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協力

 


  ☆ □ ☆ □ ☆


「『シャッフル』!」


  視界をの変化に戸惑い動きが鈍ったところへ銀色の閃光が走る。


「ナイスだ、ナッちゃん!」

「まだ油断するな! 次が来るぞ!!」


  今にも真緒を握り潰そうと迫ってきていた腕に剣を突き立て、怯んだ隙に真緒が抜け出す。


「……キリがねぇな」


  既に倒した魔物の数は二桁台に登っている。だが、眼前にはそれを遥かに超える数の魔物がひしめき合っていた。


「ナッちゃん、もう撤退も視野に入れるべきじゃないかな!?」


  さすがにこの数は無理だと判断したのか、真緒がナツミに向かってそう叫ぶ。


「……ちっ。こいつらはともかく、あの化け物を放っとくのは怖いが……命には代えられない、か。仕方がない、ま――」


  ――真緒、撤退するぞ。

  その言葉が声として発せられることはなかった。


「『変幻自在』」


  地面がぬかるみ次々と魔物たちを飲み込んでいく。


「吉岡!」


  頼もしい味方の登場に思わず喜色の声が漏れてしまった――わけではない。啓大のちょうど真上から蜘蛛型の魔物が降り注いでいた。


「――あー、もう。何油断してやがんですか」


  気だるそうな、苛立ちの混じった声と共に先程啓大の言葉が復唱される。

  地面から大きな腕が伸びてきて、空中にいた魔物を押し潰した。


「……あ、ありがとうございます」

「礼はいいからさっさと倒し切りますよ」


  突然現れた少女には見覚えがあった。確かあれは、啓大を探していた時に共にした少女であったはず。


「確か名前は、リナ」


  知り合いだったか。

  どういう関係なのか、聞きたいことはあるものの協力してくれるのなら質問は後回しだ。


「吉岡、来てくれたところ悪いが一旦撤退する! あっちであの真っ赤な化け物の注意を引き付けてくれている宮村を連れて逃げてくれ!」


  逃げるだけなら真緒と二人で十分。今はこちらよりも秀一の方が危険度は上だ。


「ナッちゃんっ!!」


  一瞬。されど一瞬。

  瞬きする程度の意識の抜けを見抜いて、魔物は襲いかかってきた。


「し――」

「『疾風迅雷』」


  ナツミの眼前を稲妻の如き閃光が過ぎ去って、遅れて音が轟いた。


「いったあ……硬いなあ、こいつ」


  鉄と遜色のない硬さの甲殻を拳一つで砕いた彼女は手を摩りながらそう呟いた。


「モンク……!」

「おうおうおう、何ボケーッとしてんですか。詳しくは知らないけど、貴方が司令官じゃねーんですか? なら、常に戦場に気を配っててくださいよ」


  その言葉にはっと我に返りナツミはスキルを使用して周囲の確認をする。


「これは……」


  さっきまでは見受けられなかった人達が次から次へと現れていた。


「やあ、はじめましてこんにちは」


  胡散臭い声がナツミの背中に投げかけられた。


「あんたは……」

「四号、と言えばわかるかな?」

「わからん」

「はっはっはっ。即答か」


  話は聞いている。民衆を扇動し、カトリーヌ嬢とやり合ったと聞いている。


「なに、分からなくていい。貴女たちの味方だってことを理解していればね」


  大袈裟な身振り手振りで、しかし不快感を感じさせない柔和で胡散臭い笑みを浮かべて彼女は語りかけてくる。


「……初めて会ったやつを信用しろって言うのか?」

「なあに。立場的には上の人に頼まれてね。何も悪巧みなんてしてないさ」

「信用できると?」

「するしかないんだよ」


  瞳がキラリと妖しく輝き、人差し指を突き立ててきた。


「今この状況で撤退はもうできない。かと言って、あの魔物の相手は貴女がいなければ倒せないでしょう」

「……何が言いたい」

「かと言って、ここの指揮を疎かにするわけにもいかない」


  くっくっくっと喉を鳴らして、目だけでもう分かるよね? と圧をかけてくる。……確かにこいつの言うことも一理ある。


「……何が目的だ?」

「そうだねぇ……とりあえずは貸一としておくよ」


  直接見返りの内容は口にしないものの見返りは貰うと宣言した。

  四号が口にした言葉から、三号と同じ目的なのだろうと結論付ける。もしも三号と同じ目的ならば、ここで貸しを作ったとしても問題は無い、はずなのだが。


「内容をはっきりと明言しろ。なに、多少の無茶は飲むつもりだ」


  このタイプの人間には下手に弱みを見せない方がいい。そう判断して返事をすると、四号は感心したように口元を笑みを深めた。


「……ま、いいさ。私のお願いは、『これからの私たちの社会復帰のバックアップ』。盗賊団が引き取ってくれるって話は聞いているけど、入ったあとのことを考えると安心が欲しくてね」


  盗賊団……八代か。

  八代が上手いこと説得してくれたのか。


「こちらははっきりと明言してあげたんだ。返事を聞かせてもらおうじゃないか」


  今、彼女の手を取ることは最善手の一つだ。だがしかし、彼女に任せることで、貸しを作ることで、これからの自分が苦しむはめになるかもしれない。


  けれど――今を乗り越えれたあとならいくらでも苦しんでやる。


「わかった。お前のお願い、最大限保証してやるよ」

「保証じゃなくて確証の方が欲しいのだけど……まあ、あまり欲をかいてはいけない、か」


  言及しようと思っていたようだが、それは既のところで止めたらしい。


「これから仲良くやろうじゃあないか。ナツミさん?」

「……どこから名前を知ったんだか」


  差し出してきた手を握らず叩いてやる。


「はっはっ。……さあて、五号、聞いていたね? ちょっと一仕事頼めるかい?」

「……どーせ、断ってもゴリ押して来るんだから聞くんじゃねぇよ」

「こういうのは自らが了承した、という結果が大事なんだよ」


  四号との軽口に疲れたような笑みを零したかと思うと、神妙な面持ちでナツミの方へ顔を向けた。


「おう、嬢ちゃん。まあそのなんだ……気ぃつけろよ」

「はあ……」


  突然の激励に戸惑った表情を見せるナツミ。四号はというと、そんな五号の姿に興味深そうに「へぇ……」と呟いて笑みを深めた。


「意外だねぇ。あの、子供にしか優しさを見せない五号くんが励ましの言葉を投げかけるだなんて……」

「喧嘩売ってんのか。つか、人聞きが悪ぃなおい」

「事実じゃあないか。ロリコン紳士くん?」

「そんなんじゃねぇ言ってんだろ。それにあっちにゃ、あの小娘どもが……」


  これ以上残っても時間の無駄か。

  そう判断したナツミは踵を返して秀一が相手をしてくれているであろう場所へ向かう。


「あー、一応気ぃつけとくわ」


  ひらりと片手を振ると、啓大と共に秀一の下へと向かうのだった。


  ☆ □ ☆ □ ☆


  暴食との戦いは激化していた。


「……かなりいるな」


  秀一やシモンだけでなく、三号に六号、八号、九号とちびっ子連中が勢揃いしていた。

  秀一とシモンが主に本体への攻撃を担当し、六号と九号が囮になる。それを三号と八号がフォローに回っているという形で戦っている。


「……これなら勝てそう……ですかね?」

「厳しいだろうな」


  なにせ決定打がない。ここで耐久をすることは出来ても、倒すとなれば話は別だ。


「あれを倒すとなれば、広範囲かつ高火力の攻撃がないと厳しい」


  一撃で決めれるのなら八代や御幸を酷使出来るが、そうでないなら無茶はさせられない。


「吉岡、あれを押し潰すぐらい広範囲を操れるか?」

「広範囲ってだけなら可能ですけど、押し潰すほどの質量となれば無理ですね」

「そうか」


  とりあえず、なぜか付いてきているリナにも水を向ける。


「そっちは?」

「無理でございますねぇ。あそこまででっかくなりやがると、あたしにはどうも」


  啓大が無理といった時点で何となく察してはいたが、やはりリナも無理らしい。となると、もう三号をフル活用して人海戦術で何とかするしか方法が……。


「あのっ!」


  いつもとは少し違う、緊張の色が混じる声が届いてきた。


「……おう、レイか。どうした」


  彼女の姿を視認して、そしてようやく彼女がいたと思い至る。


「私から提案があります!」


  決意と覚悟が入り混じったその瞳から、一つの考えがナツミの中に浮上した。

  作戦の一つとしてある、と分かっていたからこそ無意識的に除外していた作戦。それを彼女は持ってきたのだと。


  ――良いのだろうか。


  そんな考えが脳裏に過ぎる。

  もしも彼女に何かあったなら、サトウに対して見せる顔がない。


「ナツミさん、聞いてください」


  しかしそんな考えは次の瞬間には霧散した。

  それを実行するにあたって、本人以上に苦悩出来るような人なんていない。ここまで決意を固めるには、相当な意思が必要なはずだ。

  ならば、その彼女の意見を最大限尊重しなくては。


「いいぜ。聞かせてくれ」


  レイのスキルは、発動条件が厳しければ厳しいほど威力が増す。その最大威力は八代や秀一の最大威力をも上回るだろう。

  そしてスキルの発動が困難だと判断されれば、相手の動きを予測せずとも高威力の攻撃をたたき込める。それ即ち――。


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