自決の解 - 前半
「ん?あれ??なんだこれ。」
床に手や膝をつきながら部屋の物色をしていた彼は、手のひらから伝わってきたさらりとした上品な肌触りを感じとった。彼はゴチャゴチャとした家具やゴミのジャングルで隠されていた一冊の本を手に取り、拾い上げた。
血のように赤黒く染められた本の表面には、題名らしきものは何一つない。唯一記されていたのは、表紙と思われる側にだだっ広く書かれた、筆で雑に書きなぐられたような、文字らしきものだけである。
それ以外には特質すべき特徴はない本だったが、彼はその本に気味の悪い違和感を覚えた。
「どうしたのラルフ。何か使えそうなものでも見つけたの?」
そういって背後から一人の女がゆったりと近付いてきた。美人とは言えない一般的な顔立ち。体系も一般的な細身のものだ。しかし普通と違うのは、細身の外見に対して、腹部が大きく膨らんでいることだろう。そのふくらみは彼女が一つの命ではないことを物語っている。人はこれを幸福というのだろう。
「いや、変な本があるくらいだな。そっちは?」
「あたし?へへへ…ジャンっ!これなんだかわかる?」
女は自慢げに一枚の大きな紙を広げながら、床に座っているラルフが良く見えるようにとぼとぼと歩み寄った。
「えっと、地図か?ん…これ、すごいな!」
ラルフの眼前に広げられた地図は、この家を中心としたものだった。ラルフがそのことを見ただけで判断できたのはなぜか。その理由は単純。その地図にはいろいろな色のペンで種類分けされた、大量の情報が書き込まれていたからである。この地図を確認するだけで、どこにどんな建物があるのか、探索済みの建物かどうか、それぞれの地域がどれだけの危険性があるかなどがまるわかりとなっていた。
「さっきの彼が作ったものだろうな。…これだけのものを作るのは本当に大変だったろうに。」
「そうね。ありがたく使わせてもらいましょ。」
二人はゆっくりと、自然に目を閉じていた。今の時代でも人に思いをはせられる者たちがいることは喜ばしいことだ。この者たちの解答には期待が高まる。
「ふぅ。ねえ、ラルフ、相談なんだけど。この地図にマークしてある、ここに行ってみない?」
その声に導かれ目を開いた先で、彼女が指で示している地図の建物には、青いペンで“装備”と記入されていた。ほかにも小さく“衣料品”“工具”などが書かれている。
目を輝かせながら話しかけた女とは対照的に、地図を眺めながらラルフの顔は少しずつ渋くなっていった。すると、先ほどの様子が嘘のように女の表情が曇っていく。どういうことだ?
「冗談、どう考えてもこっちだろ。」
そういって彼が指をさしたのは黄色いペンで“避難所”と書かれた場所だった。ほかには“プルート”“食料”といったこともメモしてある。
「この家にも食料が欲しくて入ったんだ。ここ以外ない!」
「でもさっき、あと五日分は残ってたし…その、ごめんなさい。」
彼女が発した言葉を途中での見込み、口を固く閉ざした理由は、うっすらと読み取ることができた。それがこの異常事態が発生してからなのかどうかまでは不明だが、この夫婦は、完璧に対等な関係で結ばれているわけではないらしい。ラルフの顔色一つで彼女の些細な意見すらもかき消されているあたり、ほぼ間違いない。
どこかの国の風習に「一歩二歩、後に続くが 大和撫子」というのがあるそうだが、ここではそのような風習はのさばっていない。その国のものでも今の二人のやり取りには首をかしげるのではなかろうか。
彼女がラルフに強く出られないのは、もともとそういった関係であったのもあるかもしれないが、新たに“どう頑張っても一人では生きられない。子を産み育てるならばなおさら。”という思いが強くなっていることも要因となっているだろう。元世間一般の目線でもシングルマザーは様々な意味で強い人が多く見られ、その彼女らと比べれば、この女性はあまりにも頼りなさげである。この先は、茨だろう。
だがそれ以上に問題なのはラルフだ。一見、芯が強く自分の考えをはっきりと述べている姿から、このようなサバイバルの状況下において一定以上の対応力がありそうにも思える。しかし、こういった人間の多くは、そういった強さを持つ反面、自分の意見にのまれ、他者の意見を批判としか取れえることができないようだ。自分が誤った行動をとった場合にも、自分可愛さに正しさを見失う。これでは野垂れ死には回避しずらいだろう。
C級映画ならともかく、それ以上の映画であればほぼ間違いなく序盤に舞台を降りることは避けられない。
さて、私の過去の筆者たちから予測し、導き出した仮説はどれほど正解しているのだろう。
シナリオがどうなるか、考えながら書くのが楽しみ。
題名とかもノリで決めたから何とかしないとなぁ。
ゆったりと、決めていこ。