8話 パーティーメンバー
「お前が我の魂を作り出した主か?」
いきなり言われては何のことかわからない。
魂を作り出す?そんな魔法を使った覚えはない。
そもそも普通なら魔法陣で魔法を発動させる為魔法が誤って発動などはあり得ないのだが、思念イメージで魔法を発動できている事にユズキはまだ疑問を持っていない。
「この場にはお前以外にいないのだからそうなのだろう?」
「えっあっ...はい?」
いけない。
状況に混乱していつもの笑顔のまま聞き返す様な事をしてしまった。
それにしても魂を作り出す?
「お前が!我の様な生命体を作り出したのだろう!?」
怒っている様だが生憎身に覚えは...
そこで俺は大きな失敗に気がつく。
俺はあの時、[固体化]を使おうとしたのだが、イメージの仕方を間違えた。
そう、柔らかさを表現する際に頭の中でD魔獣のスライムを思い浮かべてしまったのだ。
そして魔道書(商店で買った300Fの魔法入門書)を見て改めて自分が何を発動させたか確認すると...
いわゆる魂魄魔法、というものだった。
ウィンドウを開き、「[魂魄魔法]...一般的には降霊魔法という風に扱われているが、魔力が膨大なものであれば大きな魔法陣を描く事により魂の創造も可能」と表示される。
ここで俺は更に大きな間違いに気がついた。
そういえば、魔法陣一度も使ってない...と。
これは非常にまずい、というか街中で魔法陣を使わずに魔法を何度か発動させてしまっている。
見つかってた時は言い訳を頑張らないとなぁ...
と、そんな事を悶々と考えていると耳元でとんでもない爆音が響く。
「聞こえているのか!?ボクを作り出したのはキミだろ!?」
なんかキャラ崩壊がしつつあると言うか最初の「我」キャラみたいな偉い系キャラはどうしたよ...
「てかお前喋れたのか」
「喋ることぐらい造作もないわ!ていうか早く質問に答えてくれる!?」
なんだか「我」キャラと「ボク」キャラが交差してるな。
多分後者が本性だろうな...
というかここまで黙るのも意地が悪いから素直に喋るとしますか。
「そうだ。お前を作ったのは俺だが...意図せずだ。」
「そう!そうだよね!やっぱりキミが作ったんじゃないか...って意図せず...?」
「あぁ、意図せずだ。お前を作る気では無かったが[固体化]の魔法の最中に誤って出来てしまった」
「えっ?誤って魂創造って?ていうかそれじゃあボク要らない子...?」
このスライム、やりおる。
この会話の最中に完璧な人間の見た目を作り出しおった。
しかも少し身長が低めの超絶可愛い見た目で。
スライムの固有魔法は[擬態]だ。
そう、これは擬態した形であり決して上目づかいも策略の内に過ぎない。
無言の上目の「要らない子なの?」なんで全くの意味を成さないのだ。
うんうん、そうだな、こいつはスライムで擬態した姿に過ぎない。
「要らない子じゃないですむしろ大歓迎しちゃう!ほらほらこっちへおいで」
「良かったぁ〜!捨てられるかと思ったよ〜」
可愛いis正義。
俺は間違った考えはしていないし別にこいつを仲間にしたのも単純にブラッドウルフを瞬殺できる強さを持っているからだ。
決して見た目に流されたわけではない。決してだ。
そうして俺達は次のブラッドウルフの群れを狙いに森の中へ進んでいった。
道中、スライムが今までの生活を聞いてみたい、というのでここに来てからの話をした。
するとスライムが同情するように言う
「異世界から転生か〜。大変だねぇ、ご主人も」
「別にいいさ、未練は108くらいしか残ってるわけでもない」
「結構残ってるね!?」
因みにスライムの俺の呼び方が「ご主人」なのは俺の趣味ではない。
純粋に最初「主、主」と言っていたからだ。
可愛い子に「ご主人」と呼ばれたいからではない。
断じてだ。
そして、ツッコミ終えたスライムは疑問を俺に投げかける。
「そういえばご主人はそんなに大金を持たされたのにどうしてお金稼ぎなんか始めたんだい?」
「それはな、俺の108の未練の内の1つ、家を買う、をするのが目的だからだ」
「家を買う?」
「そう、家を買う。俺は前世ではアパート暮らしだったんでな。家を買うのは夢だったが、この前見たところ家は90万Fくらいで買えるそうだ。土地が50万F、と合計で約140万F。これなら手が届きそうだと思って金策を始めたわけだ」
「へえ〜。意外と考えてるんだね、ご主人」
おいおい、なんだその言い草は。
まるで俺が何も考えていない人間に聞こえるじゃあないか。
いや、不手際で魂1つ作ったんだから案外否定は出来ないかもしれない。
というか「ご主人」がやけにこそばゆくなってきた。
街に行って「ご主人」と呼ばれたならば通報必須の状況になりかねない。
何せこの世界は奴隷制度は完全禁止なのだ。
やっぱり魔族、亜人、人族、精霊が暮らすためには奴隷制度は廃止すべきだったのだろう。
俺はまだケモ耳をこの世界に来てから一度も見たことはないが。
なので一応呼び方を変えるように行っておく。
「やっぱりご主人、じゃなくてユズキで頼む」
「?分かった、ユズキ!」
やっぱりこのロリったスライムに俺の名前を呼ばれるのは俺の精神が削られていく。
因みにスライム、と聞けば擬態後も色は青、みたいなイメージがあったがそれでは擬態が成り立たない為色はつくのだとか。
そして、スライムは各種族に化ける時は「その種族だった場合」の見た目となっているためこの可愛さは素だということだ。
因みに年齢は詐称し放題だそう。
このスライムは生まれて30分ほどだから年齢がそのままだと逆に困るが。
「なあ、スライム。ここまで来てもブラッドウルフの1匹もいないのか?」
おかしな事にらだいぶ森へ深く入ってもブラッドウルフは見当たらなかった。
「いや、どっちかというといるんだけどボク達を見て逃げてるみたい。ていうか呼び方スライムっていうのやめない?」
ふむ、逃げられているのか。
Bランク魔獣ともなればやはりそうした「天敵」からは逃げるようになるのだろう。
厄介極まりないな。
それはそうとスライムの名前だ。
俺は生物に名前をつけた事なんて前世を含めて一回しかない。
それも飼っていたハムスターに「ハム吉」という名前だけだ。
昔授業で飼っていた豚に「非常食」と名前をつけようとして却下されたのはいい思い出である。
さて、今回のスライムの名前はどうしたものか...
安直に「スラ吉」でもいいんだが、これでは過去の自分と変わらない。
失敗例が過去にあるのであればそれをよりよく改善するのが普通の行動である。
つまり格好をつけて言えば、「過去の自分を乗り越えろ!」という事である。
うーん...間違い、手違いから生まれた...ミスから生まれたスライムだろう...?
こういう時は厨二病っぽい名前をつけてやれば案外喜ぶかもしれない。
そんな気がする。
漆黒の翼?
冥界の悪魔?
地獄の門番?
どれにしようか...。
こういう時は全ての要素を含み、なおかつ不自然ではないもの...あっ!
漆黒の翼、冥界の悪魔、地獄の門番のそれぞれ頭文字でしめじ、というのはどうだろう。
うん、なかなか愛嬌のあっていい名前ではなかろうか。
「なあ、スライム、お前の名前」
「うん!ボクはミスから生まれたスライムって事でミスラって名乗るぞ!」
「えっ...」
俺の葛藤、完全に無駄だった...
その後ミスラに「ユズキ、どうしてそんなに不機嫌なのさ」と言われつつも逃げるブラッドウルフを追いかけ回して倒し、また街へ足を向かわせていた。
パーティーに、可愛いスライムが加わった。
お金稼ぎをしてた理由、本来なら始めたその回ていうつもりだったんですが書き忘れていました。
申し訳ございませんでした。