4歳の日常は多忙な訳で その2
ヴァルヴォリオル領に在る駐屯地、その中に在るおおよそ基地には似合わない豪勢な施設。
何でも何かの実験施設らしい。
(まぁ俺にゃ関係無いが)
そんな風に思っていたよ。あの時までは。
だが、運命ってのは無茶苦茶なモノらしい。まさか此処に関わった所為でトンでもなく・・・
・・・トンでもなく面白い事に巻き込まれる事になるとは。
そう、あの日もその豪勢な施設の中の訓練場で、俺はウォームアップを始めようとしていたんだ・・・
時刻は日本時間で15時に成ろうとしている頃、狼の顔をした魔族、
【ウォーウルフ】と呼ばれる種族の青年は落ち着かなかった。
何時もの、小さな客人がまだ来て居ないからだ。
彼がその客人と初めて会ったのは、半年程前の訓練前であった。
ヒュヒュヒュヒュッ!!!
何時もの如くハルバートを振りウォームアップをする。
彼の名前は『ヴォルフ・ウォーケル』魔族としては若い40台の青年である。
【潜在能力】は4つ。
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【潜在能力】1/4
明鏡止水 効果・精神異常状態耐性 戦闘スキル補正+30%
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【潜在能力】2/4
コンセントレーション 効果・命中力・回避力+20% 各種スキル成長率+10%
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【潜在能力】3/4
不屈 効果・ダメージによる運動能力及び思考能力低下を無効化
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【潜在能力】4/4
バルクアップ++ 効果・HP及び筋力の上昇率+40%上昇
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正に戦士としてエリートと言われるに相応しい強さであった。
(ん?)
ふと何処からか視線を感じるが、敵意は無さそうなので無視をする。
ヒュン、ブン!ババッ!!ヒュンヒュン!!
(じ~~~~~)
(・・・・・・・・・・・)
ブンブン!!バッ!!ヒュバッ!ブン!
(じ~~~~~~~~~~~~~)
(・・・・・・・・・・・・・・・・)
(じ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~)
(流石にもう無理だ!)
ヴォルフは視線の主を探す。当りを見渡すと自分の正面の壁際にチョコンと座った子供が居た。
(何時の間に!?自分が最初に入って来た時には誰も居なかったハズだ・・・このお嬢さんは何処から・・・?)
と考えたが、『集中し過ぎて気が付かなかったんだろう』と言う結論に直に至る。
髪はセミロングで、如何にもな服を着ていた。どこぞのお嬢様なんだろうか?外見は人間にかなり近かった為
一瞬人族かと惑ったが、この子から発せられている魔力を感じ取り、同族だと判る。
「お嬢ちゃん、何してるんだい」
声を掛けてみたは良いものの。
(あぁ・・・苦手だなこう言うの・・・如何接すりゃ良いのか判らん)
と、少し後悔する。
「見てるの」
少女から簡潔な答えが帰って来た。
「え~っと・・・・何をかな?」
「貴方を見てる」
「そ、そうか」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
(い、イカン。間が持たん)
「・・・もっと見せて」
「ん?」
「武器使ってる所、もっと見せて」
ヴォルフは困惑する。年頃の、しかも異性の考えてる事なんざま~~~~ったく判らないが、
年端も行かない少女が「武器使ってる所見せて」と言うのは、流石におかしいと思えた。
「もっと面白そうな事一杯在るんじゃないか?」
その問いに少女は首を横に振る。
「・・・・判った」
ヴォルフもそれ以上は聞かず、ウォームアップを再開する。
(何とも・・・不思議な娘だ)
その日から毎日来る様になり、何時の間にか少女は部下達とも顔見知りになった。
部下達は何時の頃からかその少女を『お嬢』と呼ぶ様になり、何時の間にかヴォルフもそう呼ぶ様になっていった。
そして現在に至る。
「まだ来ないみたいっすね~」
「何か有ったんじゃ・・・」
「オイオイ!下手な事言うんじゃねーーぞ!」
お嬢は何だかんだでウチの部隊のマスコットと化していた。
「お前ら・・・良いから訓練始めるぞ!」
ヴォルフが声を張り、号令を掛けた・・・が、
「・・・・隊長、それ今日何度目ッスか?」
「さっきも始めるっつって始まってね~ぞ・・・ククク」
今日3度目の号令に笑いを隠せない部下達。
「ぐっ!」
何だかんだで一番気になって居るのが自分だとバレてしまったその時、
『トトトトト』
ヴォルフの耳が足音を捉える。何時もの足音だ。部下達にも聞えた様で、一斉に胸を撫で下ろす。
これでやっと訓練が始められそうだ。
ヴォルフの部隊の訓練は実戦形式だ。スリーないしフォーマンセルで隊を組み、模擬戦を行う。組む相手は日毎変え、部隊全体の連携を高めている。
(やっぱ良い動きするな~)
壁際に座り、ヴォルフの動きを注視する。もちろん『カメラアイ』を使って。
一挙手一投足までに気を配り記憶して行く。俗に言う見取り稽古ってヤツだ。
「お嬢、何か観て見たい武器在るかい?」
ヴォルフが声を掛けて来る。俺は迷わず。
「近接格闘を観て見たいんですけれど・・・」
「近接か・・・玄人好みだな、お嬢は」
ヴォルフは基本ハルバートを使うが、格闘にも力を入れており、相当な技量を持っていた。
流石は若くして隊長に成っただけの事は有る。
壁に掛けてある訓練用のナイフを手に取り、構える。
「誰でも良い。来い!」
その掛け声と同時に3人が挑み掛かる。
左からの斬撃をステップで避ける。それを読んで居た別の部下がソードで右上からの袈裟切り。
良い連携だったが、ヴォルフは避けずに踏み込み、左肘を振り下ろす腕の内側に入れブロック。
そのまま右腕を斜め下に大きく振り下ろし、右足の脹脛を払った。
「グァッ!」
足を払われた部下はブロックされた左肘も相まって完全にバランスを崩す。
ヴォルフは流れる様に払った右足の膝裏に右腕を入れ、左手で相手の左脇下をガッチリと掴む。そして、
「ウォァァ!」
ズダァァァァァン!!!
一気に担ぎサイドへ叩き付けるテイクダウン。その背中に攻撃を入れようと踏み込む3人目、しかし攻撃は空を切る。
テイクダウンした相手をクッションにし、ヴォルフが前転をしたからだ。そのまま2回程転がると直に立ち上がり相手を見据える。
見事な動きであった。
(やっぱり、突き詰めると似て来るもんなんだなぁ・・・)
俺は記憶の中に在った地球の軍隊格闘を思い出していた。何故そんな記憶がって?
・・・・男として産まれたからにゃ強く成りたくなるじゃん!
・・・・・・
・・・・・・・・・・
スンマセン、DVDとか本買って見てただけです。システマとかクラウマガとか憧れるじゃん・・・・・・
えぇ挫折しましたとも。
しかしその知識を活かせる日が来るとは・・・人生、何が功を奏するか判らないものである。
充実した時間はあっと言う間に過ぎ・・・
「では、今日の訓練は此処までとする。各自、体のケアを怠るなよ!では解散!」
バッ!っと一斉に敬礼を交わし今日の訓練が終了した。
「お嬢、またな~」
「ちゃんと寝ろよ?」
「風邪ひくなよ~」
俺に各々が声を掛け訓練場を後にして行く。
「では私もそろそろ行くわね」
「あぁ、又なお嬢」
そう言いながら、訓練場の最終チェックを終えたヴォルフが明かりを消した。
俺はそれをこっそり見届けると、次の行動に移る。
お嬢の1日はまだまだ終わらないので有った。