、そうだが……」


突然そう聞かれ、戸惑いつつも肯定する。


「なんだ、思い出したのか?」

「ああ……思い出した」


カツカツと、二つの足音が辺りに反響する。


「あの時のこと覚えてるのか?」

「何を」


主語がわからず問い返す。しかし、彼女は俺の問いに答えることはなく話を続けた。


「そこそこ長い付き合いだったよな」

「いやまあそうだけど」

「時々、あんなことがなかったら、八人で今でもなんかやってたんじゃないかって思うんだよなー」

「……そうだな」


真緒からそんな感傷的な言葉が出てくるとは思わず、返事に少し間が空いてしまう。というか、最初のあの時ってなんの事だよ……。


「わたしら以外にも、お前のことを『殺してやる!』って言ってた娘とか」

「あ、ああ……」


一瞬、真緒と誰かの姿が重なったような気がした。


「そんなやつらと、馬鹿やって、痛い目にあって、どうすればいいかわかんなくて、でも最後にはなんとかして。そんな毎日が続いていればって」

「……」


階段を登りながら、しみじみと彼女はそう零す。しかし、俺はそれに相槌を打つことが出来ない。頭のどこかを、無理やりこじ開けようとしているかのようにガンガンと頭痛がするからだ。


「それから――」


そう言いかけて、彼女は言うのを辞めた。階段はそこで終わっていて、ちょっとした廊下の先に外へ繋がる扉がある。


「……そういえば、サトちゃんが死んだ時のことで知ってることあるかとか聞いてきたよな」

「お、おう……なんか、思い出したのか……?」


頭痛がさらに酷くなる。

まるで、これ以上は進むなと言っているかのように、ただ扉が近づくほどに頭が痛む。

それでも、彼女に置いていかれないようにと足を進める。


「……一つ、思い出したことがあるんだ」


扉の前へ辿り着くと、ピタリと彼女は足を止めた。そして、一度たりともこちらを向くことはなく、言い放った。


「あの時、あの場所には、お前がいた。サトちゃんが死んだあの時、あの瞬間を、お前は見ているはずなんだ」


やめろ、やめてくれ。

心の中でいくら叫んでも、彼女に届くことは無い。彼女は、扉をゆっくりと開け終える。そして、こちらに振り向き俺の姿を見据えると、一度唇を浅く噛み――。


「――お前は、誰だ」


そう言う守谷 真緒の瞳には、怯えるような表情をした、俺の姿が映っていた。


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