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水の防衛都市


「やっと着いた……!」


セシルが歓喜の声を漏らす。

視線の先には、前回の街同様、街全体を囲むように建てられている防壁が見える。


「竜舎も借りずに出発した時は、どれだけ近いんだろうとは思ってたけどね……」


うーっと唸りながら俺を睨みつけてくるレイ。


「なんだよ」

「いやさ、竜舎を借りるなり買うなりしたら、もっと楽に来れたと思うわけですよ。わざわざこんなめんど……危険が危ない手段じゃなくても、よくないですかー?」

「竜舎を借りるにも買うにもかなりの金がかかるだろうが。あとなんだよ、危険が危ないって。頭痛が痛いみたいなこと言いやがって」


はんっ、と鼻で笑って受け流す。


「大体、今更言っても遅いっつーの。……旅の道中でも度々言ってきたような気もするが」

「旅だけに?」

「やかましいわ」


レイの額にデコピンをくらわせる。

そんな様子を呆れたように眺めるセシル。


「ほんと仲良いよね、二人とも」


つまんなさそうにそう呟くセシル。

……まさかこいつ。


「まさか俺と仲良くしたいのか?」


あんだけ旅の道中殺しにかかってきたのに。と、暗に嫌味を込めて言ってやる。


「は、は!? なわけないじゃん。自惚れるのも大概にしたほうがいいよ。もし仲良くしたいと思うとしたら、レイぐらいだし」


めっちゃ早口でまくし立てるセシル。それを見て、ほうほうと頷くレイ。

不意に、レイが口を開いた。


「なら友達になろーよ」

「と、とも……だち……?」

「なんか、初めて聞いた言葉を耳にした人みたいな反応だな」


俺のツッコミを綺麗にスルーするセシル。

感動しているのか、わなわなと全身が小刻みに震えている。


「よろしく……」


すっとセシルが片手を差し出すと、うんと頷いてレイはその手を握る。二人の友情が確立した瞬間である。

感動的だなぁ、と思いながらぼーっと眺めていると、レイとセシルの口角が少し上がった。


「じゃあ、あの街まで私を運んでー」

「それなら毒の配合、手伝って欲しいな」


ニコリと微笑みながら、互いの要望を口に出す。


「……お前らの友達の価値観どうなってんの?」

「うーん……めんどくさい時助けてくれる人かな」

「無料で使える労働力」


さらっととんでもないことを即答する二名。

こいつら、価値観歪みすぎだろ……。


そうこう話しているうちに、街の門の前までやってきていた。

近くから見ると、壁には至る所に傷がある。


「はー、立派な防壁だよなあ」

「ここはよく魔王軍に攻め込まれる場所らしいよ」

「ほーん、だから街を囲むように溝ができてんのか」


水の溜まった大きな溝を眺めながら、しみじみとはーとか、ほーとか口にする。


「あと、この街には人類最強の領主がいるんだとか」


セシルがそう補足する。


「人類最強?」

「噂程度で、実際に見たことはないけどね」


人類最強かー……。確か、魔王軍に所属していた時も噂は聞いたことがある。

なんでも、水の防衛都市、ミルカンディアには化け物がいるだとかなんとか。

それにより、人間を攻め入る際にはミルカンディアは避けるようになったとか。


「ま、会う機会はないだろうがな」

「偉い人だからねー。サトウさんがなにかやらかさない限りは大丈夫だと思うな」

「あー……確かに。なんか不安になってきた」


なんか失礼な言葉が聞こえてくるが、シカトシカト。

時には、都合の悪い言葉をシャットアウトすることも重要だと思うな、俺は。


☆ ☆ ☆


なかなかに厳しい検査をくぐりぬけ、俺たちはミルカンディアの中へ入っていた。

見渡す限りに人、人、人。

ゆったりとした感じの前の街とは違い、この街、否、この都市はかなりの人が活発に動いている。


「この中から人を探すんですか?」

「ああ、まあ……」


レイにそう問いかけられ、思わず視線を逸らしてしまう。

まさかこんなに人がいるとは思わなかったので、聞き込みしていけばすぐに見つかるとタカをくくっていたのだ。だが、ここまで人がいると、いちいち人の姿や格好を覚えている人が何人いるか……。


「なら、終わったら呼んでくださいねー」


「じゃあね」と言うと、さっさとどこかへ歩き去っていくレイ。あまりの判断の早さに、止める間もない。


「……あ、じゃあ、ボクはレイに付き添いますね」


そそくさとレイの後を追うセシル。

そして、ぽつんと取り残された俺が一人。


「ええ……、手伝ってくれないのかよ……」


人の流れを眺めながら、呆然と、そう呟くのだった。


☆ ☆ ☆


探し始めておよそ三時間ほどが経過した。

収穫はゼロ。だんだん、八代の情報が正しいのかどうか、不安が心に浮かんでくる。


「あっ、すみません」

「ああ……いえ……」


ぼーっと突っ立っていると、軽く人にぶつかってしまった。少し頭を下げて謝ると、その人は気にするなとばかりに片手をあげる。

帽子を目深く被ったその人は、俺の横を通り抜けていく。


「ん……?」


あれ、今の声、どこかで……。

振り返って見てみると、淡い紫の色の髪が、帽子から少しだけはみ出していた。

その時、記憶にある人物の姿形、声が合致する。

俺はその人物へ反射的に、声をかけていた。


「あんた、ナツミさんか!?」


周りを通り過ぎる人の視線を肌で感じる。

だが、その人はこちらには一切視線を向けようとはせず、さっさと先に行ってしまう。


「おい、待てよ……!」


慌てて人混みをかいくぐり、その人の背中を追いかける。

追いかけていくうちに、周りに人は次第にいなくなり、薄暗い路地裏へとたどり着いていた。

その人は、不意に立ち止まると、帽子を頭から取りながら振り返った。


「久しぶりだな、真人。……いや、今はサトウか」


懐かしい声音で、語りかけてくる。


「まさか、あたしにすぐに気づかないとは思わなかったよ」


気だるげそうに頭を掻きながらそう喋る。

彼女は簡素な服を着て、胸元にはゼラニウムのバッチが付いている。

興味のないものを見るかのような無機質な、髪の色と同じ淡い紫色の瞳には、俺の姿が映っていた。


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