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解雇された戦闘員


――魔王城。


「なん……だと……」


俺は床に手をつき、項垂れる。

こんなことが、許されていいのか。

キッと目の前にいる、骨だけのくせにいっちょ前にマント羽織ってる魔王を睨みつける。


「退職金ださないってどういうことっすか!!」

「いや、うん……。その前に、なんで解雇されるんだって質問来ると思ってたんだけど……」


困ったように頬をかく魔王。いや、頬か? そこ。骨じゃね。いや、全身骨か。


「なんで解雇されるんすか!!」

「……君の部下からね、セクハラされたという問題が浮上してきてるんだよ」


セクハラ……。女子寮に忍び込んだことだろうか、それとも男風呂から女風呂に変わるまでの間風呂場で隠れていたことだろうか……。


「えーっと、心当たりはある?」

「すみません、分かりません」

「ないなら、その訴えてきた者と誤解だったり勘違いだったりを解けるよう、私の方からも――」

「いや、心当たりがありすぎて分かりません」

「いやおい」


とはいっても、そのほとんどの件についてはもう既に罰は受けているような気がする。

火炙りにされたり、水責めにされたり、魔獣の群れに放り込まれたこともあったなー……あれ、これ割とガチめに嫌われてね。つか殺すつもりだったんじゃ……。


「……他にも、君の人間に対する態度が悪すぎてついていけないという苦情がチラホラと」

「いや、それはちょっと言いたいことがあるんすけど」


それについては、俺にも言い分がある。


「魔王軍が人間相手に残虐の限りを尽くして文句言われるって、おかしくないっすか!?」


そう、魔王軍の人間――人類は戦争状態。そんな状況で相手に酷いことをしたからと言って、俺がおかしいみたいなことを言われるのは心外だ。


「今の魔王軍は、人類と出来れば血は流すことなく和平交渉をしようと動いている。私より以前の魔王の例もあり、上手くいってはいないがな」


厳かにそう断言する魔王。


「いやあんた、前魔王様の 『人類は滅ぼすべし!』っていう言葉を忘れたんすか!」

「あんたって……。それに、平和的に解決出来ればうちも相手側も、被害は少なくて済む。それぐらい、分かるだろう?」


穏やかな口調で諭してくるが、こちらは全然納得がいかない。やはり、この魔王と自分は根本的に馬が合わないのだ。


「……分かりましたよ。じゃあ、次は退職金が出ない理由を教えてください」


頭を掻きながら、仕方ないとため息を吐いて妥協する。


「それは単に魔王軍の資金がないからだ」

「ふっざけんな!」

「古参の君なら、この状況も理解してくれると思ってね」

「いやいやいや! ただでさえ低賃金なのに退職金が出ないってどういうことだよ!」


理解したくねぇ。というか、退職金が出ないことを理解しろって酷くありませんかね……?


「ここから先は好きなように生きなさい。人間の生活でも見れば、君の考えも変わるかもしれないし」

「変わらねぇし、何いい感じに話が終わった感出してんだよ! 何も終わってねぇよ!!」

「おい、連れて行け」

「おいこら離せ……! 退職金出せやー! おいちょっ、痛い痛い。優しく、優しく掴んでーー!!」


魔王の側近の騎士二名に連れられて、魔王城の外まで連れ出される。

クソが……。覚えとけよ、こんちくしょう。


「では、長年お疲れ様でした」


一度俺に向けて礼をすると、側近の騎士二名はさっさと魔王城へ戻ってしまった。


「ちっ……。情の欠片もねぇ奴らめ……。そっちがその気なら防衛塔に爆弾仕掛けてやる……!」


ぶつぶつと文句を言いながら、俺は――サトウは東へ向かって歩き出したのだった。


☆ ☆ ☆


――一年後。


「ヒャッハァ! 命が惜しくば、荷物を置いていけぇ!!」


通りがかった竜車を襲う。


「なっ、なんだね、私がどこの誰とわかったの所業かね!?」

「ンなもん知るか! 殺されて荷物を丸ごと奪われるか、それとも荷物だけ置いて逃げ出すか。さぁ、選べ!!」


ナイフを持ってニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。


「いっ、いいのか!? わ、わたひに危害を加えると……」

「だぁかぁらぁ、さっさと選べよ。じゃねぇと、もう殺すぞ? さーん、にーい、いー……」

「ひゃあああぁぁ!!」


男は顔を青ざめて、竜に跨り逃げていく。


「はっ、口ほどにもねーやつだ」


まあ、そこまで強がれてはなかったけど。


「さーて、食べ物、飲み物、何があるかねー」


切り替えて、荷物を漁るべく荷台に入る。


「こりゃあ、まずいもん襲ったかもしんねぇ」


荷台に入り、視界に映ったものを見て目を丸くする。先ず目に入るのは、薄く青みがかった耳もとまで伸びている髪。続いて薄汚れた布で作られた服が目に入った。


「これは、あれか」


――奴隷ってやつか。

最後だけ言葉にはせず、胸中で呟いた。


「あー、テステス。おーい、起きてるかー? つか生きてるよな?」


声をかけるが、ピクリとも反応しない。不審に思い、その少女の近くによると屈んで少女の目の前で手を振る。けれど、それでもなんの反応も示さない。


「あれ? これガチで死んでんじゃ……?」


流石にここまで反応がないと不安に思ってしまう。確認を取るために、手を触って脈をとる。


「生きてはいる、か」


ただ、反応はない。と、そこで首筋に何かの文字らしきものがあることに気がついた。


「こりゃあ……魔術か魔法のコードか」


これでこの少女の意識を遮断して、暴れることのないようにしているのか。……反吐が出る。

俺は少女の首筋に手を当てる。


「設置型の魔法である魔術は、往々にして術者以上の魔力を流せば壊れる」


そう言いつつ、手へと意識を集中させる。すると、首筋のコードが一瞬だけ発光すると、霧散した。


「ん……」


短く呻くと、少女は髪と同じ色をした瞳を開けた。


☆ □ ☆ □ ☆


遠くから何かが爆発するかのような音が響いてくる。

それから少しして――。


「――魔王様!」


魔王の下へ側近の騎士が近づいてくる。


「どうした」


魔王は厳かに、そう問いかける。騎士は居住まいを正すと、口を開いた。


「報告です! 防衛塔が爆発しました!!」

「……原因はわかっているのか?」


魔王は額に手をやり、疲れたようにため息を吐く。


「はい、おそらくは何者かが防衛塔に魔術を設置したものと考えられます」

「どこのどいつだ。こんなことをしでかしたのは……」


そこまで言ったところで、魔王の脳裏には六名の男女の姿が脳裏に過ぎる。


「……ここ最近、怪しい者が防衛塔に入ったという形跡はあったか?」

「いえ。ただ、一年ほど前に元魔王軍の戦闘員であるサトウさんが来たという記録が残ってたそうです」


一年ほど前に追い出した時、腹いせにこんなことをしたのだろう。苛立たしげに息を吐く。


「分かった……。元魔王軍戦闘員、サトウを連れ戻すよう騎士団に通達せよ!」

「はいっ!」


慌ただしく駆けていく側近の騎士を見ながら、再度大きなため息を吐く。そして、振り返ると歴代の魔王の自画像が魔王の目に入る。

その中で、前魔王の自画像を見ながら小さく呟いたのだった。


「前魔王様……貴女の想いが、願いが我らを蝕む呪いにならぬことを願っています」


――と。


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