* 愛 逢 傘 *
俺は彼女のことが好きだ。
でも、この想いを告げることができない。
今の関係を崩してしまうことが、怖くてしょうがないから。
だから、彼女の心に一歩、近づくことができないでいた。
* 愛 逢 傘 *
俺の名前は『宮島 修』
あまり目立たない、影が薄いとよく言われるこの学校の生徒。
そんな俺には、好きな人がいた。
「おっはよー!修!」
「よっ」
元気で明るい声で俺の名前を呼んでいるのは『城下 由梨』。
いつでもどんな時でも、元気ハツラツな女の子。
彼女は、素直で真っ直ぐな心を持っている。
俺とは違うその部分に惹かれたんだと、俺は思っている。
はっきりしない事は、俺の中にたくさんあった。
でも、これだけは確かだ。
“〜 俺は『由梨』のことが好きだ 〜”
この気持ちだけは変えられない。
それなのに、俺は素直になることができない。
彼女とは“真反対”の存在だった。
だから、彼女からはきっと、いつまでもずっと“友達”のままなのだろう。
―――俺は怖かった。
授業を終えて、放課後。
俺は、彼女に告白しようとした。
でも・・・。
「なぁ、由梨・・・」
「ん?どうしたの?」
「あ、あのさ・・・その・・・何ていうか・・・」
「だから、どうしたの?」
その後、結局俺は「何でもない」と言い逃れ、思いを告げれなかった。
どうして俺は素直になれないんだろう・・・。
俺はこの日、もう無理だと悟った。
次の日。
少し遅刻しそうになったが、それよりも精神的に疲れていた。
・・・はぁ・・・もういいか・・・。
そんなふて腐れた気持ちと一緒に、学校に登校した。
学校で由梨に会うと、昨日のことを尋ねられた。
もちろん・・・。
「本当に何でもねぇよ」
と、言っただけだった。
正直になれるチャンスはもう来ない。
そう思っていた。
授業が終わり、放課後のことだった。
雨が降ってきた。
傘を持ってくるのを忘れて、正直こまった。
昇降口で雨がやむのを待っていたときだった。
由梨がやってきた。
「あ、修!!どうしたの?」
「傘忘れた」
何の前置きもなく唐突にそう言うと、由梨は突然笑い出した。
「何がおかしいんだよ?」
「ううん、何でもないよ」
そう言うと、由梨は俺に傘を渡した。
「私の傘使っていいよ」
「いいよ。お前が使えよ」
俺がそう言って彼女に傘を返すと、むすっとした。
「むぅ〜・・・じゃあ、どうする?」
「だから、お前がそれ使って帰ればいいじゃん」
まただ・・・。
俺は由梨の気遣いが嬉しいはずなのに、心にも無いことを言ってしまう。
だから、俺は素直になれないんだ。
そう思ったとき、由梨からとんでもない言葉が飛び出た。
「そうだ!!一緒に帰ろう!!それが一番いいよ!!うん、私って天才!!」
「・・・は?」
由梨に聞き返すと、顔を赤くして目を逸らした。
どうしたのだろうか・・・?
「だ、だから・・・“相合傘”ってこと、だよ・・・」
「え!?いや、でも、そんなの、こっ恥ずかしいじゃんかよ」
すると、由梨はさらにむすっとした。
「いいじゃん。一緒に帰ろう、ね?」
「・・・・」
俺はその時、わかってしまったような気がする。
・・・もしかしたら、由梨も友達の境界線を超えようとしてるのかもしれない・・・。
・・・素直な由梨も、俺みたいに素直になれない部分があるのかもしれない・・・。
・・・俺が素直になれば、由梨のこともわかってあげられるかもしれない・・・。
俺は頭を掻きながら、返事を返した。
「・・・わりぃな。入れてってくれ」
「・・・うん・・いいよ・・・」
ある雨の日、修は少し素直になれた。