解雇された戦闘員 〜せっかくの機会なので悠々自適に旅に出ようと思います! 〜
――魔王城。
「なん……だと……」
俺は床に手をつき、項垂れる。
こんなことが、許されていいのか。というか、この状況にすっごいデジャブを感じる。
「解雇ってどういうことだオラァ! 退職金はちゃんと出すんだろうなぁ!!」
「少し落ち着けよォ。まだ話は終わってねェ」
偉そうな態度のシモンがこちらを睨んで呆れたようにため息を吐く。
「解雇って言ってねェ、謹慎処分だってんだろうが」
「そんな! 退職金は!?」
「謹慎で出るわけねェだろうが」
なんてこった。退職金が出ないなんて……魔王が変わっても魔王軍は相変わらずブラックなのか……。というかそもそも、
「なんで俺が謹慎処分になるんだよ」
魔王軍の幹部に就任してから特に問題行動はしていない。そもそも、ここ三年で命のやり取りレベルで戦ったことなんて両手の指で足りるほど。だから功績もなければ問題もない、といった状況のはずなのだが……。
「てめェらがこの前行った村から、深夜までバカ騒ぎしてるって苦情が来てんだよォ」
「クソ上司がお祭りやりたいって騒ぎ出したから仕方なく騒いだんだ」
「他にも、人間のとこの衛兵と喧嘩になったっていう報告がよォ」
「それ、クソ上司が先に殴ったぞ」
沈黙が舞い降りる。
「というわけで、てめェは解雇だ」
「おいこら待てコラ! お前身内に甘すぎるだろ! クソ上司にも何か罰与えろよ、さっき食堂でフルーツ食ってたぞあの女!!」
「うるせェなァ。上司の不始末の責任取るのが部下の役目だろ」
「逆だよ逆! というか、元上司だし! 立場的には対等だから、俺とあいつ!!」
しかもさらっと謹慎から解雇に変えやがった。この野郎……。
「うるせェ、とりあえずてめェの謹慎は決まってんだ。さっさと帰れ」
「このシスコンがよぉ……」
さすがに冗談なのだろうが、長年の付き合いだからって冗談が過激なんだよ。……え、冗談だよね?
「はァ……てめェ、しばらく休んでなかっただろうが。この機会にどっか出かけりゃァいいんじゃねェの?」
「シモン……」
頭を掻きながらふいっとそっぽ向くシモン。こいつ……、
「シスコンじゃなくてツンデレだったか……」
「うるせェ、さっさと行け!」
余計な発言をしてしまったようで顔を赤くしたシモンによって叩き出されてしまった。……解せぬ。
☆ ☆ ☆
森の中の一軒家。一度盛大に壊れてしまった家だが、俺の頑張りと八代のとこの盗賊が手伝ってくれたおかげでなかなかの再現率を誇っていた。
「ただいまー」
以前と違うことは、こうやって帰ってきたという実感だ。盗賊業はほとんど在宅ワークだったからな。森も実質家の中みたいなもんだし間違ってはない。
「あっ」
視線の先には、しまったとでも言うかのような目を見開き固まるレイと構わず饅頭らしきものを頬張るセシル。
「え、えーと……おかえりなさい?」
「ほはぁいり」
気まずそうに目を逸らしながらも、しっかり饅頭には手を伸ばすレイ。
「何食ってんの?」
「はふみはんとまほはんからほらったほみやげでふ」
「もぐもぐもぐ、もぐもぐもぐもぐ」
「飲み込んでから喋れ。そしてセシル、伝える気ないだろ」
とりあえず俺にも饅頭を寄越せ。
饅頭はナツミさんと真緒から貰ったものらしい。何でも、墓の前で偶然会ったとか。
「そうか、もうそんな時期か」
あれからもう三年か……。
感慨深げにため息を吐いて、饅頭を口に入れる。美味い。
「あー、そういえば俺、魔王軍解雇されたから」
「え、何やってるんですか……」
「はあ!?」
呆れたような反応のレイと驚愕といった様子のセシル。……うん、饅頭美味い。
正確には謹慎だが、最後にシモンが言ったのは解雇なので別に嘘は言っていない。
「で、これからどうしていくんです?」
はあとため息を吐きながら、饅頭に手を伸ばしつつ聞いてくる。年々レイから俺への扱いが雑になってきてるんだけど、気のせいかなぁ。
「また旅しようかなーっと」
「前みたいな感じ?」
前みたいと言うと、おそらくは八代やナツミさん達に会いに行くというような目的がある旅を指しているのだろうか。
「いいや」
そんな目的がある訳では無い。
「折角解雇されたんだから、悠々自適に旅でもしようなって思ってな」
目的もなくただ彷徨うだけの旅もたまにはいいだろう。その先で、知った誰かに逢えるかもしれない。
そう言い切ると、何故か二人揃って呆れたような顔をしていた。
「いや、折角って。解雇を折角って……」
「なんか、サトウさんってちょっとズレてますよね」
折角って言ったのがまずかったらしい。
まあ、その辺は置いておいて、だ。
「旅、ついてくるか?」
何気なしに聞いてみる。
彼女たちは前回の旅で問題は解決、または解消された。だから、今回はただ単に旅をするのについて来る必要は無い。
レイは一人で生きていけるようになったし、セシルともずっと仲を深めた。だからもう、俺が傍に居続ける必要は無い。
でも、それでも、旅に一緒について来てくれるのなら。
「ついて行きますよ。楽しそうですからねー」
「ボク、結構色んな街とか行ったことあるからねー。どーしてもって言うなら、案内してあげなくもないけどー?」
「じゃあレイ、いつ旅に出ようか。明日?」
「早くないですか? 食料とか買わないとなので、数日は準備に入りますよ」
「行く! 行くから! 置いてかないでください!!」
傍にいてくれるのならきっと、俺は――。
「じゃ、留守番よろしくセシル!」
「お土産、楽しみにしててね」
「聞いてってば!」
――カタンっと、微かに音がした。
二人はその音に気づいた様子はない。
「今までありがとう」
微かな声で言葉を投げかける。けれど、返事はない。ずっと、気にかけてくれていたんだろう。きっと。
「はいはい。騒いでないで、何準備するか決めるぞ。特にセシル」
「なんでいつもボクが悪い流れになるんだよ!」
「素直って結構大事なんだよねー」
「それレイも一緒じゃん!」
「は、はあ? ……ちょっと何言ってるか分からないです」
いつか壊れてしまうとしても。手に入れることが出来たこの日常を壊したくないから。
「よし、じゃあさっさと支度して旅に出るぞ!」
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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