14話 生徒のためならば
ミカエルさんが作り出した妖精の後を追いかけること、しばらく……
場所は貴族の家が建ち並ぶ高級住宅街へ。
その中の屋敷の前で妖精が止まる。
窓の前でふわふわと浮いて、僕を呼ぶようにこちらに視線を向ける。
「ここに、ミカエルさんが……?」
不法侵入になるとか、そういうことを気にする余裕はない。
柵を乗り越えて、庭を突き進み、妖精が待つ部屋の窓へ。
そこから中を覗いてみると……
「っ!?」
下着姿の男に襲われているミカエルさんの姿が。
瞬間、理性が吹き飛ぶ。
やるべきことはただ一つ。
後のことなんて、どうでもいい。
僕はすぐに魔力を練り上げて、フィンネルさんに授かった力を迷うことなく使う。
「ダイヤモンドダストッ!!!」
僕の背と同じくらいの長さのある氷の剣が数え切れないほどに生成された。
それらは宙に浮かび上がり、僕の回りをくるくると舞う。
そして、僕の合図で一斉に飛び、屋敷の窓を貫いた。
ガシャア! と一撃でガラスが割れる。
さらに、その周囲に氷の剣が次々と突き刺さり、壁を破壊する。
爆弾が爆発したかのように、壁に大きな穴が空いた。
そこから部屋の中に入り、
「ミカエルさんから離れろっ!!!」
「ふがっ……!?」
ベッドに上がり、全力で男を殴りつけた。
僕は子供で力なくて、体格も小さいけれど……
全力で、それなりの助走をつけた一撃だ。
舌でも噛んだのか、男が口から血を吐きながら吹き飛ぶ。
そのまま床を転がり、壁に激突。
体が丸いから、ボールのように転がるのかもしれない。
「な、なんだぁ貴様は!? この儂を誰だと……あっ、あああ、血がぁ!?」
「ミカエルさん、大丈夫ですか!?」
なにやらわめく男は放置して、ミカエルさんのところへ。
手足の拘束を解く。
「……先生、なんで……」
「妖精、残しておきましたよね? おかげで、ミカエルさんのところに辿り着くことができました」
「そっか……気づいてくれたんだ……」
「フィンネルさんに、マイ先生に連絡してもらうように頼みました。しばらくすれば、応援が……」
「っ!」
「ミカエル……さん?」
ミカエルさんが抱きついてきた。
そのまま押し倒されてしまいそうになるけど、なんとか耐える。
「……」
ミカエルさんは、僕を抱きしめるようにしていた。
顔は見えない。
ただ……手が小刻みに震えていた。
わずかに嗚咽も聞こえる。
「大丈夫です……もう大丈夫ですから」
「……うん」
ミカエルさんの頭をそっと撫でる。
小さく頷いて……ややあって、僕から離れた。
うつむいたままで、やっぱり表情は見えないけど……
「とりあえず、大丈夫だから……ありがと」
いつものミカエルさんに戻っていた。
「待っていてください。すぐに終わらせますから」
僕はミカエルさんに笑いかけて、それから男の方を見る。
「ひっ……!?」
僕を見て、男が怯えたように後ずさる。
僕は今、どんな顔をしているのだろう?
怒っていることは確定だ。
でも、普通に怒っているわけではなくて……
心の底から激しい怒りを覚えている。
この人はミカエルさんを誘拐して、襲おうとして……そして、泣かせた。
絶対に許さない!!!
「主っ!」
「なんの音だっ!?」
扉が開いて、見知らぬ男と……
「レイズさん?」
なぜか、レイズさん、ダズさん、エリネアさんがいた。
なんで? と疑問に思ったのは少し。
すぐに、この男に加担して、三人が誘拐に関与していることを察する。
「なるほど、そういうことですか……あなたたちが、ミカエルさんを……」
「お前、クロノか? なんで、てめえがこんなところに……!」
「あなた、自分がなにをしているか、理解しているのですか? ここにいる方は、あなたごときが話をできる相手ではないのですよ」
「あーもー、せっかく報酬もらって、楽しい未来図を話してたのに。邪魔してくれちゃって、許さないし」
「許さないのは僕の方だ」
この前は覚えなかった怒りが生まれ、僕の心を燃やす。
僕なら、なにをされても構わない。
我慢できる。
でも、生徒に……ミカエルさんに手を出すことは許さない。
僕は今、先生なのだ。
故に、生徒を傷つけた者を決して許すことなく、裁きを与える。
「ダズ、エリネア、やるぞ。ここを嗅ぎつけられた以上、放っておくことはできねえし……なによりも、このガキに自分の立場ってもんをわからせてやる!」
「ええ、わかっています」
「あははっ、やっちゃおうか!」
三人が同時に動いた。
「てめえは最弱で無能で、地に這いつくばってるのがお似合いなんだよ。己の部をわきまえなっ、ダブルブレイドッ!!!」
「あなたごときが、私たちの邪魔をした罪、とても重いですよ。自分の愚かさを悔いて地獄に落ちなさい、ハイパーフレアッ!!!」
「私らの邪魔するなんて、ホント、いい度胸してるよねー。また躾けてあげないと……あはははっ、くらいなさい! パラサイトアローッ!!!」
剣技と火魔法と弓技が同時に迫る。
僕は焦ることなく、冷静に対処法を探して……
即座に行動に移る。
「マルチプル・メガブリザードッ!!!」
Aランクの氷魔法を三つ、同時に放つ。
レイズさん……いや。
レイズたちの攻撃を一瞬で無効化。
それだけにとどまらず、氷の嵐が三人の体を激しく切り刻む。
「なぁっ……!? ば、ばかなっ、なんでクロノがこんな魔法を……ありえねえだろ!?」
「私でも使うことができない、Aランクの魔法を……こ、これは夢に決まっています!?」
「きゃあああっ、なんでなんで、なんでこうなるのさ!? わけわからないっ!」
三人はあちこちから血を流しているものの、まだ元気に喚いていた。
しぶとい。
Cランクの冒険者だけあって、それなりの力はあるみたいだ。
「……」
僕は無言でレイズたちに手の平を向けて……
それを見た三人の顔が引きつる。
「お、おいっ、ウソだろ!? 俺ら、もう立ち上がれないっていうのに、追い打ちをしかけるとかありえ……」
「マルチプル・メガブリザードッ!!!」
「「「あああああぁっ!!!?」」」
三人の悲鳴が重なる。
殺すつもりはないから、SランクではなくてAランクの魔法に留めている。
本当は殺してしまいたい。
でも、事件の詳細について話してもらわないといけない。
だから、生かしておく。
それだけだ。
「う……あ……」
レイズたちは虫の息。
完全に無力化したから、後は、応援にやってくるであろうマイ先生たちに任せればいい。
残すは……
「くっ……貴様ぁ!」
ミカエルさんの誘拐を指示したと思われる男と、その主らしき男だけだ。
この二人は、絶対に許さない!
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