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8話 EXランク

「人間にしてはやるじゃない、褒めてあげる」


 そう言うミカエルさんは、まったく堪えていない様子だ。

 普通、氷漬けにされれば、それなりのダメージを受けるはずなんだけど……

 さすが、大天使。

 力だけじゃなくて、耐久力も抜群だ。


「全部とはいわないけど、ガブリエルの力をある程度使いこなしている。それに、頭の回転も早い。正直、ここまでとは思わなかったわ」

「それじゃあ……?」

「あんたの力、認めてあげる」

「本当ですか!?」


 やった、まさかの勝利!?


「でも……あたし、負けを認めるつもりはないの」


 あ……なんか、流れが怪しい方向に。


「あんたの力は認めてあげるけど、だからといって、勝負を放り出すつもりはないわ。あたしの勝ちで、終わりにする」

「僕の力を認めてくれたのなら、これ以上続ける必要はないのでは……?」

「ダメ」


 一蹴されてしまう。


 ミカエルさんは、どことなくテンションの高い笑みを浮かべて……

 とても楽しそうに言う。


「あたし、負けず嫌いなの。人間にやられっぱなしなんて、許せるわけないじゃない」

「バトルマニア!?」


 ミカエルさんの手に、ものすごい量の魔力が収束されていく。

 魔法に詳しくない僕でも、とんでもないことが行われようとしていることがわかる。


 いったい、なにをするつもりなんだろう?

 もしかして……


「あんたたち人間は、Sランクが最上位だと思っているみたいだけど……それは勘違い。さらにその上の位階があるの。それが……EXランク」

「……EXランク……」

「あたしたち大天使は、EXランクの魔法を使うことができる。その絶大な力の一部を見せてあげるわ」


 ミカエルさんは右手を上に向けて、膨大な量の魔力を解き放つ。


「来たれ、紅蓮の王の闘技場っ!」


 瞬間、世界が赤に染まる。


 ありとあらゆるものが熱を持ち。

 ありとあらゆるものが燃える。


「これ、は……!?」


 反射的に氷魔法で結界を生成したのだけど、完全に熱をシャットアウトできない。

 チリチリと肌が焼ける。


 あまりの熱に大気が揺らいでいて……

 それと、訓練場が悲鳴をあげていた。

 結界の耐久力が限界に達して、今にも壊れようとしている。


「どう? これが、EXランクの魔法……『紅蓮の王の闘技場』よ」

「……EXランクの魔法……」

「あたしを中心に、火の属性の特殊なフィールドを形成する。その中にいる者は……まあ、あんたが今、体験している通りの結果になるわ。今回はさすがに手加減しておいたから、感謝しなさいよ?」


 なんていう力だろう。

 一瞬で、その場を灼熱地獄に変えてしまうなんて……

 世界の理そのものを塗り替えてしまうような、圧倒的な力。


 これが、大天使の実力……か。

 僕みたいな最弱が敵う相手じゃない。


 結界が限界に達する。

 意識が朦朧としてきた。


「ほら、さっさと降参しなさい。そうしたら、すぐにフィールドを解除してあげる」

「う、く……」

「まだがんばりたい、とか? 強情ねえ……でも、その様子じゃあ、あと1分も保たないわね」


 ミカエルさんの言葉は正しい。

 というか、あと30秒も意識を保っていられるかどうか……それさえも怪しい。


 でも。

 僕は。


「まだ降参しないの? そのままだと、ホントに気絶するわよ? こんな状態で気絶したら、さすがに身の安全は保証できないわよ」

「そう、かもしれません……」

「なら……」

「でも、僕も……負けず嫌いですから!」


 最後の賭けに出る。


 右手にありったけの魔力をかき集める。

 フィンネルさんに祝福を授けてもらったからなのか、魔法を専門としない僕でも、スムーズに魔力を収束させることができた。


 イメージだ、イメージしろ。

 ミカエルさんがEXランクの魔法を使う時のイメージを、僕の頭に叩き込む。

 荘厳で華麗な姿を塗り込んでいく。


 そうして、完璧にイメージを固めて……

 それらを魔力と一緒に、一気に解放!


「吹き荒れろ、雪の女王の抱擁っ!」

「なっ!? それは、ガブリエルのEXランクの……!!!?」


 次は、世界が白く凍えて……

 僕の意識も、そのまま白に染まっていった。




――――――――――




「……あれ?」


 目を開けると、空が見えた。

 天井に大きな穴が空いていて、そこから青い空が見える。


 それと……


「ミカエルさん……?」

「起きた?」

「えっと……」


 なんで、空と一緒にミカエルさんの顔が……?

 それと、頭の裏の、この柔らかくて弾力のある感触は……?


「あんた、気絶してたのよ」

「気絶……?」

「覚えてないの? あたしと勝負をして……」

「あ、はい……覚えています。ミカエルさんが、EXランクの魔法を使用して、それから……あれ?」


 僕は、どうしたんだっけ?

 確か、あれは……


「あんたも、EXランクの魔法を使ったのよ」

「僕が……?」

「論理的には可能なんだけどね。祝福を授かるということは、対象の天使と魂を同一化して、アストラルサイドで一つになるということ。故に、あんたはガブリエルの力の全てを己のものとすることができる」

「えっと……?」


 ミカエルさんが説明をしてくれているのだけど、その説明が難解すぎて、なにを言っているのやら……


 僕の混乱を理解したらしく、ミカエルさんが苦笑する。

 その笑みからは、最初に出会った頃の棘は感じられない。


「ようするに、あんたはガブリエルの力を全部使うことができる、っていうわけ」

「そう、なんですか……あ、なんとなく思い出してきました。僕、ミカエルさんになんとかして対抗しようと、EX魔法を……」

「EX魔法なんて、祝福を授かったとしても、人間が使えるわけないんだけど……Sランクはともかく、EXランクは、それこそ一生修練を積んでも無理なのよ? 過去、様々な人間が天使の祝福を授かったけど、EXランクの魔法を使えたなんて事例、どこを見てもないわ」

「それじゃあ、僕は……?」

「とんでもない才能があるのか、はたまた、なにかしら別の要因があるのか……まあ、それはわからないわ。とにかくも、あんたはEXランクの魔法を使って……その結果がコレ、っていうわけ」


 ミカエルさんが周りを見る。

 その視線を追いかけると……


「うわっ」


 ボロボロになった訓練場が。


「なんで、こんなことに……って、僕たちのせいですね」

「そういうこと。EXランクの魔法を二つも使えば、人間の作った結界なんてすぐに消し飛ぶわよ。で、この訓練場も壊れた、っていうわけ」

「……後でマイ先生に謝らないと」


 怒られるかなあ……?

 怒られないといいなあ……


「でも……僕、負けちゃったんですね」


 ミカエルさんは、僕の力を認めると言ってくれたけど……

 どうせなら、きちんと勝利して、認めてほしかった。


 一応、僕も男で……

 そういう意地のようなところはある。


「その……あんたはよくやったわ」

「え?」

「EXランクの魔法まで使うなんて、本気で思っていなかったし……ただ単に、ガブリエルの祝福を授かったから強い、っていうわけじゃなかった。あんただからこそ、っていう……あんた個人が特に優れているんだと思う。あー、つまり、なんていうか……普通にすごいと思う」

「……ミカエルさん……」

「だから、もっと誇りなさい。たとえ負けたとしても、このあたしを……火を司る大天使ミカエルに善戦したのよ。そのことを誇るべきであって、落ち込むべきじゃないわ。違う?」

「……はい、そうですね!」

「よろしい。理解したのなら、今は、もう少し休みなさい」

「あ、そういえば、この膝枕は……」

「細かいことはいいの。ほら、休むこと」

「……はい」


 ミカエルさんが、僕の頭を優しく撫でてくれる。

 なぜか、亡くなったおばあちゃんのことを思い出して……

 僕は、ぎゅうっと目を閉じるのだった。

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