20話 異変の始まり
これまでの魔法を使っていき、四体は既に倒すことができた。
と、遂に五体目の山岩人形を発見したため、俺はすぐに[雷罠]をストックから取り出して設置する。
残りのストックは一つとなってしまったが、まあこれで五体目、街に帰ってからまたストックは貯めればいいので、別に不自由はないだろう。
と、ここで最後の山岩人形が倒れて、目から光を失っていく。
同時に、また初めの違和感を感じるも、[霧化]の影響だと切り捨てる。
[霧化]の魔法は、使った後に少し先程の違和感が感じれたためおそらく何かしらの体への影響があるのだろう。
魔石を回収したところで、俺は山を降り始める。
山のふもとのスタート地点で終わり次第ミスラと待ち合わせをしているからである。
[◯ーグルマップ]は今、山をちょうど覆うように展開しているのだがそこにミスラの反応が無いあたりもう終わっていると見ていいだろう。
山のふもとまで降りると、そこには既にミスラが座って待っていた。
やはり待たせてしまっていたようだ。
「おーい、ミスラー」
「あ、ユズキ! ようやく降りてきた! 」
「あぁ、ごめんな、どのくらい待った? 」
「体感では2日と3時間」
「実際には? 」
「五分」
「案外短いな」
「そりゃボクもさっき終わったばかりだし」
「てことは実力的には二人とも同じくらいなのか」
「そうなるね」
こうして会話をしている間も、体の中の違和感がずっと取らないでいる。
感覚的に言えば、少し気持ち悪いくらい、という感覚がちょうどいいだろうか。
バス酔いの前兆とかそのくらいと考えて貰っても構わないが、少し気持ち悪いだけで体に異変は起きていないのだ。
体調を崩してしまった、という可能性もあるな。
それなら、休む意味も[雷罠]のストックを補充する意味も込めて早く街に戻った方が良さそうだな。
「さあ、ミスラ。街に帰ろうか」
「うん。ギルドで報告もしなきゃねー」
「あぁ、ギルド受付員さんはどんな顔をするだろうな? 」
「でも個人情報は絶対に守る人でしょ? いろんな冒険者から聞いても、「キツイ言葉は言うけど秘密は絶対厳守のいい人だ」って言うことを言う人が大半だったもん」
「それなら安心だな。それにしてもミスラ、俺たちは一応隣国への届け物(仮)なのだが、これだけ早くちゃあ問題じゃないのか? 」
「あ、それは確かに。まあプロタイトさんの事だし見逃してくれるよ、きっと」
「騎士長ともあろうお方がそれじゃあ困るんだけどな......。でもそれに助けられているのも事実だしそれには素直に感謝しなきゃな」
「そうだよ。あ、あと、宿のおばちゃんにさ、聞きたいことが出来たんだよね」
「へぇ、あのゴシップおばちゃんから何を聞き出すんだ? 」
「いや、ボク達って東の街と北の街しか行ったことがないじゃない? だから西と南の街についても聞いて行きたいなって」
「なんだ、そういうことか。確かに行ったことがないな。今度一緒に行ってみるか」
「やった! やっぱり持つべきものは良い召喚主だね! 」
「それは恐らくお前限定だと思うけどなぁ」
なんて、他愛のない会話を繰り返しながら俺たちは街の付近の草原まで来ていた。
と、ここで俺たちはある異変に気がつく。
「おい、ミスラ」
「分かってる、ユズキ」
何かが、おかしい。
そういえば簡単なのだが、おかしいところは既に明確なまでに分かっていた。
[◯ーグルマップ]、これで門のある方の東の街を見るといつもは、大体が商店街に人間の魔力は集中しているのだ。
しかし、今は真昼でまだ日も明るいというのに商店街どころか、東の街全体に人間の魔力が殆ど残っていなかった。
それどころか、なんだか薄い、違和感のあるような魔力が全体に立ち込めていた。
「ミスラ、ちょっと北の街の門の方に行ってみてくれないか? 」
「分かった。確認してくるから、ユズキは東の街を頼むよ」
「そのつもりだ」
ミスラは北の門へ向かっていく。
スライムならではの[霧化]で移動しているためかなり早く移動できている。
「さて、俺も......」
と自分も[霧化]を使おうとした時に、問題は起きたのであった。
一瞬。
その間に俺は、ゆうに数千を行くだろう犬人達に囲まれていた。
「ッ!?」
咄嗟に[気配霧散]を使おうとするも、犬人からかなりの上級魔法であるはずの[反魔法]を打たれて、無駄に終わる。
さらに、今の[反魔法]で、[◯ーグルマップ]も解けてしまった。
こちらとしてはかなり痛い失態だ。
こちらが戸惑っているのを見てか、犬人達は一斉に突進を仕掛けてくる。
しかし、こちらの[気配霧散]に一度使った後のクールタイムがあるように、向こうの[反魔法]にもクールタイムがある。
俺は落ち着いて、転移対象を自分以外のこの場の犬人を全員にセット、[氷の大迷宮]を発動する。
一斉に犬人は閉じ込められ、破壊音が聞こえるも無駄である。
何せこの魔法は壊れない氷の壁を創り出すのだから。
向こうの上級魔法使いも対軍用に匹敵するような魔法が二つもあるとは思わなかったのか、特に行動を見せてこない。
これで閉じ込めることが出来たので、あとでゆっくり処理をすればいい、と思ってこの場を立ち去ろうとした。
その時に。
地面が、俺の顔を打ち付けてきた。
いや、もっと正確にいうのであれば、俺が前に倒れて地面に顔を打った。
何かにつまづいた感覚は無いが、全体的に力が抜けたように自由に体が動かない。
かろうじて手は動かせるが、足で立とうとしてもそれは叶わなかった。
そして、必死に後ろを振り返ってみると、やはりそこには”予想通り”で”最悪”の自体が起こっていた。
[氷の大迷宮]の氷や形は、魔力で維持しているはずの絶対と言っていいほどに崩れない要塞であったはずだ。
しかし、どうだろう。
目の前で[氷の大迷宮]の魔力は霧散し、消えていき、中から大量の犬人が突進してきているのが見えてしまった。
同時に、ニヤリと笑う上級魔法使いの姿も。
そして、理解する。
今何が自分に起きていて、これからどうなるのかを。
そんな自分の気持ちを代弁するようにウィンドウが開く。
「魔力切れ.......体内にある魔力を全て使ってしまい、四肢が思うように動かない、痙攣のような状態になってしまうこと。この場合は、封印魔法の発動や人間に適正を持たない[霧化]の使用、[上級封印]により魔力消費を五倍にされた上級魔法(氷の大迷宮)を使用することによりユズキ特有の膨大な魔力が切れてしまった。ユズキ特有の膨大な魔力は、穢れた魂から発生しているとみられる」
と表示されてしまい、予想が的中したことを全力で喜ばしく思えない。
しかも、[上級封印]という魔法までかけられてしまっている。
おそらく[反魔法]の時に同時にかけられたのだろう。
だが、魔力切れならば対策を立ててあったのだ。
そう、”大魔法樹の棒”である。
金剛石と共に送られたプレゼント、あれの中には膨大な魔力が込められていて、持つだけでも魔力の大回復が可能なアイテムだったのだ。
しかし、四肢がまともに動かないのではバッグから取り出すこともままならない。
そうしている間にも、軍の突進は俺にかなり近づいてきている。
倒れている間に重ねがけをされたのか、[上級封印]が[上級使用不可]へ変わっていることを確認する。
つまり、俺はあの魔法使いを倒さない限りは上級魔法が使えないわけだ。
刻一刻と死への時間が近づいてくる中で、俺は必死に考えるが、あいにくと武器も持っていない。
ミスラも北の街へ向かってしまい、自分を守るものはもういない。
そこで、思い出したくなかったことが思い出されてしまった。
しかし、思い出した瞬間に、俺の両腕両足は吹き飛んで消えてしまった。
それは雷魔法か、手足を焼き切られてしまったのである。
「........」
声も出ない。
叫ぶことすらままならない。
そもそもこの”程度”で叫ぶことはしない。
俺の腕に何が恨みでもあるのか、この世界に来てから俺の腕はよく千切れる。
もっとも、前は知的生命体では無く、今回は同等くらいの知能は持っている生命体にやられてしまった為、だが。
もちろん、痛みで意識を失うなんてこともあり得なければ、今回はまあ大きくくくりに入れれば”人”相手にやられたことで心に余裕すら持っている。
俺がここまでの余裕を見せているのは訳がある。
それは地球にいた頃に自分がやった事、正確に言えば自分の指示により起きた惨状から付いてしまったもの。
“魂の穢れ”
腕からあふれ出した穢れの塊は、その犬人達をまるで一瞥するかのようなそぶりを見せると、すっと、音すら立たずに、しかし犬人より早く移動して犬人に近づいてくる。
犬人はやはり魔物に近いからか、その姿が見えてしまったのだろう。
しかし犬人とはいえ彼らも軍人、逃げ出すわけにもいかずこの穢れに攻撃を仕掛けてみる。
当然通じるはずもなく、攻撃は全て通り過ぎていく。
そして今度は穢れが犬人達を通り過ぎるように、彼らの体を抜けていく。
途端、前線を務めていた一千もの軍勢は糸の切れた操り人形のようにその場に立ち尽くす。
しかし、決して倒れはしない。
脳はまだ動けと指令をだす。
心臓はそれに伴って動き続ける。
そのなんの不思議もない肉体には、全て”中身”が無かった。
“穢れ”は自らの体をより大きく、巨大なものとして、より奥深くへと進んでいく。
結果は簡単で、複雑なものだった。
結局、その場にいた全員の犬人は死んでしまった。
ただ数千の”肉体”を残して。
上級魔法使いは、最後に[転生]の魔法を使っていたが、[転生]は肉体が滅んでも魂を別の肉体に宿らせることの出来る魔法、というだけで魂が消えてしまってはもうどうしようもなかった。
俺は立ち上がろうとするが、そういえば手足が無いのでそんなことも出来なくなっていた。
すると”穢れ”が来て、まるで代わりだとでも言わんばかりに俺の手足に、”俺の手足の形をして”接続した。
そして、”穢れ”は色をつけていき、やがてそれは俺の体となった。
いや、もともと俺の体だった”穢れ”が俺に戻ってきただけ、ということなのだろう。
これが俺の、最大の攻撃にして最大の防御。
つまりは、最大の防御である最大の攻撃だ。




