25話 vs死神
この世界に来て一番最初に知った魔法。
どうせ異世界に飛ばされるなら一つくらいは、と願った魔法。
まだ検証が十分に終わってないからあまり使いたくは無かったんだがな...
イメージ発動”[鉱化]”
鞭に打たれて二十メートルは飛んだであろう体はそこでピタリ、と動きを止める。
ゴトン、と何かが石畳に落ちる音が聞こえる。
落ちたのは俺であった。
金色に光っている俺の形状をしたこの鉱石の塊はさながら”金剛石”の様に光を放っている。
死神はこの姿を見ると、ビクッと体を一瞬跳ねさせ、その後すぐに数千は超える無数の触手を作りそれを鞭の様に変形させ俺にぶつけてきた。
しかしもう遅い。
この状態では人の首が飛ぶ程度の衝撃は今を為さない。
この魔法はどんなデメリットがあるかが分かっていない。
だが、もしデメリットがないのならこの魔法は間違いなく最強の魔法なのだろう。
俺は今なお攻撃を続ける死神に告げる。
「俺が元いた世界ではな...ミスラ。」
喋る間も攻撃は止まない。
しかし今俺にはその攻撃は届いていない。
俺は続ける。
「攻撃は最大の防御、って言葉があるんだ」
[鉱化]した体を人間の体の様に動かして少しずつ死神に接近していく。
一歩、また一歩の近くと同時に攻撃は強くなる。
「でもさ、それってさ」
俺の半径十メートルに入った。
この魔法の射程は分からないが狼の時はこれで事足りた。
「逆に考えれば防御は最大の攻撃って事だよな」
俺の体が大きな一本の光輝く槍へと変形する。
死神はどうやら動けないようで、触手で叩きつける事しかしてこない。
おそらくまだ第何形態みたいなのが残っているんだろうが、生憎と興味はない。
少しでも早く、俺のミスラは取り返させて貰う。
一本の大槍が死神の中にある黒い靄のような部分に向かって向かう。
この靄はさっき近づいた時に発見した、恐らくミスラを死神にしている物体だろう。
勢いよく飛ぶ槍に触手を絡めたり叩きつけたりと、必死の抵抗を試みる死神。
しかし、”最強の防御”によって守られている槍にはその抵抗が届く事は無かった。
黒い靄を突き刺す大槍。
その光景はまるで神話生物の化け物に神槍が突き刺さっているかのようだった。
瞬間、死神の靄が消える。
靄と一緒に増えたミスラの体積も消えていく。
そこに残ったのは...擬人化が終わっていない元のミスラだった。
それを確認するとユズキは黒い靄に当てられた影響だろうか、意識をスッと刈り取られる様に落とした————————————————————
———
ボクは、人としての姿になる前の状態にいつのまにか戻っていた。
目を覚ますと同時に、意識を失っていた間の記憶が流れ込んでくる。
大きくなって暴れ始めたボク。
みるみる巨大化していき、黒い靄が身体の中に溜まり始める。
黒い靄が増えるほどに苦しくなっていく。
苦しさから逃れようと必死に暴れているボク。
何か周りにあるものは...と城の中の魂を全て吸い取り、周囲の魂を次々の吸収していく。
魂を吸収すると同時に苦しみは薄れていき、苦しさがほとんど消えた時。
“それ”は現れた。
何を見たのかは思い出せない。
大きな恐怖の対象である事だけを覚えている。
ボクは”それ”に黒い靄を穿たれて意識を失った。
そして今に至る。
「ーーーーー!!!」
悪夢を思い出したかの様な不快感を感じ、またその苦しさが今ここにあるかのように感じてしまう。
スライムの状態では喋る事も出来ない。
声にならない悲鳴を上げ、ボクは精神が少しずつすり減っている事を実感する。
ボクは状況を確認する為に辺りを見渡すのであった———
———
目が覚めた。
俺は目が覚めると同時に自分がまだ槍のような状態であると気がつく。
慌てて槍化を解くと、下から
「わっ」
と聞きたかったあの声が聞こえる。
「ミスラ......」
「ユズキ......」
ミスラが擬人化をして俺の声に応じる。
俺は心の底から安堵する。
そこでミスラから声がかけられる。
「ところでユズキはどうしてここにいるの?」
安堵は無かった。
様子からして冗談を言っている風でもない。
つまり、これは記憶がないという事だろう。
アレは死神としてのミスラであり、今のミスラにその記憶はないという事になる。
なら無理矢理思い出させるのは酷だ、判断する。
言わない理由よりも何より言う意味がない。
「いや、王城に行けば何かわかるんじゃないかと思ってな」
「あ、じゃあボクと同じだね」
「さて、城の中に入りますかね」
とは言ったものの、城の中に手がかりが残っているとは思えなかった。
何故なら、城の中にまだ兵が残っているなら城を守るために城周辺にまだ兵がいるはずだ。
俺達が起きた時にその兵と出会っていないのは些か不自然が過ぎる。
城に入ると、そこには異様な光景が浮かんでいた。
「おいおい、なんだこりゃ......」
そこにあったのは、”死んでいない兵士達の死体”の山であった。




