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頭領と副団長として

 


  ☆ □ ☆ □ ☆


  互いに互いを見合ったまま固まってしまった。

  だが、そうこうしているうちに魔物の軍団はこちらに迫ってきている。無駄に時間を浪費することだけは避けなくてはいけない。


「……ところで、お前は何者なんだ?」


  水を向けたのは突如八代と共に出現した少年。会話に入ってこようとはさず、かといって立ち去る訳でもない微妙な立ち位置。


「……」


  三号はそっぽを向いたまま反応をしない。

  八代を連れてきたスキル、瞬間移動のスキルを使えば今ここにいない吉岡やシモン、モンクを連れてきてもらえば、この状況の打破に繋がりそうなんだが……。


「……真緒、この辺りにいる魔物をここから離すぞ。山田と鳥井は悪いが回復に努めてくれ」

「ん? ナッちゃんも来るのかよ」

「さすがに真緒一人じゃきついだろ」


  何か言いたげな様子ではあったが、一人だけではきついというのはわかっているのか、真緒からは特に反論はなかった。


「ぬぅ……すまぬな。我も無理をしてでも手伝うべきなのだろうが、今動けば逆に足を引っ張ってしまうゆえ」

「気にするな。山田のその判断は間違ってない」

「すぐに回復して、僕達も手助けに向かうさ。だからそれまで耐えておくんだね」

「頼りにしてるよ」


  ナツミが立ち上がり、続いて真緒が立ち上がる。

  今この瞬間にも多くの魔物があの化け物に、ひいてはそれと戦っている秀一の下へ向かっているのだろう。


「やるか」

「おう」


  互いに短い言葉を交わして駆け出した。


  ☆ □ ☆ □ ☆


「……して、少年。名はなんと申す」


  ナツミと真緒の二人の背中が見えなくなると、八代は三号へと声をかけた。


「……」

「……ふむぅ。黙りか」


  慣れた手つきで止血をしながら、ちらりと御幸へ視線を流す。「どうする?」という意味の視線を正確に理解した御幸は、「任せる」と肩を竦めてみせる。


  損得勘定で動くタイプであれば御幸の方が適任なのだが、三号はそうでは無い。そう判断したのだ。


「我の名は山田 八代と言う。ちょっとした盗賊団の頭をしている。そして、」

「僕は鳥井 御幸。この国一の騎士さ」

「御幸殿の自己評価の高さは相変わらずであるのう……」

「事実を言っただけさ。謙遜は時に嫌味となる」

「謙遜している姿を見たことがないのだが……」


  二人の掛け合いを冷めた目で見つめる三号に、八代は再び水を向ける。


「少年、貴様の名は何だ?」

「……それ、あなた達は名乗ったのだからこっちも答えろという脅しですか?」

「否、そのような意図はない」


  会話のきっかけとなれば良いので、この時点で目的は達成されている。


「それなら、答えません」


  そうはっきりと言ってきた三号に八代は満足気に頷いてみせる。


「ならば、名無しのゴンベエと呼ばせてもらおう」

「は……?」


  名前がないと呼びづらいので、仮名を付けてあげると信じられないとばかりの声が返ってきた。


「どうした、名無しのゴンベエ?」

「……それ、もしかして嫌がらせ?」

「ふむぅ? なんの事だ?」


  悪意も何も無くただ不思議そうに首を傾げる八代を見て、三号ははあっとため息を吐く。


「……んごう」

「む? 何か言ったか?」

「だから三号ですって。名前、ちゃんと呼んでください」

「しかし、それも本名では無いのだろう?」

「今はこれが本名ですし、僕はこれ以外の呼び名を本名だとは思いません」


  これ以上追求するなと、無言でそう訴えてくる。気にはなったものの、薮蛇は御免だと諦める。


「三号よ、汝は我らと協力する気はあるか?」

「あなた達に協力した場合、僕にメリットはあるの?」


  尊大な言い回しを気にも止めず、試すような目で八代を見据える。どう自分を説得するのか、口元を吊り上げ薄く嗤う。

  見当違いに金を積むのか、地位を保証するのか。それとも感情に訴えるのか。

  果たして、八代の選択は――。


「ある」


  即答だった。自信を持って、確信を持って、そう言い切った。


「へぇ……」


  温度の感じさせない声が発せられた。三号は八代を、ともすれば睨みつけるかのような目で見ていた。


「それって、どんなメリットですか?」


  試すような声音。それに心底不思議そうな声が返ってくる。


「それは三号が一番よく分かってるのではないか?」


  三号は秀一に協力をした。そして今も姿を消すことはなく、こうしてここに留まっている。つまり彼にはこうやって交渉し、手に入れたいものがあるのだと、そう思った。

  言い出すきっかけを与えれば、協力を取りつけることは出来るだろうと、そう思ったのだ。


「……僕のスキルを使えば、あなた達に協力してくれる人物を集めることができます。少し時間はかかりますが」

「多少の時間であれば問題なかろう」


  うむ、と大きく頷いて問題はないとそう返す。


「では、僕たちが協力する代わり僕たちの今後の生活を保証してください」

「保証……か」


  僕たち、という言葉が誰を指すのか、それは何となく察せれたが何も言わずに無言で続きを促した。


「はい。僕たち……一号から百号までの生き残りの生きる場所を保証してください」


  つまりは、侵略者を赦し、庇護せよと言っているのだ。

  これは八代ではなく、御幸に要求しているのだろう。そう判断し、返答は御幸に任せた。


「……国として、侵略者を保護することは出来ない」


  はっきりと、そう言い切った。

  ……だろうな。ここで受け入れると言ったところで、国民がそれを黙って受け入れるとは到底思えない。せいぜい今誓えるとすれば、彼らを追求しないことぐらいか。


「……なら、ある程度は協力する。だから罪人として僕らを追うようなことはしないでほしい」


  少し協力のグレードを落とす代わりに報酬のグレードも落とした。全面協力が欲しいのであれば、最初の提案を飲むしかない。だが、御幸が確約できるラインを攻めることで、最低限の保証を得ようという魂胆。

  交渉のテクニックとしては長期的には良くないが、この一回限りであれば効力はある。


「……この件以降、何か問題を起こせば騎士団が動きます。それでもいいのなら、提案を受け入れよう」


  これでも国民の不満は騎士団、ひいては御幸に集中するだろう。きっと、いや確実に、彼は騎士団を辞めさせられる。国民の安全のために国民の安心を売るような騎士は信用出来ないと。


  清く正しい騎士様には、伸ばせる手には限度がある。だからこそ、薄汚れた手が必要になる時があるのだとずっと考えていた。そしてそれが、今なのだと。


「我が盗賊団が受け入れよう」


  気づいた時には、口から言葉が溢れ出ていた。


「職歴不要、前科持ち歓迎! 我らが盗賊団の規則を守るのであれば、歓迎しよう」


  にっと笑って手を伸ばした。


「盗賊……ですか」

「うむ。気に入らなければ、ほとぼりが冷めた時期にでも抜ければ良い。己の力で生きていくつもりならば、我は止めんよ」


  三号の声の中にある不安の色を読み取って、フォローするようにそう言い募る。


「それで、どうする? 我と組むか、御幸殿と組むか」


  三号の瞳が微かに揺れる。

  その瞳を真っ直ぐ無言で見つめ返した。


「……わかりましたよ。よろしくお願いします」


  諦めたように息を吐くと、彼は八代の手を取った。


「ふふん。さすが我、交渉のプロと呼んでくれても良いぞ!」

「……それで君は結果を出してるからねぇ」


  鼻高々にそう言う八代を見て呆れたように肩を竦めた。


「それじゃあ、頼めるかい?」


  今は一分一秒を争う状況だ。今も秀一やナツミ、真緒は危険を犯して魔物と戦っている。交渉は必要だったので仕方がないとしても、ここからの行動は迅速にするべきだ。


「任せてよ。これでも、最年長者の一人なんだからね」


  ひらりと手を軽く振って、瞬きする間に消えていた。ここからは彼が協力してくれているという前提で動く。


「それでは僕たちも行きますか」

「うむ」


  応急手当をし終えて、彼ら二人は立ち上がる。


「無理はしないようにしてくださいね」

「なあに、こんな状況だ。多少の無茶はするさ」

「では、死なないように」

「うむ。お互いにな」


  男二人の言葉を交わし、戦場に向けて進み出す。

 

  全てを飲み込まんとする暴食との最終ステージが今始まる。


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