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新しい日々は、留置所から始まる


拝啓、山田 八代様。

お元気ですか。

そちらは義賊活動を行っているようで、国全体で手配書が出回っていました。

賞金で金貨2000枚となっていましたが、明確に人類の敵だった魔王軍時代では5000枚でしたよね。ただの義賊活動でここまで賞金がつくものなのでしょうか。

それはそうと、こちらの近況報告がまだでしたね。

この手紙を書いている今、私は……。


――留置所にいます。


☆ ☆ ☆


――遡ること数時間前。


「そういえば、今私たちはどこに向かってるんですか?」


荷台からレイの声が聞こえてくる。


「あと少しで着くタイミングで聞いてくるのか……」


呆れたように言ってやる。すると、今度はセシルの声が聞こえてきた。


「説明をする義務はあると思うけど?」

「いやまあ……そうだが……」


セシルの反論に答えることが出来ず、口ごもる。言っていること自体は正しいから、反論しずらいんだよなぁ……。


「まあ、さっさと説明しておこうか。わざわざ後回しにするような事じゃないしな」

「まあ、確かに」


ナツミさんの言葉に同調し、どう説明するか少し考え込む。


「あー、これから行くところはな、前回同様魔王軍の元幹部の一人が滞在しているらしい街だ」

「その話、初耳なんだけど」

「というか、魔王軍の人なのに人間側にいすぎな気もするんですけど」


ざっくり説明すると、抗議の声が聞こえてくる。

セシルにその辺言ってなかったっけ。やべぇ、覚えてない……。


「まあ、魔族側にいるのは危険だからなぁ。消去法で、だ」


そう言うナツミさんの声を聞いて、先日彼女が言っていた言葉を思い出す。


『トドメを刺したのはな……現魔王なんだ』


今までは他の魔族からの目とか気にしてだと思っていたが、もしかしたら彼ら彼女らは身の危険を感じて――。


「――い、聞いてますかー?」


肩を叩かれて、はっと我に返る。


「……あ、悪い。えーっと、なんだっけ?」

「今から会いに行く元幹部の人って、どんな人なんですか? って話ですよ。ちゃんと聞いておいてくださいよー」


どんな人、か。

そう聞かれて、どう答えるかうーんと考え込む。


「うーむ、どう説明するべきか……」

「あっ、ほら、あれないんですか? 二つ名みたいな」


そう提案してくるレイの声を聞き、彼女についていた二つ名を思い出す。


「二つ名って、なんの事だ?」

「元幹部の人についてた別名みたいなものらしいよ。ナツミさんの前に会った人は、不屈の漢って呼ばれてたんだとか」

「ナツミさんは稀代の天才と呼ばれてたって聞いたね」

「ふーん……」


なにか含みがあるような声に、反射的に声を返してしまう。


「……なんだよ」

「いや、あそこで二つ名とか考えるの、お前と山田ぐらいだよなって」

「俺じゃねぇよ、あと多分八代も違うはずだ」


いやほんと、誰がつけたのとか知らんけど。


「ってか、真緒って二つ名何があったか?」


ナツミさんに水を向ける。


「あー、バカとか、猿大将とか?」

「あとは、変人、破壊神、浮沈艦」

「ろくなのがねぇな」

「だな」


大半がほぼ悪口だし……。

ただ、一つだけザ、二つ名って感じのがあった気がする。


「えーと、あとは確か……ああ、そうそう。世紀末の魔術師とかあったよな」

「世紀末要素ないのにな」

「あいつの頭が世紀末なんだろ」

「はっきり言っちゃったよ、この人」


でも、意外と真緒とナツミさん仲良いんだよな。ナツミさんめっちゃ言うけど。


「その情報からは、やばい人だってことしか分からないや」

「まあ、魔王軍の幹部なんてやってた人が、まともかって聞かれると困るところだけどね」

「なあ、ナツミさん。今セシルどこ見て言ってる?」

「魔王軍の幹部なんてやってた人」


それ、ナツミさんも含まれますよね、もちろん。


「まあ、変人かつアホの子でたまによく分からん行動するけど、悪いやつじゃないぞ」

「真人にとっては、これでフォローしてるつもりなんだよなぁ……」


完璧なフォローだろ。


「全然話についていけないんですけどー」

「これ以上イチャつくなら、考えがあるんだけど」

「いちゃついてないんだけどなぁ……」


どこにイチャつき要素があったのか、謎だ。


「とにかく、めちゃくちゃ変な行動してるやつがいたらそいつが探してるやつだから」

「まあ、すぐに見つかるだろうな。捕まえられるかどうかは別だけど」


まったく説明になっていない説明をしていると、目的地の街が見えてきた。


「そろそろ着くぞー」


段々と街の防壁が近づいてくる。

そして、門の近くまで行くと竜舎を止めて降りる。


「あのー、すみません。通っていいですか?」


門の前には誰もいないので、休憩所らしき場所にいた人に確認をとる。


「ああ、すまないね。身分を証明出来るもの……は……」


中にいた男の一人が、俺の顔を見るやいなや動きを止めて部屋の壁の方へ視線を移す。

なんだなんだと思いそちらを見やると、そこには――。


「盗賊だ! 確保しろ!!」


俺の顔が描かれた、手配書が貼ってあった。


☆ ☆ ☆


そんなこんなで、俺は捕まり留置所にいる。

レイたちはしれっと無関係を装って難を逃れた。

そう、きっと彼女たちは俺を助けるべくなにか行動を起こしてくれるはずなのだ。……はずだよ、な……うん、きっと、多分。

まさかこんなところに手配書が出回っているとは。国といっても、それぞれの街や都市が独立している形なので、手配書を他の街や都市で貼り出すには、そこそこの金がかかる。そのうえ、なんの成果がなくても貼り出してもらっている以上、維持費がかかる。

なので、個人的な被害で手配書を出すのは周辺の街一、二個が限界なのだ。国が関わってくると、その限りでは無いのだが、俺の件に関しては国は関わってない。その証拠に、今までは捕まるどころか怪しまれることさえなかった。

だから、ここに来て捕まるのは些か不自然なのだが……。


「だぁー! おい、わーってるって! マオちゃんはお触り厳禁なんだぜ? そこんとこ、しっかりしてくれよなー!」


これからどうするか考えていると、二つの足音とともにやかましい声が聞こえてきた。

……あれ、なんか聞き覚えがあるような……ないような。


「お前、立場わかってるのか?」

「ふっ、舐めんじゃねぇよ。もちろん分かってる。これから三食昼寝付きの生活が待ってんだろ?」

「はぁーっ……もういい。そこで頭冷やしてなさい」


ガチャンと隣から音がする。

しばらく看守らしき人と、聞き覚えのある声の会話が聞こえてくる。そして、看守が立ち去っていく足音を聞こえてくると、隣に向かって話しかけた。


「お隣さん、聞こえるかー?」


すると、大きな声が返ってきた。


「おー! 人がいんのか! いやー、これで暇潰せるぜー!!」

「もうちょい声抑えて……。俺の名前はサトウだ。どちらかがここを出るまでの間だけど、よろしくな」


何はともあれ、名乗っておこうと思いそう言うと、すぐに声が返ってきた。


「おう! わたしの名前は守谷 真緒だ! よろしくな!!」


聞き覚えのある声で、聞き覚えのある名前が、隣から返ってくるのだった。


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