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君が魔王を倒したあとの約束  作者: 中邑 水熙
ポップコーンはキャラメル味
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「初めましてダイチ。アリスよ、よろしく」


「アリスさんか。よろしく。……おいおいユウキ、いつの間にこんな美人を捕まえてやがったんだよ」


 あの長い本名を言う訳じゃないんだな、なんてことを考えていると、ダイチは爽やかな笑顔でアリスの自

己紹介に名乗り返しをしたあと、すすすっとこちらの耳元に顔を寄せてきて下卑た顔を見せた。これは、次回に大学で会った時、事情聴取が面倒そうだ。


「彼女じゃないよ」


「またまた~、っていうか、どこの大学の子だ? うちの大学じゃ見たことがないぜ」


「今朝言っていた、魔法使いの女の子だよ」


「なるほどね、恋の魔法ってやつか」


 この頭の中お花畑野郎は、ちゃんと分かっているからとでも言いたげに、したり顔で頷いている。数発殴りたいくらいに腹立たしいが、事実はもっとややこしいので、このまま勘違いさせておいた方が楽かもしれない。


「ところでアリス、ダインっていうのは?」


「やっぱりダインのことも忘れているのね。まぁ、私のことは忘れていたのにダインのことは覚えている、なんて言ったら、フレイムガイアでぶっ飛ばしていたけれど」


 フレイムガイアというのが何なのか分からないが、名前の響きからして決して人に向かって放つものではないということだけは分かる。一見すると茶目っ気な笑顔にも見えるが、目元は笑っておらず、背筋が凍るようなプレッシャーを放ってくる。


「ダインは、魔王を倒したときの仲間よ。因みにそのときの仲間には、あと、ローラっていうお淑やかな女の子もいたわ」


「たった4人で魔王に挑んだの?」


 ゲームなんかだと4人という人数は珍しくないけれど、現実的に考えると、どうしてもっと大人数で挑まないのだろうと思ってしまう。世界の危機なんだから、数百、数千人の兵士を投入するべきじゃないのかな。


「相手は魔王よ? そんな相手に挑もうなんて輩が、同じ時代に4人もいただけで奇跡なんだから」


「アリスはそんな輩だったってわけか」


「アンタもその輩の一人よ」


 アリスが半ば呆れるようにして笑った。そういえばそういう話だったっけか。よくもまぁ、そんな命知らずの集団の中にいたもんだ。


「それよりほら、時間は大丈夫なの?」


 アリスに言われて時間を確認してみると、上映まで10分を切っていた。ヤバイ、まだ結局どの映画を観るのか決まっていない。


「観るのが決まっていないのなら、コレにしない? さっきダイチが、コレがオススメって言っていたの」


 いつの間に仕事に戻ったのか、ダイチの姿が消えている。アリスが指差した先を見ると、恋愛映画だった。ちょっと前に話題になった少女漫画の実写化で、評判は良かったという話を聞いたことがある。そういえばダイチは、見た目にそぐわず、少女漫画とかが好きなんだっけ。


「じゃあそれにしようか。飲み物はどれにする?」


「メロンソーダで。あと、キャラメル味のポップコーンも食べてみたいわ」


「へぇ、異世界にもメロンソーダとポップコーンはあるんだね」


 どれにするかと聞いておいて何だが、異世界では馴染みのない見た目の飲料水がほとんどで、どれが良いとか分からないのではないかと思ったが、その心配はないくらいの即決だった。


「無いわよ。以前に演劇を観たときに、アンタが『あとはメロンソーダとキャラメル味のポップコーンがあればなぁ』ってぼやいていたから、どんな味なのかずっと気になっていたのよ」


 長年の願いが漸く叶ったとばかりに顔を綻ばせているアリスの顔を見ていると、微笑ましい気持ちと同時に、そういった昔の思い出話を共有できないことが、少し申し訳ない気持ちにもなる。


「ほら、早く行きましょう。ずっと楽しみにしていたんだから」


 そう言ってアリスは微笑んだ。その笑顔を見るたびに、失われたはずの記憶が叫んでいるかのように心が疼く。早く早くと視線で急かしてくる彼女に笑みで返し、速足で歩いて彼女の横に並ぶ。


「それで、チケットはどこで買うの?」


 お目当てのポップコーンとメロンソーダを2人前購入すると、アリスはそれを嬉しそうに持ち抱えている。結構楽しみにしてくれているらしい。演劇を観たことがあると言っていたが、こういったものが好きなのだろうか。


「この機械でチケットを買って席を決めるんだ」


「へぇ、座って観るのね……って、こんなに席があるの? これじゃあ、後ろの方の人なんて見えないんじゃない?」


「大丈夫だよ。後ろに行くほど席の位置を高くしてあるんだ。むしろ、最前列が一番人気無いかもしれないくらいだよ」


 前に人気の映画を観に行ったときに、空いている席がなくて最前列に座ったことがあるが、常に上を向いていなければいけなかったせいで、首を痛めたことを思い出した。



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