5話 商談
街に戻ると、俺はまず一番に東の街(元いた街)の商店に行った。
今日も店主さんの元気な声が聞こえているが、俺の目には1つの商品しか目に移っていなかった。
それがこの店の最奥にある「カジルの腕輪」だ。
基本的には鉄が材料とされているが、地球の鉄とは少しこちらの方が硬いようである。
これは買うと450Fのもので、これには魔法がかけられている。
それが昨日俺が使った[ブラシ]の魔法だ。
これにより、これをつけていれば基本的に風呂に入る必要もないし、体を洗う必要も無い。
こっちの世界では生活必需品の1つ、という事も昨日宿のおばちゃんから「あんた、カジルの腕輪を持ってないなんてどこから来たんだい?」と聞かれたことにより明確となった。
さて、次に俺は昨日と同じように北の街へ行った。
移動中に考えを整理するとしよう。
まず「カジルの腕輪」を俺は東の街にて今の有り金の半分、60000Fを使って帰るだけ買った。
この世界にも税金はあるようで、100F毎に10F、とされているようだ。
因みにこれは90Fだと9Fとなる為どちらかと言えば10Fで1F、と考えた方がいいだろう。
因みに1~9Fに税金はかからない。
まあ、1~9Fのものなぞ存在しないので306Fのものは336F、と覚えておこう。
要は一の位に税金は干渉しないということだ。
さて、つまりこの450Fというのは495F、ということになり60000Fで買える最大数は121個だ。
キリを良くして計算を早くしたいので今回は120個購入をした。
つまり俺はここで59400Fの使用をした事になる。
ここまで考えて、北の街に着いた。
北の街の商店に入ると、昨日と何ら変わらない光景が目の前にあった。
そして目の前にいる店主に交渉を持ちかける。
「あのー少しお話しいいですか?」
「あぁ、なんだい?欲しい品物が見つかったかい?」
「いえ、そうではなく"カジルの腕輪"をこちらでしばらく買って頂きたいのですが...」
「ほう?その話をするからには大量かつ素早くここまで運ぶ手段があるのかね?」
そう、実は東の街から北の街への道は細く馬車が通ることが出来ない。
昨日宿のおばちゃんと話して色々聞き出せた中の1つである。
その為、東の街の商品をこちらに大量に速く運べる人材は捨てがたい、と思うと考えた。
次に、北の街では鉄があまり生産されていない。
代わりに東の街ではあまり生産出来ない農産物系統が北の街では良く生産されている。
つまりこちらで手に入りにくい、というわけだ。
さらに言えばこの「カジルの腕輪」、魔法の効果が1ヶ月を目安に切れるのだ。
永久的なものではなく、消耗品のため定期的に大量に売れるという。
しかしその分確保するためには、ここまで運ばせるのに馬車が必要不可欠となってくる。
しかし馬車は一度外壁に出てこちらまで来るか、中央街を高い交通代を払う必要がある。
外壁に出れば盗賊に襲われたり獣、場合によっては魔獣など様々な危険が及ぶ。
つまりこれは生活必需品でありながら、入荷が困難な品物というわけだ。
そこで俺はこのバッグを使った。
この世界のマジックバッグは永久にものが入り続けるものではなく、一定数で一応限界は来る。
そのため100や1000など大量の品物を一度に運ぶのは無理があった。
しかしあのミルファランス様が用意したのは無限に入る伝説級の代物。
こういうところはミルファランス様GJ!
これを使えば大量の品物が速く安く手に入るというわけだ。
なんとここ北の街の商店では売れば700Fの値段がするという、先ほどの街とは値段の違いがあまりにも明らか過ぎた。
そこで俺は店主に、
「1つ600Fでそちらが買い取る。俺は毎日500個ほどこれをそちらに売る。これでどうだ?」
と持ちかけた。
話しているうちに店主はなんと自らの馬を使って中央街を通ってここまでこの商品を運んでいたことが判明した。
そんな手段を取れば1つあたり900Fはかかっているだろう。
成る程、だからこの街では「カジルの腕輪」が1000Fで販売されているのか。
しかしこれを使えば話は別だ。
700Fに価格を変えれば客も大幅に増えるだろうし、現時点で毎日400~550個購入される「カジルの腕輪」の在庫も気にしなくて良くなるというものだ。
しかしここで店主から待ったがかかった。
「たしかにそれは助かるんだが...。あんたが今言ったように700Fに変えれば客も大幅に増える。ざっと毎日300個は増えるだろうよ。それなら毎日500個じゃあ足りない。800個でひとまずどうだ?」
「ひとまず、ということは」
「そうだ。客の増え具合により多くなるか少なくするかを決めさせてくれ」
ふむ。
それでも構わないのだが、一応保険として店主に最低でもここに毎日500は買ってもらうように話をつけた。
そして早速持ってきた120個を買ってもらう事にした。
「保存状態も良い、数もある...あんた、そのマジックバッグ、とんでもない品だな」
「あぁ、自分でもとんでもないと思うよ。でもこれを公にすることは避けてくれ。俺は別におおごとにしたいわけじゃあない」
「それほどの品を見て黙っているのも惜しいが交渉のこともある。わかったよ」
「ありがとう。ではまた数十分後に来るよ」
「随分と早い移動方法を持ってるんだなぁ。とんでもないマジックバッグを持ってることも関係してるのか?」
「あまり詮索を入れないでくれよ。それに俺の移動方はトップシークレットだ」
「そうかい。んじゃ、品物を心待ちにしとくよ」
終始微笑みながら店主との会話は終わった。
俺の金は最初に持っていた120000Fの半分の60000Fを俺は今後使う、と決めていたが残りの60000F(厳密には通行料に使った為少し減っている)は緊急時以外使わなくて良いだろう。
要は今の所持金は60000Fから120個買って600Fへ。その後売ることにより600Fから72600Fへ、と言ったところだろう。
54900F消費で72000Fが収入、儲けが12600Fだな。
またこれにより次持って行ける最大数は約145個となった。
これを繰り返せば500個は行くな。
因みに移動方法だが、これには風魔法を使っており使っているのは応用の[フライ]だ。
風で自分の体を浮かす、これがなかなか難しい。
これには自分の体重を変動させる魔法も必要だった為昨日宿で必死になって覚えた。
おそらくこの移動のためだけに[フライ]を使おうと思ったのは僕がこの世界では初めてではなかろうか。
僕は店主に500個届け終わると、北の街の宿にてまた眠る事にした。
現在の所持金、112500F。