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12話 進軍

殺意を確認してから2人はしばらく硬直していた。

なぜかといえば、それが一軍隊レベルの規模を持っていたからだ。

一つの街より一回り小さいくらいの軍隊が2つ、明確な殺意を持ってエイガルト王国に向かってくる。

極め付けは、それらから出る魔力反応が全て魔物だったからだ。

魔物は本能のとおりにしか動かず、軍隊レベルの規模を集めて攻めることなど出来ない。

集団行動、と言っても小型の魔物、それこそ虫系限定だが明らかに魔力量は虫型の比ではない。

だとしたら、だ。

それで思いたくない、思いつく考えが一つ頭に嫌でも浮かんでくる。


「「魔物が...知能を持ってる...?」」


ありえる筈のない、しかしそれ以外考えることの出来ない結論に辿りつく。

幸い相手はこちらに気が付いていないようだが、それでも魔物だけあって早い。

数十キロも離れていた軍隊は、もう30分もあれば王国に着きそうだ。

今から王国が群を出すには間に合わない。

そこで俺たちはある決断を下すことにした。


「ミスラ」「ユズキ」

「「取り敢えず足止めをしようか」」


2人の意見は合致した。

幸いにも足止めに最適すぎる魔法を今実験したばっかりだった。

ならばそれを使わない手はないだろう。

この世界でユズキとミスラは初めて——知的生命体に、敵意を持って攻撃した。

ミスラは、魔法を多重発動して、[魔法強化]を少し強めに発動ののちに、向かってくる軍隊を転移対象にし、発動。

虚空から生まれるは氷の大迷宮。

美しく恐ろしい、即興型大迷宮の完成である。

これにより二手に分かれていた軍隊の一手は完全に捕縛された。

破壊してもすぐ元どおりになる、絶望の大迷宮から阿鼻叫喚が外に漏れ出す一方、ユズキの向かった一軍隊では...


「全体止まれ!」

「ここから先は情報と違い霧が立ち込めているようだ。慎重に仲間を見失わないように進め!」


瞬間。


「ッ!?総員!応戦用意!」


注意していた筈が、霧に入った瞬間数千の気配に囲まれてしまった。

既にあちらこちらで戦闘が起きているがこちらは万の軍勢で、更には魔物。

人間数千如きにどうにか出来るわけがなかった。

しかし。

(軍の数が、減っている...?)

あちらこちらで爆発音が聞こえる。

死ねば発動する自爆装置だ。

しかし霧も晴れなければ敵も減らない。

何故だ、と、その答えは次の瞬間分かった。

自分の首に剣が突き刺さっていたからだ。

それも、”自国”の。

(そうか、初めから敵なんて何処にも...)

指揮官は、その草原の地に意識を沈めた...


[幻影気配]の応用術、[気配転移]。

自分の気配を他人に移し替えることができる魔法であり、一気に複数にも転移可能。

視界の中、気配のみで攻撃をする軍人はまさか味方を攻撃しているとは思うまい。

残されたもう一手も、今またこの草原に沈んでいった...


霧が晴れると、そこには酷い惨状が広がっていた。

この惨状を作り出した主でさえ吐きそうになるくらいに。

仲間が仲間に剣を刺し、爆風で四肢は弾け飛び、苦悶に顔を歪めて死んだ犬人の姿がそこにはあった。

と、ミスラが、


「おーいユズキー!取り敢えず一体だけ捕獲してきたよー!」


ミスラの方向を見ると、指が触手状に伸びて貼り付け状態になった犬人の男がいた。

魔法で即興の皮のバンドを作り出し、椅子を作り出すとそこに座らせ犬人をくくりつける。

そして、”尋問”を始める。

ユズキの目が碧眼から隻眼に変わっていく光景をミスラは見たが、この雰囲気では何も言えなかった。


「おい、犬人、お前は喋れるのか?」

「...」

「だんまりか。俺も手荒に扱いたくはないんだ。できればキリキリ情報を吐いてくれ」

「...」

「なあ、魔物が軍隊で動くなんておかしいだろ?」

「我々をそこら辺の下等生物如きと一緒にするんじゃぁない!」

「やっぱり喋れるじゃねえか、じゃあいいや。お前、さっさと話せ」

「誰が喋るものかっ!」


ニヤリ、とユズキの顔が歪む。

犬人の足に魔法陣を貼り、魔力を注ぎ始める。

ぶすぶす、と音を立て始め足が腐り始めていった。

[腐敗(アシッド)]、対象を腐敗させるだけの魔法だ。

しかし、生きながらにして腐っていくという感覚は人知を越して辛いものがある。

足が順々と腐っていくその痛さよりも、犬人はより恐ろしいものに顔を青を通り越して白くさせていた。

足を腐らせて溶かす、というような非道をやってのけてこの男は常に”笑っている”のだ。

先程から、”笑顔の種類”は変われど、一度たりとも笑顔を欠かさないこの相手はなんなのか。

そちらの方が犬人に対してはよほど怖かった。

そして更に魔法陣を一つ取り出して、更にそれはもう人とは思えないほどに狂気の笑顔に顔を歪ませたところで————


「っわかった!話す!だからやめてくれ!」

「へぇ。案外あっさりと話すんだね。ちょっとつまんないかなぁ」

「この悪魔が...。まぁいい、話すぞ。俺はここから北の数十キロ先にある地図にない国、エンハンスメント国の軍人だ。確かに俺たちは元は魔物だったが、この[知能強化]の固有魔法で人間と同等の知能を得た。そこに魔物の力も合わさったわけだ。そこで俺たちは手始めに一番近くの国を落とそうとしたわけだが...結果はこの通り、バケモノに皆殺しにされちまったよ」

「それじゃあ君達は固有魔法で圧倒的知能を得て、一国を立てたわけだ。成る程、たった数ヶ月でこれを成したとすれば確かに君達の知能は高いのだろう」

「あぁ、俺は話したぞ、離してくれ」

「OK、君を解放してあげる」


そう言ってユズキは水刃を作り出し革製のバンドを切り裂いた。

同時に、犬人の首も。


「っは?」


ズルリ、と犬人の首が胴体と永遠の別れを告げると、ユズキは呟く。


「別に話したら許すなんて、言っちゃいないんだけどなぁ...」


さて、とユズキは足を氷の大迷宮へ進める。あの中にはまだ大量の犬人がいるはずだ。

ミスラに指揮官レベルの者のみを拘束してもらい、ユズキは[鉱化]を使ってその姿を氷の大迷宮、もとい闘技場に身を眩ました...

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