謎の爆発音
会う手段は分かった。しかし、その手段があまりにも難易度が高すぎる。
「俺たちであの軍勢をどうにか出来るかぁ……? あっ、カースタス追加で!」
「ボクからしたら、潜入する方が楽だと思うんだけどね。カラッと揚げも追加でー!」
「見つかったらやばいですし、堅実に行くべきだと思うなー。枝豆も追加でー」
各々自分の考えを述べていく。
俺はレイの意見に賛成で、下手に潜入してバレたら色々と面倒だ。下手すりゃ、捕まる未来もあるやもしれん。
つまるところ、ナツミさんに会う方法としては、功績を立てるしか方法はないのだ。
「つっても、腐っても魔王軍三番隊隊長。そんな簡単にやれる相手じゃねえぞ」
運ばれてきたカラッと揚げを口に運びながら、そう言うと、今まで黙っていたアンさんがおずおずと手を挙げた。
「あのー、サトウさんさんさん」
「さんが多い」
「サトウさんさん、俺たちの中に、俺を含んでない……よな?」
「何言ってんだ、含まれてるに決まってんだろ」
あとまださんが多い。なんだよ、サトウさんさんって。
「いやいや……なんで俺まで含まれてんだよ」
「俺、使えるやつは座ってても立たせて使うタイプだから」
「なんだそのクソみたいなタイプ」
呆れたようかため息を吐くアンさん。
どうやら諦めて従ってくれたみたいだ。
「それで? 具体的にどうするんだよ」
「うむ。その諦めの早いところ、俺は好きだぞ」
「うわっ、全然嬉しくねぇ……」
嫌そうに顔を歪ませるアンさんをよそに、思考に耽ける。
実際、この都市への襲撃で大きな功績を立てること自体が難しい。
まず、そもそもの難易度。次に大きな功績を建てるには、ミシェルと戦う必要がある。襲いかかってくる魔族やら魔物やらを、四人でほとんど倒すレベルだと別だろうが、数多の冒険者いる中で突出した戦績を出すのはかなり厳しい。
「となると、相手側の思惑を読んで先回りによる奇襲……が、理想的か」
時間を気にしていたりと、普通に攻め入るのとは違う行動をとっているため、何かしらの思惑が絡んでいるとみる。
ただ、それがこの襲撃自体の目的か、それとも何かしらの布石なのかが判断に困るところなのだが……。
「サトウさん的には、時間が経ったら襲うのを辞める時って、どういう時なんですかー?」
もし自分ならか……。
「定時に帰りたい時」
「それ以外」
「なんか襲撃とかめんどくなった時」
「うーん……別で」
色々と案を上げてみるが、どれもしっくり来ないようで違うだの、アホだの、別の案だのと言ってくる。
「あー、なんか襲撃自体が陽動だったりした時……とか?」
自分で言って、ふむと考え込んでみる。
これはなかなかいい案なんじゃないだろうか。と、そう思いレイの方を見てみると、なにやらセシルと顔を見合わせて一つ頷いていた。
「その可能性が高いかもね」
「というか、他の案がろくでもなかっただけの気もするけどね」
なんかボロクソに言われている気がするが、なんやかんやでこの案で考えていく流れになった。
「んー、じゃあ、もし陽動だった場合、裏で何してると思う?」
レイからの問いかけに、うーむと唸って考え込む。
「潜入活動とかか……?」
「爆弾仕掛けているとかはどうだろう」
「側近だけで焼き肉」
アンさん、セシル、俺の順でそれぞれ意見を述べていく。
「うーん、どっちもありそうですね。サトウさんは論外として」
「まあ、そうだよな」
「キミ、ちゃんとしないか」
「ほんとにあった話なんだけどなぁ……」
お金が足りなかったので、魔王軍の大半を遠征に行かせてその隙に上部の魔族だけで慰労会をするっていう、下の者からしたら金だけ払わさられるクソ企画。
「で、サトウさん的にはどっちがあると思いますか?」
「俺か?」
「はい」
潜入か、爆発かか……。
悪の組織なら爆発一択だが、最近の方針的にそーいうのはなさそうなんだよなぁ……。古い考えを捨てて新しいものに行く的な流れだから……。
「……それで、どう思うんですか」
早く答えを出せと、急かしてくるレイ。
まあ待て落ち着け。何事も急いでもいいことは無い。多分。
論理的に考えたら、潜入の可能性が高い。
しかし、男たるものロマンを追い求めるべきだと俺は思う。なので――。
「俺は敢えて爆発を推す!」
声たかだかに宣言すると、シラーっとした視線がぐさぐさと俺の肌に突き刺さった。
「まあ、その案で考えていきますか」
「敢えてってなんだよ、敢えてって」
「爆発を推す発言の意図が理解できないんだけど」
なんか再度ボロクソに言われている気がするが、そっち方面で考えていくことになった。
……あれ?
☆ ☆ ☆
朝日が顔を照らし、ふと目を覚ます。
数日前の酒場での会議では、結局爆発推しから話が進まなかった。
というのも、その可能性は既に懸念されていて、防壁に何か怪しいものが設置されていたりしないかの調査が既に行われていたからだ。
そうして、今度は潜入案について考えることとなったのだが、既に潜入しているのか、未だに潜伏を続けている理由。そこまで考えてしまうと、いくらでも可能性が出てきてしまい、結局お開きになるまで推測を絞ることが出来なかったのだ。
というわけで、この三日間は都市の中や防壁などを調査して、考察をするというなんの面白味もない行動を延々と続けていたのだが、それでも絞ることが出来ない。
都市中を探し回ったが、魔族らしき人物は見受けられなかった。もちろん、防壁も爆発物らしきものはなにもなかった。
ここまで来ると、俺の出した焼き肉案が真実味を帯びてしまっている。いや、それはないか。ないな、うん。
しかし実際、ほとんどの場所を調べ尽くしたのだ。それなのに、何も出てこない。
「今日も調査をするんだよなー……」
さすがに三日も続けて何も成果がないと、モチベーションが落ちてしまう。とはいっても、やるしかないのだが……。
はあ……。と、小さくため息を吐く。
その時、ドォーンッと遠くから何かが爆発する音が聞こえ、それとほぼ同時に小さな揺れを感じた。
「な……!?」
爆発音……! なんで!?
ぐるぐると様々な思考が頭に浮かぶが、それを頭を振って切り替える。
何はともあれ、どこかが爆発した。それが防壁なのか、戦闘中の魔法なのか。
仮に防壁に爆発系統の魔法を使用しても、防壁にはマジックキャンセラーなるものが使用されているそうなので、そう簡単には壊れないはず。だから警戒するべきは、魔法が原因ではない爆発だった場合だ。
『緊急事態です。防壁付近で謎の爆発音が確認されました。住民の皆様は、速やかに避難を開始してください』
前回聞いたのとは違う、緊迫した声音の緊急事態のアナウンスが流れる。
爆発があったんじゃなくて、爆発音が確認された……?
アナウンスの言い回しに若干の違和感は覚えたものの、俺は即座に武器やポーション類を懐に入れる。
「防壁には何も仕掛けられていなかった。……だから、大丈夫なはずだ……!」
そう自分に言い聞かせながら、レイとセシルと合流するべく部屋を飛び出したのだった。