4歳の日常は多忙な訳で その3
基本、ここの食事は不味い。
『魔族の食事が』では無く此処の食事は不味いのだ。
人間だった頃の味の記憶は今もって俺を縛り続ける・・・
「まぁ、栄養さえ取れりゃ良いって考えなんだろな・・・」
つい声に出してしまう。
目の前には何かの練り物とスープ状の何かが置かれている。
最早慣れた。口に運ぶ。・・・ウン、味しねーし。
仕方が無くスープ状の何かで流し込む。・・・こっちも殆ど味しねーし。
・・・不毛な食事が終わると俺はささっとベットに潜る。時間的には19時前後だろう。
(前世じゃこんな時間に寝る事なんて滅多に無かったなぁ)
そのまま目を閉じた。
ん?時間が惜しいんじゃなかったのかって?ふっふっふっ。これには理由が在るのだ。
・・・目が覚める、時計を見ると大体25時前だ。俺の1日のシメは此処からである。
ベットから降りると直に動き易い服装に着替える。その後直にハーミットの
『感知魔法無効化』を発動させた。これで監視水晶に引っ掛からなくなる。
『隠密』のスキルも発動させると廊下へ出た。夜中とは言え基地の中。巡回は結構頻繁に行われている。
細心の注意を払い目的の部屋の前に到着すると、直に中へと入った。
明かりは付けない。ばれる可能性があるし、暗い方が集中も出来たからだ。暫くすると目が闇に慣れてきた。
荷物も家具もほぼ無い、がらんとした部屋。
広くは無いが、それでも子供が動き回るには十分だった。要するに『秘密の特訓場』である。
「そんじゃ、やりますかね」
軽いストレッチをしつつ呟く。
何時もは『念動力』の特訓なのだが、今日は『魔力操作』を覚え、特訓する。
と言っても別段難しい事をする訳では無い。『魔力操作』を覚え、魔力で物を浮遊させ続けるだけ。
何故『魔力操作』を覚えようと思ったのかと言うと、今日書庫で読んだ本の中に興味深い物が有ったからだ。
「魔力操作と放出魔力、それに伴うマナとの関係」と言う論文なのだが、まぁ簡潔に言えば、
「魔力のコントロールが巧いと魔力の偽装が出来る」と言う内容だった。
『体から放出される魔力をコントロールして、大気中のマナと自身の放出魔力を同じ濃度に保つ』
と言う事なのだが、これが簡単そうで中々難しい様だ。
『魔力操作』を『スキルセレクト』でささっと修得すると、早速特訓開始である。
大小様々な物を出来るだけ浮かべて、(4つ浮かんだ)浮かべ続ける事1時間。流石に魔力が尽きて来る。
(しっかし、1時間浮かせてるだけで訓練になるんかね?)
と、不安になる。なにせ先生も居なけりゃ師匠も居ない。完全な本からの受け売り&独学なのだ。
余談だが、世界で1番魔力のコントロールが巧かった人物は『2つの物を38分浮かせ続けられた』との事。
・・・明らかに最初からやり過ぎて居た事を知ったのは大分後の事だった。
その所為で
===========
スキル 魔力操作・34
===========
行き成りのジャンプアップ。しかもやり過ぎとは露知らずに、これをこの後、毎日続けて行くのだ。
暫くの休憩後、『身体能力強化』の熟練度を上げ終え、今日の本題へと移行。
『戦闘技能』の修得である。この半年程ヴォルフを見続け、自分に何が合っているのかをしっかりと吟味する。
(やっぱ、護身が良いよな・・・)
ヴォルフの動きや前世で見た軍隊格闘を思い出す。
「おし、決めた!」
『軍隊格闘術』を『スキルセレクト』で修得すると何故か違和感が襲う。
(何だ?)
と、ステータスを見る
============
スキル 軍隊格闘・47
============
いきなりの一流レベル・・・多分前世の記憶と見取り稽古が相まってこうなったのだろう。
(って事は、前世の記憶を関連付け出来れば・・・)
この発見は後に重要となった。
その後、付属スキルも修得し
============
魔力操作⇒複合詠唱(複数の魔法を同時に展開)
軍隊格闘⇒ナイフ技術・ディスアーム
============
となる。
うん、順調に強く成って来てる・・・が、まだまだ油断は禁物である。
その後は何処かの壊し屋の少年の如く、ヴォルフを想定したシャドーをし続け、夜が明ける前に部屋へと戻る。
そんな生活を日々繰り返し、春が、夏が、秋冬が、1年が・・・と過ぎて行く。
世情は相変わらず忙しい。戦況は一進一退が続き、各国共、徐々に手詰まり感が漂い始める。
そんな3年目の春も終わりを迎えようとしていた頃、ソレは起きた。
「ウォォォォァァ!!!」
ヴォルフの渾身の斬撃が走る!
ドガァァァァン!!!
それは地面を派手に砕いた。だがヴォルフの顔は険しい。本命に当って居ないからだ。
(ちぃっ!捉えたと思ったが、早い!)
直に体勢を整え、ハルバートを構え直す。眼前には涼しい顔をした人族の女・・・
年齢はよく判らないが、身長から察するに16~7才位であろう。
髪はショート、少しクセ毛が有る。
見た事も無い服を纏い、見た事の無い、刃が片方にしか付いていない剣の様な武器を持って居た。
「以外だねー、こんなに強い魔物が居るなんて」
「女」
「ん?何かな?」
「俺は魔物では無い」
「プッ、あ~、そこ気になっちゃうんだ」
その態度からかなりの余裕を感じ取り、ヴォルフの背中に汗が吹き出る。
(冷や汗とは・・・何時ぶりだろうか。・・・・・だが部下の退避する時間は稼げたハズだ)
「あれ?もしかして・・・逃げるの?」
何かを感じ取り、女が言う。
「・・・フッ、どうかな?」
ハルバートを握る拳に力が入る。『魔槍・リンカーイーター』・・・ラグルード様が俺の功績を称え、
ラグルード様から直々に頂いた、魔鉱石がふんだんに使われている俺専用の武器。
だが豪華な装飾も今は見る影も無い。
其処彼処に刃毀れが在り、石突にもヒビが入っていた。
(馬鹿げて居る!何なのだこの強さは!!)
ヴォルフは性格上、どんな相手で在ろうと侮ったりする事は無い。
だがコレは・・・・この女は最早別次元だ。
理など無視をしたかの様な斬撃は、一振りで森を切り裂き、大地を抉った。
まるで筋力など無いかの様なか細い足の踏み込みは、雷の様に素早い。
全てが歪、歪だった。
「・・・女、何故人の身で在りながら亜人に就く?」
最初から抱いて居た疑問を投げ掛ける。
「え?何故って・・・そりゃ、此処の人達に呼ばれたからかな」
「・・・何!?」
「勇者らしいよ、私」
『亜人領にてヴォルフ隊敗走』
その一報は魔族領に激震を走らせる。
・・・・・パワーバランスの崩壊は意外な所・・・亜人領から始まったのである。