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6話 大天使ミカエル

 フィンネルさんから聞いた場所……中庭に向かう。

 彼女の話によると、ミカエルさんは放課後になると、かなりの確率で中庭に移動するという。


 そこでなにをしているのか?

 そこまではわからないらしいが……

 うまくすれば、ミカエルさんの心を開く鍵を得られるかもしれない。


「よし、やるぞ!」


 僕は気合を入れて中庭へ。


「えっと、ミカエルさんは……いた!」


 中庭はたくさんの緑が植えられていて、さらに、小さな川も流れている。

 ちょっとした公園だ。


 その一角に、ミカエルさんの姿があった。

 なにやらしゃがんで、右手を前に差し出して、ちょいちょいと動かしている。


 なにをしているんだろう?

 不思議に思いつつ近づいてみると、


「にゃんにゃんにゃん、にゃあー……うにゃ? にゃーん」


 猫と遊んでいた。


 とてもごきげんな様子で。

 とても晴れ晴れとした笑顔で。

 そして……猫語? を口にして、楽しそうに遊んでいる。


「キミはかわいいにゃー。将来は美人さんだにゃー。ふふっ、本当に……かわ、いい……にゃ……?」


 あ……目が合った。


「……」

「……」


 しばしの沈黙。

 ややあって、ミカエルさんが真っ赤な顔をして、プルプルと震え始める。


「エクサフレアぁあああああっ!!!!!」

「わあああっ!? え、エクサブリザードッ!!!」




――――――――――




「……あによ」


 あれから、なんとかミカエルさんを落ち着かせることができて……

 彼女は顔を赤くしつつも、普通に話ができる様子で、こちらを睨みつけていた。


 一方の僕は、まだ心臓がバクバクしていた。


 まさか、いきなりSランク魔法を放つなんて……

 フィンネルさんに祝福を授かっていなかったら、死んでしまうところだった。

 彼女が問題児と言われている理由が、少しわかったような気がする。


 ちなみに、さきほどの騒動で猫はどこかへ消えた。


「なんで、あんたがこんなところにいるのよ……っていうか、とんでもないところを見られて……くうううっ、やっぱ、コロスしか……!!!」

「ま、待ってください!」

「なに? 遺言くらいなら聞いてあげるけど?」

「えっと……ごめんなさい!」

「は?」


 頭を下げると、ミカエルさんはきょとんとした。


 僕は、そのまま謝罪を続ける。


「最初に、きちんと声をかけるべきでした。でも、そのことを忘れてしまい……そのせいで、ミカエルさんに恥ずかしい思いをさせてしまいました。もうしわけなく思っています」

「……なによ、それ」


 ミカエルさんは、どこかバツの悪そうな顔をして、僕から視線を逸らす。


「……別に、あんたが謝る必要はないじゃない」

「え?」

「悪いのはあたし。あんなところを見られたのは恥ずかしかったけど、だからって、いきなり攻撃魔法をぶっ放すなんてどうかしてた……だから、その……えっと……ごめん」


 ミカエルさんはひたすらに気まずそうにしつつも、最後まで言葉を紡いで、しっかりと頭を下げた。

 思わぬ展開に、今度は僕が目を丸くしてしまう。


 驚いて……そして、感動に近い感情を抱く。


 フィンネルさんと言い争いをしている時から感じていたことだけど……

 やっぱり、ミカエルさんは悪い子じゃない。

 むしろ、良い子だ。


 ただ、ちょっと不器用で、感情表現が素直にできない。

 それだけのこと。


「ちょっとあんた、なんでニヤニヤしてるのよ? まさか、思い出し笑いとかじゃあ……」

「違いますよ。ミカエルさんが優しいから、そのことがうれしくて……それで、笑顔になってしまいました」

「はっ、はぁ!? あたしが、や、優しいとか……はぁ、はぁあああ!? わ、わけがわからないんだけど!」


 ものすごく動揺している。

 こうして、落ち着いて話をすると、よくわかる。


 この子……とてもわかりやすい。


「えへ」

「うっ……ま、また、そういうかわいい笑顔を……」

「え?」

「な、なんでもないしっ! うぅ……ただの子供のはずなのに、なんでこんなにかわいく見えるのかしら……? ガブリエルの性癖が感染……?」


 色々とつぶやいているけど……

 また混乱させたくはないので、深くは追及しないでおこう。


 それはともかく。


 これなら、ミカエルさんと話をすることができそうだ。

 猫のことに触れても……大丈夫かな?


「ミカエルさんは、猫が好きなんですか?」

「……悪い?」

「悪いなんて、そんなことありませんよ。猫、かわいいですよね。僕も大好きです」

「そ、そうなの?」

「はい! 実は昔、猫を飼っていたことがあるんですよ」

「へぇー、本当に? どんな猫?」

「白と黒のかわいい子でした。あと、とても優しくて、僕の手をよくグルーミングしてくれたんですよ」

「グルーミング、っていうと……ペロペロって舐めるあれ?」

「はい。猫なりの愛情表現だと思います。ただ……猫の舌ってザラザラしているから、あれ、けっこう痛いんですよね」

「いいじゃない。幸せな痛みだわ」

「あはは、そうですね。とても幸せでした」

「……もう、その子はいないの?」


 僕の言葉が過去形であることに気がついたらしく、ミカエルさんがなんともいえない顔になる。


「はい。しばらく前に、寿命で」

「そう……ごめん。辛いこと思い出させたわね」

「いいえ、気にしないでください。確かに、あの子が死んでしまったことは悲しいですけど、でも、寿命ですから。最後の最後まで、おもいきりかわいがったという自負がありますから……僕もあの子も、きっと幸せでした」

「……そう」


 ミカエルさんは優しい笑みを浮かべる。

 天使らしく、慈愛にあふれる笑みだ。


 そんな顔を見ていると、とても優しい人なのだな、ということがわかる。

 ツンツンしているところはあっても……

 それは表面上のことだけ。

 とても優しい心を持っているのだろう。


 ただ……


「それで?」

「え?」

「なにかあたしに用があって、ここに来たんでしょ。でなきゃ、わざわざ中庭なんかに足を運ばないし」

「あ、はい。実は、ミカエルさんとお話をできればと……」

「却下」

「えぇ……」

「人間と話すことなんて、なにもないわ」


 人に対して良い印象を持っていないらしく、僕のお誘いはすげなく却下されてしまう。


 この仕事を請けるにあたり、アルルさんやギルドマスターから、天使について一通りの説明を受けている。

 その中で、天使はプライドが高いものが多く……

 能力の低い人間を見下している者がほとんど、という話を聞いた。


 ミカエルさんも、そういうタイプなのだろうか?


「うーん」

「なによ、人の顔を見て」

「いえ……ミカエルさんは、意味なく相手を否定するような方には見えなくて」

「は? どういう意味?」

「あ、すみません。こちらの話です。気にしないでください」

「気にするなって言われても、そんなこと言われたら気になるんだけど……」


 ミカエルさんは、呆れたような感じでため息。

 それから、問いかけてくる。


「なんで、あんたはあたしに構うわけ? 先生だから?」

「そうですね、それはあるかもしれません。ですが、それだけではありません」

「と、いうと?」

「ミカエルさんと、仲良くなりたいと思いました」

「なんで?」

「仲良くなりたいと思うのに、理由なんていりますか?」

「それは……」


 先生と生徒なので、ちょっと違う形になるかもしれないが……

 僕は、ミカエルさんと友達になりたい。

 そう言えるくらいに、仲良くなりたい。


「ダメでしょうか……?」

「くっ……こんな時に、上目遣いで尋ねてくるなんて……あ、あざとかわいいわね……」

「え?」

「な、なんでもないし!」


 なぜか、ミカエルさんが慌てていた。

 なんだろう?


「仲良くなるかどうかはともかく……話くらいなら、聞いてやってもいいわ」

「本当ですか!?」

「ただし」


 ミカエルさんは不敵な表情になり、ビシッとこちらを指差してきた。


「あたしと勝負してもらいましょうか」

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