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7歳、魔王に三行半を叩き付ける訳で その2

『ヴォルフが軍法会議に掛けられる』

その知らせを聞いたのは作戦が失敗した3日後の事だ。

まだ傷も癒えきらない状態のヴォルフを引っ張り出すとは・・・

勿論ヴォルフ隊は烈火の如く怒った。

「っざけんな!!」

「抗議に行くしかねぇ!」

「止めとけ、隊長の立場を悪くするだけだ」

ピシャリと皆を諌めるのは部隊で一番の古株、隊長と同じ【ウォーウルフ】のガルム。

【潜在能力】は2と少ないが、豊富な戦闘経験で能力以上の力を発揮させ、隊の皆から慕われていた。

「しかし・・・敗走の責任ならまだしも、武器を壊した事まで罪に問われるってのは・・・」

一番若い兵士が呟く。そりゃそうだろう。武器を壊したら罪。なんて言ったら怖くて誰も使えない。

だが、今回は使った武器が悪かった。

『魔槍・リンカーイーター』魔鉱石をふんだんに使った『ラグルード・ヴァルヴォリオル』製の武器・・・

と言えば大体察しが付くかと思う。

「・・・・対面の問題だろう。自身の作り出した魔鉱石製の武器が大破したとなっちゃぁな」



魔鉱石はそれ単体では[鉄より多少硬い]程度なのだが、『ある事』をすると劇的に性能が変わる性質を持っていた。

『加護』と言われているソレは、魔鉱石製の武器や防具の仕上げに欠かせない儀式だ。

まぁ魔力を注ぐだけなんだけどね。一度に、大量に魔力を注げば注ぐほど性能は良くなって行く。

魔鉱石で性能の良い武器を作ることはそのまま力の教示になる。力を誇示する事にご熱心なラグルードにはぴったりだろう。

だが、今回その武器が壊れたのだ、大々的に。ラグルードの面子が潰れたってな具合さ。

・・・今回に関しては相手が悪過ぎた。流石に加護をした魔鉱石製とは言え壊れない訳では無い。

ましてや勇者や転移者を相手にしたのでは・・・しかし、俺の中で疑問が残る。

(転移者相手にするには確かに力不足だとは思う・・・しかし大破するなんて事があるだろうか?)

腐っても『ラグルード・ヴァルヴォリオル』が加護をしたのだ。それこそ並みのアーティファクトより強いハズなのだが・・・



俺は皆の居る部屋をそっと後にし、一人である場所へ向かう。

【武器保管庫】、そこそこ頑丈そうな扉の前には憲兵が一人。まぁ何とかなるか。

「あのぅ」

おずおずと近付く。

「ん?あぁこれはお嬢様。如何なされました?」

「少し、この中を見てみたいのですが・・・」

「ん~む、申し訳無いのですが、それはちょっと・・・御勘弁願えませんかね?」

まぁそうだわな・・・と、俺の『索敵』に反応が出た。背後の角で気配を殺している。

隠れてるのはメイドの諜報員だろう。此方を監視してる様だ。

(・・・まぁ普通気が付かれるなんざ思わないだろうなぁ・・・)

だが俺は気にせず交渉を続ける。

「そう・・・如何してもダメかしら?」

「えぇ、如何しても駄目です」

憲兵が苦笑いをする。

此処で俺は『感情刺激』を使い、

「ほんの少しの時間で良いの・・・お願い出来ないかしら・・・」

科を作りつつ上目使いをし、憲兵に擦り寄った。

一気に昂揚し顔が赤くなる憲兵。そして、

「・・・ゥおっほん、・・・仕方が無いですね・・・少しだけですよ?」

・・・・女の武器すげぇ。『感情刺激』も便利だわ。



いそいそと中に入ると直にヴォルフの使っていた武器、『魔槍・リンカーイーター』を探し始める。

「在った」

それは結構直に見つかった。鍵が掛かったボックスの中に保管されている様だった。

(本体見る為には鍵が必要か・・・当たり前だけど)

鍵は流石に扉の前の憲兵でも持っては居ないだろう。

「ま、何とでもなるんだけどね」

そう呟きつつ予め用意して置いた粘土を取り出すと、鍵穴に突っ込む。

鍵穴に隙間無く粘土を詰め終わったら、取り出す為の棒を差し込み・・・

「『形成』・・・『結合』」

錬金術で粘土の分子を硬質化させた。

(後は回すだけ~っと)

「カチャリ」、軽い金属音とともに鍵が開く。俺は蓋をずらすと中を覗いた。

其処彼処に切り傷や欠けがあり、装飾も何もかもがボロボロ。

・・・一体どんな戦いをしたらこんなになるんだろうか・・・と、思える程の状態だ。

「さて・・・本題」

先ずは再度『索敵』を発動させる。時間経過で効果が切れたためだ。メイドの諜報員は扉の前まで移動しており、此方の様子を伺っている。

相変わらず監視は続いていた。憲兵は・・・哀れ、立ったまま眠らされた様だ。

次は『魔力偽装』で魔力の上昇を悟られない様にしつつ、

「魔眼発動」

魔眼を発動させる。

左目に魔力が凝縮し、眼色が赤から緑へと変色、虹彩に魔方陣が浮かび上がって行く。

『アナライズ』

===============

『魔槍・リンカーイーター』

状態 大破 

構成割合 魔鉱石78% 鉄11% 金7% クロム4%

===============


此処まではまぁ如何でも良い、問題はこの先である。


===============

加護 無し (補足・過去に魔力付属の形跡在り、魔力偽装の形跡在り)

===============


・・・どうやら俺の予想通りらしい。

ラグルードは『加護』が徐々に消える様細工をしてヴォルフにコイツを持たせた。

しかも、表面上では魔力が減ってない様に見せかける2重の細工をして、だ。

何故そんな事をするのか・・・多分罪をでっち上げる為だ。ヴォルフが『加護』を信じ、全力で使い続ければ小破程度はしたであろう。

(と考えると、今回の転移者はラグルードにして見ればイレギュラーと言った所か)

だがソレが功を奏し、武器は意図せず大破。絶好の材料を得た訳だ。

では、何故ヴォルフを嵌めなければ成らなかったのか・・・と言う疑問が湧く。が、コレは直に予想が付いた。

(監視の強化、会議のタイミングに、ヴォルフの交友関係。・・・つまり狙いは俺だろう、回りクドイやり方だ。)

そんな事を思いつつ魔眼を解除し、鑑定を終えた魔槍をボックスに戻す。

となると、次の状況は容易に予想が付き、その予想は現実となった。


「ヴォルフを極刑とする」


3日後、軍法会議の体をした茶番が終わる。

勿論ヴォルフ隊の怒りは頂点に達し、クーデターすら厭わない状況まで来ていた。

「刑の執行は3日後の早朝・・・」

其処まで聞いて俺は傍聴室の席を立ち出口へ向かう。

必要な情報は得た、これ以上此処に留まるのは時間の無駄だ。

成る程、俺に『さっさと正体を見せろ!じゃないとヴォルフは死ぬぞ?』ってか?良いだろう。

「・・・後悔為さらない様にねクソ野郎共・・・」

去り際の呟きは誰に聞こえるでもなく静かに虚空へ沈む。

決行は明後日に決定だ。

少し加筆&修正

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