第4話 手違いかも
俺は今、まず間違いなく童貞丸出しの顔になっとるよ。いったん落ち着け!
こんな美女と面と向かえるなんて好機は滅多にないわけだ、テンパってる雰囲気を感じさせないように、余裕のある大人な男、いや漢を演じるのだ……!
「ゴホンッ。こ、このくらいの声でいいかな」
手始めに精一杯のイケボを出してみたが……ふむ、人気声優も顔負けの出来栄えってモンだぜ。
「……急に変声など出して気持ち悪い奴ニャ。こら、離せタクミ」
バシッ!
「いってぇ! あ、おいクリスタ!」
「ヴィクトリア様~~!」
くそ、俺の声なんて聞こえちゃいねぇ。女神様とやらの元にまっしぐらだ。余程懐いてんだな。
金髪の女神様も、アイツの元気な声に気付いたんだろう。ゆっくりコッチを向いてきた。
おぉ、後ろ姿だけが美人ってヤツは地元でもよく見た事あったが、むしろ前の方が良いッ!
俺の人生のベストを更新し続けてくる……末恐ろしい。
さすが神様だぜ。
「あら、クリスタ。どうしてココに?」
「えへへ~帰ってきましたニャ~♪」
むにゅ♡
「……。」
積極性のある猫だよホントに。顔を彼女のたわわな胸に埋めやがって、羨ましい……!
「ハァ……。ところでクリスタ、あちらの方、私達の事が見えているようですが」
「ハイ! お察しの通り転生者殿ですニャ!」
「え、わざわざ道案内してきたの? ……そうね、偉いのよね」
「もったいないお言葉ですニャ」
な、なんなんだ、この圧倒的風格は……。見られるとより一層体が強ばっちまう!
それこそ、俺の推しキャラである“アイラたん”を初めて見た時に、勝るとも劣らない性の高まり。
目のやり場に困るな……。よし、全身を舐め回すように見よう。
「……。ど、どうかなさいましたか? 私の事ジロジロ見て……」
「ふぇぁ?! あ~、いえいえいえ! な、なんでもないんですけどね!」
「そうだったんですね……。じ、実はあまり人に見られるという事に慣れていないので、恥ずかしくて……。つい自意識過剰に……申し訳ありません」
クリスタを腕の中に抱いたまま、女神様は深々と頭を下げた。……揺れる胸の谷間が……うぉ。AVでしか見た事ねぇぞ。つってもAVも見た事ねぇけどよ。金銭的な問題で。
「立ち話もなんですし、奥の部屋に行きましょうか。ついてきてくださいね」
「タクミ~! 急ぐニャ~!」
「は、はい!」
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この教会、かなりデカいな。外見はこじんまりとした感じっつーのかな。そこまでの規模感だったけど、中に入ってみたらまさかの部屋数だ。
廊下も長ぇし、迷子になるなんてのは容易そうだな。おっそろしい。
ていうか、クリスタのヤツ、クルクル回転しながら飛び回ってんな。テンションの上がりようがおかしいだろ。
俺しかいなかった時は、ただの当たり屋だったが……。まぁ、むしろ分かりやすくて良いか。
女神様は深くため息をつきながら、扉の前で足が止める。
お疲れのようなら、俺がマッサージをしてやってもいいのだがな。
「空いてそうなのはココですかね。入りましょうか」
「へ? ま、まままさか、二人きりッ!?」
襲う自信しかないですけども?? 女神様の夫って、大統領夫人よりも安定した地位だろ。絶対。
「? どうかなさいましたか?」
「あぁ、タクミは盛りきった雄なんですニャ。変な妄想を膨らませているだけ。あんな気持ち悪い趣味、気にせん方がいいですニャ」
「あら、人間らしくて良いじゃない。ね、タクミさん」
「そ、そうですよね?? えへ、えへへ。って、おい猫! 一度失った信頼は二度と取り返せねぇんだ! 俺は中学ん時学んでんだ! 分かったら口を慎め毛玉! 脳にも毛が生えてんじゃねぇのか?!」
「饒舌ね」
「そこもまた気持ち悪い」
「……。」
あ、ダメだ。なんだかんだ女神様も味方じゃねぇ。むしろ敵だ。
「とりあえず中に入りましょう。お紅茶も用意させておりますので」
「は、はい」
「残念だったニャんね」
「な、何がだよ」
「女神様のあの目。間違いなく嫌悪ニャ。前世と同じ過ちをまた繰り返すとは……」
「……。」
「まぁ安心するニャ。ヴィクトリア様と貴様では最初から不釣り合いだったんだニャ。それを早く気づけただけでも十二分な収穫ニャんね」
コイツ、本当にやかましいな。
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「……とまぁ、タクミに説明しているのはココまでですニャ」
さして広くもない部屋。の筈なのだが、何となく開放感がある。窓がデカいおかげか。
ティーセットとやらが置かれた白い机の上に、クリスタは正座して座ってる。
なんかウケる。
「なるほど、ありがとうクリスタ。……さて、私は確かに、この世界に貴方を“転生者”として呼び出しました。そんな記憶が何となくあります」
「な、何となく……」
嘘でしょ?
「その事に関して特に貴方に決定権も与えずに、無理やり“前世の記憶そのままに転生”という形になった事、先にお詫び致しますね」
「は、はい」
お詫びと言われてもな……。第一、殺されたのは頭のおかしい、あの三馬鹿のせいなわけだし。
むしろ、この神様は俺にチャンスを与えてくれている。
この上ない感謝をすべきなんだろうな。
「それと、もう一つ……。非常に言いづらいことなのですが……」
「? どぅ、しました?」
あぁ、潤んだ瞳も麗しい。
柄にもないが、エロい目で見てしまうな……困った困った。
「その……」
「なんでも言ってくださいよ! 僕だって鬼じゃない。世界の一つや二つ、適当に救ってやりますよ!」
「え……?」
フッフッフ。俺が、こんなにも大きく出たのには、あるワケがある。
それは、“異世界転生のテンプレ”『能力の獲得』と『世界平和実現』!
クリスタの言っていた事が本当ならば、この場で俺は『勝利の子』なる能力が貰えるらしい。
特典能力さえあれば、“世界が魔王軍に支配されてるから倒して欲しい~”とか、“人気の無い神様を信仰してくれるような王国を作って欲しい~”とか、そんな定番な注文もあっという間に解決!
ハーレムだって、チートだって思うがまま!
「フッフッフ」
「そ、そんなに自信満々だと、余計言いづらいのですけど……」
「あぁすいませんね。未来の貴方の笑顔が目に浮かんでしまってね。つい我を失っておりましたわ」
「……何を勘違いしとるニャ?」
「えぇっと……。スズキ・タクミさん。貴方には確かに『勝利の子』という能力を譲渡します。しかしそれは、単なる私の罪滅ぼしでしかありません」
「罪滅ぼしだなんて! 生き返っただけで十分以上! それに、女性がそんな事抱え込んではいけませ
「実は私共の手違いで、貴方は前世となんら変わらない……。いえ、むしろ当時よりも酷な“その他大勢”として転生させてしまいました」
「……。」
は?
「それこそ日本でプチ流行中の“異世界転生系の小説”の主人公のように、冒険に出る事も、まして目立つ事すら許されない。貴方は、ココに転生して来た時点で、この世界に存在する“選ばれし者達”のかませ犬としての地位が確立されてしまったのです」
……えぇっと、はぁ??