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0.プロローグ

 




「本当によろしいのですね? 力を得る代わりにあなたは一生苦しい思いをすることになりますよ?」

「はい、私の決意は変わりません。セレス様」


 そう、何度目かわからない主神セレスの問いに俺は頷いた。


「やはり……決意は固いのですね。ならば力を授けます、そしてあなたはあなたの村を焼く者達に復讐をなしなさい。代償として、残りの一生を我々の遣いとして生きてもらいます」


 セレスが宣言すると、その後ろから冥界神アトゥヌが現れ、その杖を俺に向けた。


「我としてはこんな若造に任を任せたくはないのだがな。本人に意志があるならば仕方あるまい。小僧、1つ忠告だ。最期まで誇りを持って生きると言うならば、決して世界を恨むな。(すさ)んだ心を持てば力に飲まれるぞ」

「分かっておりますアトゥヌ様。非道で欲深い人間が決して多くないことも、それ以上に善人がいることも」

「そうか、ならば良し」


 そう言ってアトゥヌが杖を一振りすると、先から紫の光が溢れ、数刻して収まった。同時にピリピリとした僅かな痛みを伴って、右の鎖骨に龍と鎖の紋章が現れる。

 それを確認したセレスは苦しそうに顔を歪ませながら言った。


「少年アレンよ、その力を持って何をするのも自由です。ただしあなたは世界に災いをもたらさなければなりません。あなたは数多の不幸を生み出し、正義の前に立ち塞がらなければなりません。………後悔はありませんね?」

「後悔してるのはセレス様ではありませんか?」

「…………そうですね。ならば行きなさい少年アレン! あなたは我々上位神が使徒、試練の使徒です!」



 §  §  §  §  §



「隊長………これが、聖騎士団のやることですか……」


 燃え盛る村を見つめながら、若い神兵が血で濡れた拳を握りしめて言った。


「………」

「何が征伐ですか! 彼らに汚れたところなんて無かった! 普通の土エルフの集落だったじゃないですか!」


 そう攻め立てる彼に対して、隊長と呼ばれた中年の男はぼそぼそと答えた。


「ルルゴ司教がここに住んでる娘を見初められたんだがな、それを娘が断ったそうだ」

「は?」

「お前さん、田舎から神兵になるために上京してきたんだっけな。覚えとけ、何処に言ってもクズはいるもんだ。そんで俺らはそれに逆らえない」

「じゃ、じゃあ、なんですか! 僕達は司教の私利私欲の為にあの人達を殺したんですか! まだ……子供だっていたのに………」


 彼は震える声で嘆いた。子供を槍で突いた感触も、絶望に染まった顔も彼の頭の中にこびり付いている。

 顔を覆い項垂れる彼の頭上に、無気力な声で隊長が呟いた。


「…………今回の件で、司教を摘発する手筈になっている」


 ハッと若い神兵は顔を上げた。そして無感情な瞳を燃える村へ向ける隊長を見て、その顔は怒りへと染まる。


「あんたは何も思わないのか! そんなことの為に彼らを犠牲にして! それが免罪符になるとでも思ってるか!」

「…………」


 若い神兵は隊長の胸倉を掴んでゆらすが、それでも隊長は黙りとただ無反応だった。

 次第に騒ぎに気付いた隊の他の神兵も集まり始め、みかねた副隊長が彼を引き離した。


「落ち着け、誰よりもこの現状を変えようとしているのは隊長だ。今回だって摘発すれば隊長自身が死刑になる可能性があるだ。お前と同じ気持ちも皆少なからず持ってるんだ。もう少しの辛抱なんだ。堪えてくれ」

「たけど──」

「おい、あれ!」


 宥める副隊長に若い神兵が食って掛かろうとした時、周囲の神兵が声を上げた。指差す方向を見れば、村の方から1人の少年が歩いてきていた。

 その姿を見た彼は目を見開いた。その少年は、彼が確かに刺し殺したはずの人物だったからだ。何故、という疑問よりも先に駆け寄っていた。


「ああ君! 生きていたのか! すまなかった、すぐに──」

『ガシュ』


 だが彼の言葉はそこで不意に途切れる。少年が腕を振り抜き彼の頭が飛んだ。数回地面を跳ねて止まった頭は、安堵の笑みを浮かべたまま止まっていた。

 少年は腕にべっとりと着いた血を払い、残りの神兵達に向けて淡々と言い放った。


「あんたらには死んでもらう。悪いとは思わないぞ」



 §  §  §  §  §



 世界は宗教を中心に回っている。

 主神を女神セレスとする上位神7体、そしてその下につく中位神、下位神。それがこの大陸イルナにおける神の構図だ。

 人々の中でも使徒と呼ばれる者は『奇跡』と呼ばれる力を生まれながらに持ち、その他の者達は修行の末『精霊術』を扱う。


 これは世界にうねりをもたらす為に遣わされた、1人の少年の物語である。






 

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