10話 それぞれの進展
一方その頃神様は...
「ミールファーランースちゃーん!」
と、上機嫌な声でミルファランスに近づいてきた神...ウルガゴラスは。
逃げ出してきていた。
山のような書類を見てまた逃げ出してきたのだろう、とも思ったが今回はいささか様子が違う。
何があったかを聞くべきだろう。
「あらぁ〜ウルちゃんじゃない、また逃げ出してきたの?今度こそエンミス君に怒られるよ?」
ちなみにエンミスというのはエングランドミスカイト君の略称である。
一応上司なのだが愛嬌がありあまりそう思えない。
しかし、ウルガゴラスはこれに頷かず、静かに首を振った。
そして、暗い顔になったかと思うとこれまでの事を話し始めた。
まず、彼女は新しく世界を作り、地球をコピーしたそうな。
しかし、今なお生きているユズキだけはコピーできずに。
すると、どうだろう。
今まで進んでいた科学に一歩の進展も現れなくなったのだ。
しかし、同時に世界各国の戦争も止まっていき、今ではちょっとした隣人同士での争いの如く小さな規模になってしまったという。
明らかな、異変。
とある言葉に、「バタフライエフェクト」という言葉がある。
これは、何が少しでも歴史に違いがあれば未来は大きく変化する、というものだ。
しかしこれは当てはまらない。
何故なら、これはコピーしたのであって、歴史をやり直した訳ではないからだ。
つまり、周囲の人間にはただの不可解な失踪事件程度にしか写っていない筈なのだが...
そこでミルファランスはある言葉を思い出す。
「ねえ、ウルちゃん。地球を滅ぼす時って手を抜いた?」
「いいや、そんな事はないぞ?全身全霊を込めてやったつもりだ」
ウルガゴラスがそうだというならそうなのだろう。
しかし不可解な点がこれにより出来てしまった。
まず、彼の魂が生き残っている、という事だ。
汚れ過ぎた魂はたしかに一度滅ぼしてもまだ生に執着して生き残っている場合がある。
しかし、生き残ったとしてもその多くは記憶がない。
何故なら記憶は脳に依存しており、魂はあくまで動く為のコアでしかないのだから。
だがしかし。
これをウルガゴラスが手を抜いたというのならたしかに魂を全部を一度に破壊しきれなかったのだろう。
しかし全力を尽くし消しとばしたと言うのならば話は別だ。
そう、少なくとも数百万回は滅ぼされているはずだ。
だが、あの男は生きた。
消されたはずだが、魂の穢れなど関係なく滅ぼした筈だが、生きた。
そこまでの魂の穢れが一個人にあっていいのだろうか?
耐えきることが出来るのだろうか?
彼は一体何者なんだろうか。
いや、既に「者」とも呼ぶことが出来ないかも知れない。
困り顔をするウルガゴラスを横に、ミルファランスは大きな疑問をその胸に抱いていた...
一方時は戻りユズキ達のいる国から数十キロ離れた地点では...
そこには、”地図にない国”があり、活気に満ち溢れたその国の中には...
大量に、住民がいた。
それも、”魔物”の住民が。
物を買い、友人と話し、酒を飲み、仕事に励む魔物がそこにはいた。
元来、魔物の知能は弱く、人間のような理性など持ち合わせず本能のみで行動をしている。
ユズキ達が戦っているブラッドウルフなどもそれらの仲間だ。
国など持つはずがない。
知能なんてあるはずがない。
そんな魔物が、しかし一種類だけしかいないこの人型で犬型の魔物が立派な一国を作り上げてきた。
この国付近をうろついている人犬型魔物が近づいてきた冒険者の首が、また一つ飛んで行った...
時は戻り、ユズキ達は宿にて話し合いをしていた。
どうやらユズキの魔法開発は終わったようである。
ちなみに話の内容はと言えば...
「いや、やっぱり街に出る時はスライムの格好でいてくれないか?」
「やだよ!あんな戦えもしないような低級魔物と一緒にされたくない!」
「そうは言ってもなぁ...」
「だからユズキは何が不満なのさ!」
「いや、その格好だとなぁ...」
「なんなんだよ!文句があるならちゃんと言ってよ!言ってくれなきゃ分かんないよ!」
「だー!もうっ!お前のその格好があまりにも人目をひくからやめろって言っているんだよ!」
ミスラは、人間で言うところの可愛い系の女性であった。
スライムは各々の種族だった場合、の姿に種族化けでは変わっていくので、つまりこれは素であると言うことだ。
まあ街に出れば100%声を掛けられるだろう。
「まぁ聞かなきゃいけない訳じゃないんだしいっか。ユズキは魂魄魔法を操れてないんだし」
「くそう...こんな時に操れないのが悔やまれる...」
そんなユズキの悔しそうな声が、小さな宿の小さな一部屋に反響した。




