第8話 運命かも
「おい、どうなんだよ! クリスタ!」
「い、痛い! タクミ、痛いニャ!」
言ってる場合かよ……コイツ、頭おかしいんじゃねぇのか……?
「クリスタ、俺はお前を食う気なんて無かった! なのになんでお前は……」
「吾輩だって食べられたく無かったニャ! でも、そうしないと、女神様はスキルが譲渡できないって……」
「はぁ? まだそんな事言ってんのか⁉ 結局お前は、俺じゃなくて、あのクソ女神の言うことに従うんだな!」
「そ、そんなつもりじゃ……」
そんなつもり? 何言ってんだ。
自分の羽もいで、黙って食わせるなんて普通じゃねぇって……。
「気持ち悪ぃんだよ……お前……」
「え……。わ、吾輩はただ……」
「“ただ”、なんだよ。お前がシステムだって言われてた意味がやっと分かった……俺の信頼なんて、何も感じてなかったんだな」
「た、タクミ……うぅ」
もう無理だ。
この家にも、もう戻りたくねぇ……。
どこか遠くに行こう。
それが出来ればの話だけど……。
「食べたんですね。私からの贈り物」
「……うるせぇよ。もうアンタには媚びねぇ」
優雅な散歩に水を差してきやがって……よっぽど暇なんだな。
オタクは案外忙しかったってわけだ。
「改めて『勝利の子』の習得おめでとうございます。でも羽だけ食べたのでは、顔のリセットは止められません。あの子のすべてを平らげないと」
別にもうどうでもいい。
中途半端なやり方だとメリットが減る、じゃなくて、デメリットが残るっていう仕様なのも腹立つ。
こんな奴の口車なんかに乗らねぇ。
「もういいから、ついてくるな」
「あら、せっかく教えて差し上げてるのに」
金なんて無いし、朝目覚めて着ていたのは、みすぼらしい、つぎはぎだらけの服。
こんなんじゃ、手軽な店にも入れねぇ。
あの女神も、のこのこ後ろついて来てるし……。
本当に一般人には見えてないんだろうな。
腹も痛いし、本当に今日は気分が悪ぃ。
「はぁ……はぁ……おい!」
「どうしました?」
コイツ、しらばっくれやがって……。
だめだ……腰に力が入らねぇ。
「お前、なんかしただろ! 俺に!」
「さぁ、なんの事だか」
う! 駄目だ……女の匂いだけで理性が……。
歩くの辛い……。頭が痛ぇ……。
カラクリは分からんが、多分性欲を増加させられたんだ……。
くそっ! 女が目に付くだけで、まともな思考が……消える。
「ふー……ふー……お前の、思い通りには、なんねぇからな」
「あらそう。でも性欲に天井なんてありません。強いて言うなら、襲った時が限界かしら」
「はぁ……はぁ……」
「襲いたければそうしなさい。強姦で目立てば、明日にはみんな貴方のことを忘れます」
「誰が……そんな事……」
「耐えても無駄ですよ? ほら、あの子も、その子も、皆『始まりの町』らしい娘たち。なんの危機感も、武力も、権力もない。彼女たちは、ただの獲物ですよ」
「ふっ……ふっ……」
「本当に、扱いにくい方ですね……あら? 雨」
「雨? 雨か……」
「帰るのですか? お気をつけて」
「はぁ……はぁ……」
確か、こっちの方角だった……。こっちに今朝の家が。
家の中なら女はいねぇ……この状態が治るまで引きこもってやる……。
ニート活動で女神の鼻っ柱へし折るなんて、よほど俺らしいな。
「はぁ……はぁ、あぁくそッ!」
くっそ! 建付け悪くて全然開かねぇ。
朝、無理やりこじ開けたせいで、傷んだか?
ホント、なんでこんな家選んだクリスタは……。
「クリスタ……」
やっと開いたか。
まずい、限界だ。
ともかく、どっか物陰で一発……
「あぇ……な、なんで」
「え? ど、どうしたの?」
「なんで、家にいるんだ……」
なんで、家に、女がいるんだよ。
場所は、まちがえてない、はずなのに……。
「ねぇ、目、おかしいよ? 大丈夫? 何かあったの?」
「やめろ! ちかよるな! くるな!」
獣ノみみ。
好みのカミがた。
何より、何も着てない……。生まれたままのスガタの……獲物……。
「どうしたの? ねぇ! 手、痛い! 離して!」
「ふぅ……ふぅ……うあぁぁぁぁぁ!」
次に俺が状況を冷静に判断できたのは、クリスタの泣き声が聞こえてきた時だった。
目の前の全裸の女が、下半身を中心に、血だらけになって泣いている。
わけがわからなかった。
「お前……クリスタなのか? なんで人間の姿に……」
「うぅ……酷いよ……タクミ」
あぁ、俺は、あの女神に弄ばれたんだな……。
性欲を操作されて、そのままクリスタを襲って……。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
それが、俺のクリスタにかけれる言葉の精一杯だった。
その後、気が動転した俺は……雨の中、誰もいない路上の真ん中に座り込んだ。
なんでこんな事になったんだろう。
やっぱ、今朝が最大の分岐点のように思えてきたな……。
俺が家を飛び出したから、女神に余計な事されて……。
羽を食っちまったのも、元をたどれば、俺がクリスタに弱い部分を見せすぎたせいかもな。
心配させちまったから……。
クリスタなりに考えて行動してくれたのかも……知れんよな。
なんか、何もかも嫌になった。
「あの……大丈夫ですか?」
「あ」
その時、雨が止んだ。
というより、傘が差し伸べられたのだ。
こんな俺に、物好きもいたものだな。
「風邪、引いちゃいますよ?」
「いいんです。どうせ、誰にも迷惑かからないし」
「あはは。ダメですよ? ほら、一緒に行きましょ?」
俺の目の前には、町の者ではなさそうな、大荷物の女性が立っていた。
歳は二十歳にもいってなさそうな雰囲気で、余程幼い印象を受ける。
「……キミ。冒険者?」
「はい! まだまだ駆け出しですけど、いつか魔王を倒したいんです!」
「ま、まおう? へぇ……カッコ、いいね」
「えへへ。かっこいいなんて~」
この子は、笑顔も明るくて、なんだか楽しそうだな。
お言葉に甘えて傘を……ついでに少しだけ、休ませてもらおうかな……。




