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死者の宴


ガンガンと鉄と固いものがぶつかる音が鳴り響く。


「クソー! おい、兄ちゃん、出られねぇ!!」

「暴れんなよ。どうせ祭りでもしてんだろ」


上が騒々しくなってきてから、真緒はずっとこんな感じだ。


「祭りならわたしが行くしかねぇだろうがよ!!」

「ダメだこいつ……」


何が起こったんじゃないかと心配になってー、とかじゃねぇのかよ。

ただ、この騒ぎようは少し気になる。盛り上がっている感じでもないし、魔物の襲撃でもあったのか? なんか俺、こういうの最近多いような……。

少しだけ、レイやセシル、ナツミさんにルノーのことが気にかかるが、ルノーにわざわざ手を出すような魔物はいないだろうし、二人にはナツミさんがついているのでそこまで心配はいらないだろう。


一際大きく、ガンっと音が聞こえてきた。


「痛ぇー! おいおい見ろよ、めっちゃ血が出てる!」

「見えねぇよ。それならもう少し大人しくしてろよ」


こちらとしては、上の騒ぎよりも隣の騒ぎの方がうるさい。ってか、ほんとに元気だな、こい――。

不意に、ゾワッとおぞましい何かが背中を這うような、そんな感覚に陥る。


「え、なんだ……?」


言い寄れぬ不安感、恐怖心が一気に襲ってくる。

そんな時、興奮したような真緒の声が聞こえてきた。


「うぉぉぉ! 凄ぇ! 血が止まったぞ! しかも傷もない!!」

「真緒うっさい、静かにしろ」


ふぅーと薄く息を吐くと、少しずつ不安感や恐怖心などが取り除かれていく。……なんだったんだ、今の。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


遠くから、真緒と話していた男に似た悲鳴が聞こえてきた。場がシンっと静まり返る。さっきまで騒いでいた真緒も、さすがに押し黙っている。


そうしていると、奥の方からカツカツと足音が聞こえてきた。


☆ □ ☆ □ ☆


――遡ること十数分前。


「みなさん集まりましたか?」


一人の男が問いかけると、それぞれがこくりと頷き返す。それを見ると、男は満足そうに一度頷くと意気揚々と口を開いた。


「えー、お日柄もよく――」

「空見えない状況でお日柄がいいとかあるの?」

「こうして皆様がお集まりになられたことを、心より――」

「集まったっていうか、強制的に連れてこられたんだがな」


一瞬の沈黙。その時、何かが切れる音が聞こえた。


「うっせえぞてめぇらぁぁぁ!!」


男がバンッと机を叩くと、石で作られた机が砕け散った。


「わざわざ始まりの挨拶に、茶々を入れる必要は無いでしょ」

「戻った」

「基準が謎なんだよな」



さっきまでの威勢とはうってかわり、落ち着いた様子で話し始める男。


「さて、それでは――」


話始めようとする男の声をまたしても遮るやつが一人。


「これになんの意味があるんすかね?」

「えーっと、どういう意味ですか? 十号さん」


十号と呼ばれた竜人は、バカにするようにはっと嗤うと、口を開いた。


「こんなのになんの意味があるんだよ。こんなことしてる暇があったら、さっさと上の人間共を殺しましょうよ」


ニヤニヤと嫌味ったらしく言う十号。しかし、男はそれに対して笑みを崩すことなく答える。


「ですが、我々が関わる機会はこういう時しかありませんから。ですので、健闘を称えたりする交流会を設けようという話になった。この話、伝わっていませんでしたか?」

「聞いてはいるっすよ。けどよぉ、それに参加する義務はないよな? んじゃ、俺様はさっさと殺しに行くんで、先輩方は馴れ合っててくださいよ」


カカカッと笑いながら立ち去る十号を見送る男たち。十号の姿が見えなくなると、互いに顔を見合わせて懐から金貨を取りだした。


「俺十号が生き残れないに金貨二十枚!」

「わたしも、それに金貨百枚」

「クーもクーも!」

「というか、ああいう割には毎回参加してるよね」


わいわいとにわかに騒がしくなる。そして数分後、その場にいた皆が押し黙った。


「全員が同じだったら賭けになりませんね」

「十号ちゃんかわいそー! 二号ちゃんは、十号ちゃんに賭けてあげなよー!」


カラカラとハイテンションで笑いながら、男――二号に話しかける。


「いえ、正直十号さんが生き残れるとは思えませんので。……あの人、最初に大量に殺してすぐ退場するタイプですから」

「分かる〜!!」


なおもハイテンションで、二号の肩を叩く女――七号。


「今回もやっぱりボス(一号)が最有力ですねー」

「……うん。そう……だと思う」


帽子を目深く被った少年三号と、熊耳を生やした少女の八号がコソコソと話す。そうしているかと思うと、三号は唐突に立ち上がり、ゴツゴツと白鎧を装着した人物へと近づいていく。


「ーーボス、今回の意気込みとかってあります?」


ボスと呼ばれたその人物は、ゆっくりと首を捻ると、少し間を置いて声を発した。


「……饅頭を食べたい。ミヤ茶屋の」


シンっと静まり返る。

しかし数秒後、ドっと場が騒がしくなった。


「饅頭ですか。久しぶりに僕も食べてみたいですねぇ」

「あそこはお茶も美味いんだよ! 今もやってっかなぁ!!」

「やってないでしょ、少なくとも今は」

「ねぇ、クー、まんじゅうってなに?」

「ロー、多分美味しいもの!」


懐かしむように頷く二号に、あれは美味いと断言する五号。それに対して呆れたようにツッコミを入れる、四号。きゃあきゃあと楽しそうに話す六号と九号。


「そうと決まれば……!」


一号はガチャガチャと鎧から音を立てながら立ち上がる。


「あれ? どこ行くんですか?」


二号が不思議そうにそう尋ねると、ぐっと頷いて口を開いた。


「買ってくる。みんなで食べよう」


ふんふんと鼻歌を歌いながら立ち去っていく背中を見送りながら、七号が二号に話しかける。


「……ねぇ、あれ止めなくていいの?」

「まあ、今止めても無駄でしょうから……」


力なく笑う二号に、あー、確かにと納得する七号。

二号はパンっと手を叩いて、皆の意識を自分に集中させる。そして、ニッコリと微笑みながらこう言った。


「それでは皆さん、今回も元気に頑張ってください!」


その言葉に、それぞれが適当に返事をしてこの場から立ち去っていく。皆の背中を見送ると、うんうんと嬉しそうに頷いて、ただ一人言葉を発しなかった人物へと視線を向ける。


「ま、大体こんな感じです。こんな雑談をしてから、皆さん殺しに向かうんですよ。馴染めそうですか?」


二号は安心させるように笑いかけ、その人物の(番号)を口にする。


「――三十号さん」


その人物は、その少女は、満面の笑顔を作り、元気よく返事をした。


「はいっ! 仲良くなれそうです!」


血のように赤い深紅の瞳が、妖しく輝いていた。


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