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5話 仲良くなりたい

 予想外のトラブルの後……


 マイさんは現場に残り、なぜあんなところに竜種が現れたのか調べることに。

 僕は、そういう調査スキル、能力は持っていないため、残っても足手まといになる。


 なので、先生としての本来の仕事を果たすために、教室へ。

 もちろん、フィンネルさんも一緒だ。


 その後、二限目から授業を再開した。


 僕の思いが通じたのか。

 あるいは、スキルのおかげなのか。

 フィンネルさんと仲良くなることができた。


 このまま、他の生徒たちとも仲良くなることができればいいのだけど……

 そんな簡単にうまくいくはずもなくて。


 他の生徒たちとコミュニケーションをとろうとしたけれど、なかなかうまくいかない。

 「かわいい」と言ってくれるものの、フィンネルさんほど仲良くなることはできなくて……

 あと、無反応の人も多い。

 心が通じ合うことはなくて、時間切れ。

 その後の授業も特に大きな変化はなくて、午前の授業、全てが終了した。


「うーん……なかなか難しいですね」


 休み時間。

 職員室へ戻り、授業の準備をする。


 一限目は、おもいきってコミュニケーションタイムとしたが、それをずっと続けるわけにはいかない。

 でも、そういう時間は必要かもしれないし……

 悩みどころだ。


「ただいま」

「あっ、マイ先生。おかえりなさい」


 調査のために残っていたマイ先生が職員室に戻ってきた。


「どうでした? あんなところに竜種が現れた原因は?」

「それが……うーん、なんともいえないのよ。人為的な事件かもしれないし、まったくの偶然かもしれない。もう少し調査を続けて、情報を集めてみないことには……ね。ギルドの冒険者に調査を引き継いできたから、数日中には明らかになると思うわ」

「そうですか……なにもなければいいんですけど」

「ところで……クロノくん、難しい顔をしていたけど、どうかしたの? もしかして……あのじゃじゃ馬天使たちが、またなにか?」

「あ、いえ。そういうわけではありません。第一、みなさん、いい子ですよ」

「……クロノくん、天使か」

「僕、人ですよ?」


 マイ先生、どうしたのだろうか?


「ただ……もっと仲良くなりたいな、と思いまして。でも、それがなかなかに難しく……」

「あなたはなにを言っているの!?」


 なぜか、マイ先生が信じられないというような顔になる。

 どうしたのだろう?


「大天使であるガブリエルさんを守護天使にして、さらに祝福を授かり、さらにさらに神名まで教えてもらうなんて、大成功じゃない! いいえ、超成功と言っても過言ではないわ! 十分に仲良くなれているわ!」

「えっと……すごいこと、なんでしょうか? それ。わりと、普通のことのように聞こえるんですけど……」

「すごいなんてものじゃないわ! 偉業よ、偉業! クロノくんは、人類史に刻まれるような偉業を達成したの! 相手は天使なのよ? そのことを考えれば、とんでもない大成功よ。このことをギルドに報告すれば、とんでもない騒ぎになるわ!」


 うーん……やっぱり、いまいちよくわからない。

 僕はただ、フィンネルさんと仲良くなっただけなんだけどなあ。

 偉業なんて、大げさだよね。


「騒ぎになるのなら、黙っていてくれませんか?」

「えっ、なんでよ!?」

「そんなことになったら、先生を続けられなくなるかもしれないじゃないですか。僕……ちょっとずつですが、やりがいを感じているんです。まだ初日ですけど、確かに感じているんです」


 まだフィンネルさんと仲良くなっただけだけど……

 それでも、確かな手応えを感じていた。

 この思いを形にできるように、もうしばらく、ここでがんばりたいと思う。


「……」


 マイ先生はきょとんとして、


「そう。そういうところが、私たちに欠けていたものかもしれないわね。だから、今まで失敗を繰り返してきた……クロノくんが成功したのは、必然だったのかも」


 なにかを納得した様子で、優しく笑う。


「えっと……?」

「わかったわ。クロノくんがそうしたいというのなら、ギルドの報告は後にする」

「ありがとうございます!」

「ただ、定期報告は欠かせないから、それまでに考えをまとめておいてちょうだいね」

「次の報告はいつですか?」

「一週間後ね」

「わかりました。どうするべきなのか、どうしたいのか。それまでに、きちんと考えて決めておきたいと思います」




――――――――――




「では、今日の授業はこれで全て終了になります。みなさん、おつかれさまでした」


 一日の授業が全て終了した。


 先生として、僕はきちんとできていただろうか?

 しっかりと授業をして、物を教えることができていただろうか?


 一応、話は聞いてくれていたみたいだけど……

 ただ、聞き流していた生徒も多いと思う。

 そんな感じの、手応えのない反応だった。


 フィンネルさんは、しっかりと聞いてくれていた。

 いつか、生徒全員をフィンネルさんと同じ反応にできるようにしたいと思う。


 初日の成果は、あまり芳しくない。

 でも、やりごたえを感じていて……

 明日こそは! とやる気を出すことができた。


「あ、フィンネルさん」


 職員室に戻る前に、フィンネルさんに声をかけた。


「はい、なんでしょうか? わたくしになにか用が?」

「えっと……ここではなんなので、廊下に来てもらってもいいですか?」

「人気のないところで話……も、もしかして……」

「フィンネルさん?」

「はい、今すぐに行きましょう。お話をいたしましょう」

「は、はあ……」


 なんで、そんなに勢いがあるのだろう?

 不思議に思いつつ、廊下へ。


 この学校は、普通の教育機関と同じ規模の建物で作られている。

 地上五階、地下一階。

 体育館やプールなどの施設もあり。

 中庭もあり。


 ただ、20人の天使以外、誰もいない。

 とても贅沢な使い方をしているけれど……

 それはそれで仕方ない。

 地上最強の天使の機嫌を損ねるわけにはいかないため、最高級のものを用意したのだろう。


 その甲斐あってか、彼女たちは不満を抱えている様子はなさそうだ。

 もっとも、喜んでいるわけでもないけど。


「ここでいいですね」


 中庭に移動した。


「それで、フィンネルさん」

「はい! なんでしょうか!?」

「ミカエルさんについて、聞きたいんですけど」

「……」


 フィンネルさんが、なぜか死んだ魚のような目に!?


「ふっ、うふふ……クロノ先生は、持ち上げて落とすのがお上手なのですね。まさか、わたくしにミカエルさんのことをお聞きになるとは……」

「えっと……すみません? フィンネルさんは、ミカエルさんと仲が良いように見えまして」

「クロノ先生、おやめください……あのような野蛮天使と仲が良いなんて、笑えない冗談ですわ」


 フィンネルさんはこう言うのだけど……

 でも僕は、二人の仲は良いと思うんだよな。


 あの教室では、生徒たちは互いに無関心だったけれど……

 フィンネルさんとミカエルさんは違う。

 衝突しているものの、互いに思うことぶつけて、素直な気持ちをさらけ出している。


 ある意味で仲が良いんじゃないか、と思う。


「僕、フィンネルさんだけじゃなくて、クラスのみんなと仲良くしたいんです。それで、まずはミカエルさんと仲良くなれれば、と思いまして」

「クロノ先生らしい考え方ですが……むう、しかし……ですが……」


 長い葛藤の後、


「……わかりましたわ。あの女と仲良くなる方法というのは心当たりはありませんが……放課後、いつも立ち寄るところならば知っております」

「本当ですか!?」

「はい、本当ですわ。ただ、その場所はミカエルさんにとって意味のある場所。人間であるクロノ先生が不用意に足を踏み入れれば、どうなるか……覚悟はありまして?」

「あります」

「やはり、クロノ先生は即答するのですね……ふふっ、さすがですわ」


 よくわからないけど、感心されている?


「クロノ先生ならば、ミカエルさんの心を開くことができるかもしれませんわね」

「そうしたい、と思っています」

「一つだけアドバイスをするならば……クロノ先生はクロノ先生らしく、彼女に接するべきですわ。そうすれば、わたくしの時と同じように……あるいは、心を開くことができるかもしれません」

「ありがとうございます、がんばります!」

「がんばってください。ふふっ……わたくしは、クロノ先生の守護天使。あなたの成功をいつでも願っておりますわ」


 そう言い、フィンネルさんは優しく微笑むのだった。


本日19時にもう一度更新します。

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