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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アタック オブ キラーウナギ

作者: ばんがい

 夏といえばウナギの季節だ。大人も子供も国中の人間が夏の暑さに負けまいとしてウナギを食べる。特に今年もウナギ消費量一位を目指すF市での熱気は非常に凄まじいものだった。

他の町に負けるなと鬼気迫る表情でうな丼をひつまぶしをウナギパイを消費していくF市民。まさに消費の為の食事だ。

 中には「このままではウナギが絶滅してしまう」などと冷静な意見を述べる賢者もいたが、大半のF市民はそのような進言に聞く耳を持たず、むしろそのような賢者の食事にはウナギの粉末を密かに混ぜるなどして秘密裏に協力させようなどとした。

 もはやF市民の熱狂を絶滅などという生ぬるい理由で止めることはできない。それどころか【最後のウナギを食べた町】という称号を得ようなどと言い出す輩が現れるほどだった。



 ある日F市が開催した大食い大会(この夏だけで3度行われている)の最中に、選手の一人が腹痛を訴えて倒れた。誰もがウナギの食べすぎだろうと限界まで挑戦したその男をむしろ微笑ましく眺めていたがその男の苦しみぶりはあまりにも凄まじく、ただ事ではないと感じた大会役員によって病院へと運ばれたが治療もむなしく、まもなく死亡してしまった。

男の死亡後、病院ではすぐさま男の不審死を調査する為の検死解剖が行われた。


 「只今から検死を行う。……みろよこの胃袋を。パンパンだな。もし死んでなかったら優勝間違いなしだったろうに」


 検視官がそう言いながら男の胃袋をつつくと死んだ男の胃袋が不自然に動きだした。ボコボコと膨らみ縮みする胃袋の動きはまるで心臓のようだ。

異様な動きを見せる胃袋を更に詳しく調べる為、検視官がメスを胃袋に刺し込むと開かれた穴からは黒々とした一匹のウナギが飛び出してきた。


 「ウワッ!なんだこのウナギ。生きてるぞ。大食い大会ってのは生きたウナギの丸呑みでもしてたのか?しかも一匹じゃない。胃袋の中で小さなウナギが死んでやがる。オエッ!こいつら腹の中で、共食いしてたんだ!」


 外に飛び出た一匹以外にも開かれた腹の中には大量の小さなウナギが残されていた。しかし、そのどれもが体の一部を欠損して死んでいる。共食いは明白だった。


この事件を引き金に市場に出回るウナギの一斉調査が行われた。その結果、現在食べられているウナギが以前のモノとは違う新種のウナギであることがわかった。この新種ウナギは身の中に透明な卵を隠し持ち、食べられた後に孵化して胃袋のなかで成長する。

生きたウナギは粘液に覆われていて水中から出されても長い間生きることができるくらい生命力が強い。更に言えば食べれば精が付くといわれるウナギだ。やつらが共食いをして育ったのだとすれば確かに腹の中で生き残るほどに生命力が強くなっていたとしても不思議ではない。

 皮肉にも食べ過ぎて絶滅するという問題とウナギはどこで産卵するのかという疑問の二つが解決した瞬間であった。


 …もしかすれば、これは神が起こした奇跡なのかもしれない。ウナギは繁殖して増えたい。しかし、人類はウナギを食べたい。この相反する目的の折衷案として生まれたのが腹の中で繁殖するウナギなのではないか。神を信じる者たちからはそんな言葉も聞こえてきたがどちらにしても人類側からすればたまったものではない。


 食って死ぬか食わずに生きるか(Eat or Alive)。この究極の選択にF市民は食って死ぬ方を選んだ。

そもそも種を滅ぼしてでも食べたいと思ったウナギだ。滅ぼされる側に回ったからといって箸が止まることはなかった。

 しかし腹の中でウナギを育てることを許可したわけではない。もちろん対策は講じられた。生命力の強くなったうなぎをどうすれば安全に食べることができるか。その方法を調査する研究チームが結成された。皮肉にも研究員として選ばれたのは【ウナギ繁殖センター】の研究員であった。

 最初こそ鼻息荒く新種ウナギの秘密を探ろうとした研究員たちであったが、元々腹を裂き、700度を超えると言われている備長炭であぶられても生き残っている卵だ。生半可なことで孵化を完全に止める事など不可能であった。

唯一冷凍すると多少は孵化の可能性が下がるということが判明し、市場には冷凍ウナギのみを流通させることで一応の対策とした。



 しかし、一億総グルメ時代の現代において冷凍ウナギを食べる選択を守り続けることは本当にできるのだろうか。いつの日かこの恐怖を忘れて生のウナギを食べたいと言い出す者が現れる可能性は0ではない。いや、それだけじゃない。今度は冷凍に耐えるような進化を遂げたウナギが現れることだってある。

 土用の丑の日がある限りウナギと人類はこれからも戦い続けるのだ。




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