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第3話 貰えるかも

「ん、んん……」


「お、やっと起きたニャね」


「ハァ……ハァ……。あれ??」


 ここ、何処だ。さっきまで居た秋葉原(アキバ)の上空でも、石畳の上でもねぇな。


 この手触りと形……屋根瓦か? 屋根の上に居んのか。

 多分この猫が運んだんだろうけど、どんな方法使って体重70キロの俺をこんな高所に持ってきたのか気になるぞ。

 飛んだって言っても、さすがに腕力的に無理があるだろうしな。


「さて、軽く過去の貴様の姿を見せてやったわけだがニャ。貴様も、これで少しは自分の死というモノを実感できたニャろ?」


「ハァ……ハァ……」


 少し寝てたらしく、妙に頭が痛い。

 にしてもやべぇな。自分が死んでる姿を見るのなんざ、インフルエンザの時の夢くらいだったが。


 そんなんと比べもんにならねぇくらいに生々しかった……。


「うぅ……ぐ」


「気分が悪くニャるのも無理はニャい。しばらく心を休める事を勧めるニャ」


 チッ。急に親切にしやがって。ムカつく猫だ。


「いや別にいい……ハァ……ハァ。ほっといてくれ」


「……ニャ~」


 そうだ。全て思い出した。

 帽子野郎にボコボコにされて、俺、死んだんだ。



 中卒、彼女いない歴=年齢、25歳にもなって親のスネかじりまくってる親不孝者。

 近隣住民からも特に慕われてたわけでもなし。そんな俺が死んだところで、果たしてニュースになんのか? 誰か心配してくれんのか?


 ……否、だろうな。“この辺で殺人あった”くらいの都市伝説になって終わりだろう。


「まぁまぁ、そう気を落とすニャ。確かに、君の第一の人生は終わってしまったニャ。それもかなり酷な形で」


「……るせぇよ」


「だからこそ! 吾輩が慕う『ヴィクトリア様』、いわゆる女神様は、貴様に第二の人生を与えんとしておられるのニャ!」


「……!」


 第二の……人生。


「それも、貴様の好きそうな特典付きでニャ!」


「特典……」


 神様関連での『異世界転生』(もとい)『転移』には、確かにそういったイベントが付き物。まぁ、ライトノベルや漫画、なろう系であればの話だが。

 その女神様なりに、オタクである俺への配慮のつもりなんだろう。


 何よりありがてぇ。それで人生逆転……じゃないにしろ、二度目に死ぬ時くらい誰かに愛されて死ねるかもしれねぇ。


「そ、その特典ってのはなんなんだよ。あぁ、あと変なのはやめてくれ……。ラノベの主人公みたいに上手く使える自信が無いんだ」


「案ずるニャ。無論貴様の知識範囲など熟知しておるニャ」


「……お、おぉ」


 逆に気持ち悪ぃよ。


「『勝利の女神』との呼び声高い『ヴィクトリア様』が、貴様のような負け犬に与える特典(ギフト)は、ズバリ名付けて『勝利の子』ッ! どんな勝負にも絶対に負けぬ最強の能力(スキル)ニャッ!!」



「……なんか頭悪そうだな」


「そんな事言うんならあげないニャ」


「ください。お願いします」


「よろしい~」


「……いや、ちょっと待て」


「ふにゃ?」


「お、俺はただの人間だ。それなのに『勝利の子(スキル)』だの“特典(ギフト)”だのを使いこなせるモンなのか? それこそ、さっきのガキが使ってたような魔法だって何一つ分かんねぇんだぞ」


「おー、そうニャね。そういう肝心なところ、忘れてたニャ」


「……頼むぞオイ」


 なんだかな、こんな猫に弄ばれてんじゃねぇかと思うと、無性に腹が立ってくるな。しかし、我慢しろ俺。


「まぁ魔法の使い方は、おいおい理解していけば良いとして、まずは『勝利の子』の獲得ニャね」


「……お、おぉ。で、そっちは簡単なわけ?」


「簡単も簡単♪ オマケに会得(えとく)しさえすれば、後は自動発動(オート)だしニャ」


「へぇ」


 喋る猫が自慢げに言うって事は、マジなんだろうな。多分。


「さてと、とっとと教会に戻るニャね。あの規格外に大きい十字架の付いたヤツニャ。」


「……なかなかの距離だけどよ。まさか徒歩でか? 俺歩くの嫌いなんだけど」


「つべこべ言うニャ! 女神様がお待ちニャの!」


「オイオイ、俺はこれでも怪我人だぜ? 火の玉で身を焼かれてよぉ」


「ハァ。面倒臭い奴ニャんねぇ。良いニャ。吾輩の手に捕まって」


「お! そう来なくっちゃ♪」


「ただし、後悔はするニャよ」


「それはコッチのセリフだ~。一度了承した以上、泣いても笑っても連れてってもらうぜ」


「お、お腹には触るニャよ! うで、あくまで腕限定ニャ!」


 謎のこだわりを持ってんな、この猫は。

 まぁ確かに、猫ってのは他の愛玩(ペット)用の動物に比べて、プライド高そうだもんな。

 コイツもいっちょ前にそうなのかね。



「よ~し! 飛っぶニャ~!」


「ちょっと怖いな……はは」


 バッサァッ!!


 コイツ経由とはいえ、ガキの頃に夢見た事が一つ叶いそうだな。“空を飛ぶ”ていう何でもない夢が。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ……ただしんどいだけだった。


 鳥たちは気ままで良いなぁとか思ってたが、実際飛んでみると口は乾くし、怖くて目は開けられんし、もう最悪。


「おい、いい加減手を離すニャ」


「お、おう。そうしたいのは俺もそうなんだが、手が震えてて開かねぇんだよ」


「呪いの装備みたいに厄介な奴だニャ。ま、まぁいい、もう少しだけなら許そうかニャ」


「あざす」


 ギュッ


「フニャ! だ、抱っこするニャ!」


 バシッ!


「いたい」


 猫を抱きしめようとすると羽で思いっきり殴られた。さっきからあたりが強ぇよ。


「さてと、そこの扉を開けるニャ。すでに居られるハズだニャ」


「お、おう」


 ステンドグラスみてぇな窓が扉に貼りついてる。

 それにかなり重そうだ。俺なんかに開けれんのかねぇ。自分の寝るベッドの位置すら動かせねぇ非力な俺だ。


「ほら、早くしろニャ」


「お、おお俺今、アンタの手ぇ握ってるから、無理なんだわ~。ど、どうしよっかな~」


「……。もういいニャ。吾輩ならば尻尾でこじ開けられる」


「へぇ凄いなぁ……。え」


「ほら、いいから近づけ。吾輩の尻尾はさして長くないのニャ」


 コイツの尻尾は、俺が手を開いた程度の長さしかない。あまりに短い。別にそこを可愛いと思えないのは、コイツの高飛車な態度が原因なんだろうけど。


「ほらよ、頼むぞ猫」


「猫呼ばわりするニャ! 吾輩には『ヴィクトリア様』の名付けてくださった『クリスタ』という立派な名前があるのニャ!」


「……?」


 くりすた? なんか女みてぇな名前だな、コイツ。

 女神様ってのは、よほどイタイ女なのかもしれん。


「【無属性:波動魔法】『宙面(ソラモ)』ッ!」


 お、出た出た。魔法だ魔法。

 改めて見ると不思議なモンで、……ッ!!


 ゾワッとするような(ぬる)い風に、身体をゆっくりと撫でられた。そう、それだけならばドライヤーでも出来ること。


 しかし、それだけでは無い。


 完全に閉ざされた扉がゆっくりと開いたのだ。


「おぉえ。すげぇ」


「ふん。この程度で驚かれるとは、吾輩も見くびられたものニャ。不愉快極まりない!」


「……。」


 まぁ、見た目は完全に猫だからな。生まれた瞬間、多少は仕方ないと割り切っておいて欲しいが。

 俺も人のこと言えた義理じゃねぇけどよ。



 扉は完全に開き、教会の奥へと赤いじゅうたんが伸びてやがる。中もかなり整備されてるし、マジでこんな感じなんだな。

 身内の結婚式にも呼ばれた事ねぇから、全く知らなかったぜ。


「はっ!!」


「? どしたクリスタ」


 クリスタの様子が変だな……。口あんぐり開けて、腹でも空いたか?


「『ヴィクトリア様』ッ! た、ただいま戻りましたニャ!」


「え? ア、アレが女神……様?」


 薄い金色の長髪、小顔で整った清楚顔。透き通るような肌がシルクのように滑らかなローブの隙間から露出している。特に太ももが。


 ……おいおい、女神様。


 見た目が性的すぎるだろ!



 扉が開いたのに気づいたのか、女神様は呆然とする俺を見るやいなや、クスリと微笑んだように見えた。



 あぁ美しい。



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