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魔王軍三番隊隊長


「レイ! セシル!」


宿に戻り、二人の部屋の扉をドンドンと叩く。

しかし、中からの返事はない。


「どこかに遊びに行ってんのか……?」


あの二人が行きそうな場所を思い浮かべてみるが、この都市のどこに何があるのか分からないので、どうしようもない。


「飯屋か、雑貨屋か……もしくは……っ!」


そこで不意にある考えが頭をよぎった。

あの二人が、魔王軍の襲撃から都市を守る戦いに参加しているという可能性。

そこまで考えが至ると、反射的に動き出していた。


宿から飛び出ると、東側の門に向かって走り出す。

ゆっくりと広場へ避難する人たちの人混みをくぐり抜ける。

何度も人にぶつかりながらも、なんとか門の近くまでたどり着いた。


怒声やら、叫び声、金属がぶつかる音が聞こえてくる。

門から外を覗き込むと、久方ぶりに見る、人と魔族が戦う光景が目に映った。


必死になって、二人を探す。

最悪、ここにいなかったら別の場所をゆっくり探せばいい。

しかしそんな思いとは裏腹に、遠目から薄く青みがかった髪と銀髪が見えた。

二人はそれなりに連携して戦っていた。

俺は戦っている最中の魔族や人間の邪魔にならないように、二人に向かって突っ走る。


「レイ、セシル!」

「げっ……」

「うわっ……」


げっとか、うわってなんだよ……。

レイとセシルは一人の魔族を締め上げながら、こちらに気づくと顔を歪ませた。


「は、早かったね」

「……」


気まずそうに視線を逸らすレイに、黙々と魔族を締め上げ続けるセシル。


「おいこら、なに無視してんだ」

「……別に無視なんてしてないよ。ところで質問なんだが、キミが魔王軍にいた時、彼らを見たことあるかい?」


そう言って、気絶した魔族を地面に振り落とし、指をさす。その魔族の顔をジーッと見てみるが、いまいちピンと来ない。


「……いや、見たことないな。だけど、胸元に青い花のピンを刺してるから、こいつは――」


と、言いかけた時、ゾクッと背筋を這うような殺気を感じた。

俺は咄嗟にレイとセシルの手を引くと、その場を飛び退いた。


「ちょっ……えっ……!?」

「うそっ……!」


さっきまで俺たちがいた場所、そして魔族は、斜め上から落ちてきた水によって抉り取られた。


「まあ、さすがにこれでは仕留めきれませんか」


くすくすと嫌な笑い声を零しながら、こちらへ歩み寄ってきたのは、背中に青い尾ひれのようなものがある美男子だった。


「まさか爆破の容疑者にここで会うとは、思いませんでしたよ」

「……その疑い、まだ晴れてなかったのか」


爆破の容疑者にされてること自体忘れてし、もう晴れたもんだとばかり思ってた。

まあ、シモンは納得してくれていたようだったが、さすがに全員が全員納得してくれるはずはない、か。


「……誰ですか、この人は」


クイクイっと服の裾を引っ張ってきて、尋ねてくる。


「魔王軍三番隊隊長、ミシェル。水の精霊ってやつだ」


精霊。

それは、人間、魔族含めた生物が一個体につき一つ、特有のスキルを持つのに対し、種族で同じスキルを所有する特異な種族。


「三番隊隊長って、どれだけ強いんですか……?」

「あー、……結構前に俺を捕まえに来たシモンが四番隊隊長」


かなり前にあったシモンを思い出しながら、そう言う。多分、俺とレイが共通して知っている相手で一番比較として最適なのはシモンのはずだ。

やはり最適だったようでレイはなるほど、と頷いた。


「つまり、君よりも強いってこと?」

「いや、ほら、スキルの相性とかあるから……」


そう、別に俺が弱いわけじゃない。むしろ、現幹部とやり合えるだけで強い部類なはずだ。うん、俺は強い……多分。


「話し合いは終わりましたか? それでは、神妙にあの世に行ってください……ねっ!」


手の内に水を作り出すと、それを砲弾のように飛ばしてきた。

それを俺たち三人は咄嗟にその場を飛び退き、回避する。


「で、どうする!」

「セシルは、ええと……えっ、お前何が出来る!?」

「毒! あと護身術を少々!」

「よし、下がってろ!」


使えねー……。

ミシェルは基本的に中距離型。距離をとって戦うので護身術は役に立たないし、毒なんてもっと役に立たない。なんならこういう戦場での毒って最終手段なんだよなぁ……。


「レイは、うん、下がってろ!」

「うわー、少し私に対して雑すぎません? いやまあ、楽なんでいいですけど……」


二人に一応指示を出すと、ミシェルに向かって走り出した。


「うーん、僕としてはあの二人はどうでもいいし……一人で来るなら好都合なんだよ、ねっ!」


またしても水を手の内に生成すると、砲弾のように飛ばしてくる。


「『気操術』」


こちらに向かって飛んでくる水に触れ、軌道をそらす。水の軌道がギュンっと変わって、右の方へと着弾する。


「最後にねをつけての攻撃が癖か?」

「そんなわけないよ。『アークランス』」


ミシェルの頭上におよそ五本の水の槍が生成される。そして、四本の水の槍のその矛先がこちらへ向けられ、飛びかかってきた。


「さっきのと何が違うんだよ……!」


目を細め、魔力の流れを読み取る。そして、その中核の部分に手を添えて軌道を逸らそうとした。


「ぐっ……重っ……!」


だが、思うようにいかず足を止めて踏ん張ってしまった。


「ちぃっ……!」


手首を回して魔力の流れを掻き回し、水の槍を一つにまとめる。


「『霧散』」


水の塊を押し潰し、あたりに水しぶきがキラキラと舞った。

ふぅっと一息ついて正面を向くと、目と鼻の先にミシェルの姿があった。


「油断したら、危ないよっ!」

「がふっ……!」


腹を強く蹴られ、一瞬息が止まる。視界がチカチカと光り、呼吸が乱れる。


「うん、そろそろ時間だな」


追撃がくると思い構えると、何を思ったのか一つ頷いて俺から距離をとった。


「は……? 時間?」

「この続きはまた今度ってことで。それじゃ!」

「あっ、おい待て!」


俺の制止の言葉に一切の反応を見せず、そのまま姿を消していってしまった。


「時間ってなんの……」


ミシェルが引いてくれたことに少しだけ安堵の息を漏らすと、二人の姿を探して辺りを見回した。


「……あいつら、何やってんだ」


下がるように指示した二人は、他の冒険者らしき人間たちと混じって、魔族との戦闘に参加していた。


「血気盛んすぎやしねぇか、ほんとに……」


俺だったら、サボる理由が出来たことをいいことに都市に戻るわ。

二人のいるところの魔族も、ほとんどが逃げるかやられるかのどっちかで、未だに戦っている魔族はかなり数少なくなっていた。


それから日が徐々に傾き沈んでいった頃、都市の防衛戦が人間側の勝利で終わったことを知らせる鐘の音が鳴り響いたのだった。


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