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空は黒く染まり


☆ □ ☆ □ ☆


「あー……」


ポリポリと頬を掻きながらどうしたもんかと考え込む。そして、少しするとレイの方へ視線を移し、口を開いた。


「悪いが、どうかしたのかとか聞いてくれねぇか?」

「いいですけど、どうしたんですか?」

「いや、昔っからガキは苦手でな……」


すぐ泣くし容赦ないし何より平気で人を貶める。まあ、ガキっていうよりキッズが嫌いなんだよなぁ。


「えーと……、どうかしたのかな?」


いつもの気だるげな様子を一切見せない、完璧な優しいお姉さん顔で、少女に話しかける。


「この方が困っているようでしたので、お話を聞いていたんですの」

「へー、そうなんだ」


初対面であるレイに怯むことなく、はっきりと話す態度から、かなり社交性が高いと推測できる。となると、やはり見た目通り貴族の子か……。

考察を立てていると、あちらではレイが車椅子の男へ話しかけていた。


「どうかされたんですか?」

「きょう……か……い……いこう……と」


たどたどしく話す男。

教会に行こうとでも言おうとしたのだろうか。たどたどしすぎるため、聞き取りづらい。


「教会ね。教会は確か……あっちだったわ!」


少女がピシッと指を指す。


「さて、それじゃあ教会に行きましょう!」

「じゃあ、ボクたちが車椅子押していこうか?」


フンスッと気合を入れている少女に、セシルがそう提案する。


「あら、いいんですの! それなら、手伝っていただこうかしら」

「任せて! ね、いいでしょ、二人とも」


突然そう水を向けられ、少しの思考を挟んだ後、首肯した。


「私は別にいいですよー」

「別に目的地があるとかじゃねぇんだ。好きにしろ」


投げやりにそう言うと、セシルはパァっと輝かせてグッと少女に向けてサムズアップした。

……うーん、昨日までの彼女の印象と明らかに違うな。ここまでくるともはや別人だ。


「じゃっ、行こう!」

「そうだねー。焦らずゆっくり行こうか」


そう言うと、車椅子をカラカラと押して前へと進む。そして、その後をあたしと少女はついて行った。

少し進んだところで、少女が何かを思い出したようにあっと声をあげた。


「そういえば、自己紹介がまだでしたわね」

「確かにそうだ……!」


あー、そういえばそうだな。

今更感が強いので、鈍い反応を示すと、何を思ったのか少女は前へとてててっと走っていき、レイやセシルの前で丁寧な礼をした。


「初めまして。私の名はヴィリニュス・ド・カトリーヌと申します。以後お見知り置きを」


そう言うと、とても可愛らしい笑みを浮かべるのだった。


☆ □ ☆ □ ☆


歩くこと十数分後、教会らしき建物の前へとたどり着いた。


「ここが教会かー!」

「そう、この街で一番大きな教会です事よ!」


ふふんと自慢げに胸を張るカトリーヌ嬢。それを暖かな目で見守っていると、鋭い声が耳に入ってきた。


「あっ! カトリーヌお嬢様!!」


そう言いながら、ものすごい速度でこちらに駆け寄ってくる影が一つ。

それは、褐色肌の好青年と呼べる風貌の男だった。その男は、特徴としてあげるなら一つ。いわゆる、執事服と呼ばれる服を身にまとっていることだった。


「心配致しましたよ、お嬢様! 一人で行動しないでくださいとあれほど……!!」

「心配症ね。大丈夫よ、ちょっと人助けをしてただけだから」


うわぁ、なんか変なのが来た……。

面倒くさそうな予感を察し、あたしはそっとレイの後ろへ隠れる。

そうしていると、青年は ようやくこちらの存在に気づいた。


「もしや、この方たちの道案内でもしていたのですか?」

「ええ、そうよ。正確には、そこの人の道案内だけど。この人たちは私の手助けをしてくださっていたんですのよ」


自慢げに言い張るカトリーヌ嬢。それを見て、うううっと青年は突然目元を押さえだした。……えっ、泣いてる……?


「こんな者にも優しく接するとは……さすがお嬢様です! 僕は、とても感動致しました!!」

「ちょっ、ちょっと、いきなり泣かないでよ。それに、こんなっていう言い方は……!」

「大きくなられまして……! ああ、神よ! こんな天使を引き合わせていただきありがとうございます……!!」

「他の方々も見ておられますから! せめて人の目がない場所でしてください!!」


ギャン泣きしたうえに神に祈りだした青年に、顔を真っ赤にして止めようとするカトリーヌ嬢。


「あー、えーと……ぼ、ボク、この人教会の中に運びに行ってくるねー」


苦笑いしながら、さっさと車椅子の男とともに教会の中へと消えていく。……逃げたな、あいつ。

残されたあたしたちは、互いに視線を見合わせてどうするか相談する。


「……お、落ち着いたかしら?」

「ええ。取り乱した姿を見せてしまい、申し訳ございません」

「……う、うん。貴方のその調子はここ数日で慣れたからいいのですけど……。それよりも、彼女たちに自己紹介をしてくださいな。このままだと、貴方はただの不審者ですわよ」


今更自己紹介されても、不審者なのは変わらない気もするが。

青年は、カトリーヌ嬢にそう言われるとスっと姿勢を正すと、こちらに向けて恭しく頭を下げてきた。


「初めまして。僕の名前はダミアンと申します」

「私の名前はレイと申します……?」


こんな感じでいいのかなと視線で尋ねてくるが、あたしに聞かれても答えられることはない。ので、スルーする。


「あー、あたしはナツミだ」

「お嬢様の手助けをしてくださり、ありがとう……」


その時、ゴウっと上空から音が聞こえてきた。


「なんだ……!?」


ばっと上空を見上げると、空が一気に真っ黒に染っていっていた。ゾッとするような嫌な感覚。ミシェルの時とは違う、異質な魔力の残留。


「『魔力視』」


小さく呟き、目に意識を集中させる。

すると、視界の全てが真っ白に染まった。


「やばいな……」


即座にスキルを解除して、レイの方へ視線を移す。するとちょうど、セシルが戻ってきたところだった。


「あれー? みんなどうしたの?」

「セシル、空を見てみて」

「ん? 空? ……うわっ、真っ暗じゃん! なんでこんなに明るいの!!」


それを聞いて、あたしは遅れてこの異常性を理解する。日光が遮断されているはずなのに、昼となんら変わらない明るさ。

この街にきた初日に、この異常事態。真人は捕まりここにはいない。そこまで思考を巡らすと、ある一つの仮説が浮かんでくる。


「あたしを狙ってんのか……?」


その呟きに答える人は誰もおらず、ただ空気に溶けて消えていく。しかし、一度出てきた予感は消えることなく胸の奥底に沈んでいった。


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