4歳の日常は多忙な訳で その1
そんなこんなで今に至る。
一応今は屋敷内を自由に移動出来るが、軟禁状態で在る事には変わり無い。
しかもそこかしこに監視用の感知魔法が掛かった水晶が有り、うっとおしい。
とは言え何もしなくとも時間は過ぎる。そして此方にはゆっくりとして居る時間は無い。
俺は、産まれたばかりの時の事を思い出す。
「何!?能力不明だと!?ふざけて居るのか!!!!」
怒号が聞え、周りの魔人達の動きが一瞬止まる。
俺はベットの中で、満足に動かない手足をバタバタとさせながらその会話に耳を傾ける。
どうやら産まれたばかりの俺の『ステータスチェック』に失敗したらしい。
「申し訳御座いませんラグルード様。しかし相当な能力を持っている可能性が在る様で、
精神障壁も恐ろしく強固な物を・・・」
「下らん言い訳をしに此処へ来たのか?貴様は?」
「ヒッ・・!」
何か言い掛けた瞬間『ドシュッ!!』と、鈍い音。その後声は聞えなくなる。
(あ~暴君タイプか~なんでこれで統治出来てるのかね)
『ラグルード・ヴァルヴォリオル』魔王にして魔族領の統治者。俺の父親でも在る。
相当の強さを持っていると言う事は、傍に居る赤ん坊の俺でも感じ取れる程、体からにじみ出ている魔力で判った。
(しかし・・・神様何も言わなかったけど、ハーミットって相当上位の能力だったんじゃ・・・)
何て思ってると、相当デカイ『如何にも魔族!』って感じの厳つい顔が此方を覗き込んで来た。
(デケェーーー!アニメとかで身長4~5m、体重数百Kとか設定されてたりする奴居るけど・・・リアルだと威圧感が半端無いわ)
そんな事を考える。その魔人は右手を掲げ、魔力を込めて『ステータスチェック』そう呟く。
するとその魔人の顔付近に映像らしき物が浮かび上がった。
「・・・・フンッ!生意気な・・・この我にすら破れんか・・・・・・しかも顔立ちも姿もまるで猿共と同じ・・・」
猿・・・まぁ人間やエルフの外観の事だろう。
(魔族の間では、外見が人間に近い程ヒエラルキーが低いのか?)
などと考えていると。
「命拾いしたな・・・ステータスが判っておればこんなゴミ、直にでも廃棄しておったわ」
そう言って踵を返し去って行く。どうやらこの魔人が「ラグルード」だったようだ。
・・・命拾いをしたらしい。まったく・・・心臓に悪い。しかも、逆にステータスが判っていたら100%実験材料か洗脳だろう。
姿、顔立ちが人間やハーフエルフ寄りだったのも功を奏したようだった。
(母親に感謝しなきゃな)
母親・・・ハーフエルフって事しか分かっていない。
(神様からもう少し詳しく教えておいて貰った方が良かったかなぁ・・)
と、今更思う。母親の話が一切出てこないからだ。
そこから3歳までは我慢の日々。不自由な体で出来るのはひたすら念動力を使い魔力を鍛える事と、会話を覚え記憶する事。
そして何も知らない赤ん坊として演技する事だった。
その間も『ステータスチェック』は行われ、悉く失敗をしていた。最近では障壁を破る為の専門チームまで組織され、研究が行われる程らしい。
(よくもまぁ其処まで拘る事)
と、思ったがそれは此方の生命線にも関わる事なので、うかうかはしていられない。
そんな事を思い出しながらふと、自身のステータスをチェックする。
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スキル
記憶・74 念動力・53 演技・71 錬金術・21
身体能力強化・20 隠密・23
付属スキル
記憶⇒サーチ・記憶領域拡張・カメラアイ
念動力⇒ベクトルコントロール・ベクトルブースト
演技⇒ポーカーフェイス・感情抑制・胆力
錬金術⇒形成
身体能力⇒持久力
隠密⇒足音減少
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頭3つのスキルは転生する前に神様から優遇して貰った物である。
「記憶スキルが欲しい」って言った時は「その手が有ったかー!やっぱり発想が違うな~」と感心された。
『記憶』は『知識』に直結する上、『知識』では忘れてしまう事も『記憶』なら忘れない、
仮に忘れても付属スキルのサーチを使えば直に思い出せる。しかもサーチには嬉しい誤算が有った。
『1度触れたモノ(見たり聞いたりした物事や事柄)なら思い出す事が出来る』のだ。
これが前世の記憶にも適応され、前世の知識も大量に手に入れる事が出来た。
(・・・以外に幅広く触れてたもんだなぁ)
前世の記憶の中には、自分でも知らなかった知識まで有った。多分何気なく付けていたTVなどから得ていたんだろう。
とは言え、流石にTV等でも放送しない、触れた事の全く無い知識は思い出せない。当たり前だが。
『演技』に関しては、幼少期を生き抜く上では必須のスキルである。
子供とは思えない不自然さは、何処かで必ず無意識に出る。それが致命傷になる事も十分考えられた為、入手した訳だ。
実際ポーカーフェイスや感情抑制で何度助けられた事か。
(演技や他人に成り済まして生きてる奴って・・・大変なんだなぁ)
と、素直に感心してしまう。
『念動力』は覚える人が殆ど居ない、所謂『ゴミスキル』と言われているヤツだ。どこら辺がゴミかと言いうと、
『物を動かす事しか出来ない所』らしい。此方の住人からすれば、
「石を念動力で動かす位なら拾って動かした方が良い」
って考えが一般的なんだとか。要するに『魔力使ってまでやる事か?』って思想が浸透している。
魔法が普通に存在しているが故の考え方なんだろう。便利なのに。
まぁコレを取ったのは他にも考えが有っての事だが、それは追々である。
「お嬢様~」
そう叫びながらメイドがパタパタと此方に近付いて来た。
「どうしたの?」
「いえ、そろそろ授業のお時間で御座います」
「あら、もうそんな時間でしたか」
俺はメイドの後に続き、廊下を歩き始める。
(授業・・・ねぇ)
最近始まったこの『授業』、俺にしてみりゃ全く必要の無い事この上無い。
授業を受ける部屋に到着すると、メイドと別れ部屋に入る。
中には年老いた(見た目では全く判らない)爬虫類型の魔人が既に準備をして待っていた。
因みに、年齢に関しては漂う魔力で判断出来るらしい。最近知った。
「お早う御座います」
「お早う御座います。先生」
お互いに挨拶を交わす。
「では早速・・・」
此処からは2時間程度の拷問タイムの始まり。
「・・・と言う視点から我々魔族は優れており・・・」
授業の名を借りた思想教育が延々と繰り返されるのである・・・
最速飽きた俺は早々に聞いている『演技』をし、念動力と錬金術を鍛える。
先生の死角で物を動かしたり、物を作り出しては壊す作業をし続ける。
そのお蔭で、隠密のスキルまでオマケで育った。
「では、今日は此処までとしましょう」
「有難う御座いました」
席を立ち一礼。ここら辺は日本と共通だ。
授業と言う名の洗脳儀式が終わると、俺は書庫へと急ぐ。
「お嬢様、今日も書庫へ行かれるのですか?」
別のメイドが声を掛けて来る。
「えぇ、色々読むのが面白くて」
「では、暫くしたらお声を掛けますので・・・」
「お願いするわ」
そう言って書庫へと入る。ズラリと並ぶ本、本、本。
各種の呪術、魔法書何でも御座れだ。惜しむべきは著書が魔族に偏っている所位だ。
人や亜人の書いた本も見たい所だが、多分そこら辺の書籍は別に管理されているのだろう。
「さて、今日は此処からかな」
目印として挟んでおいた紙を抜き、その脇の本を手に取る。
其処からは作業だ。付属スキルの『カメラアイ』を発動させ、ページを捲りそのページに一瞬集中する、又ページを捲り一瞬集中・・・を繰り返す。
『カメラアイ』とは「瞬間記憶」の事だ。これを使えば「読む」では無く「見る」で済む。今は知識を蓄積させる事が重要で応用は度外視である。
時間が許す限り、詰め込めるだけ詰め込んで行く・・・
「お嬢様、時間です」
メイドが声を掛けた来た。
「あら、もうそんな時間なの?」
「彼是3時間で御座います」
あぁマズイ、時間オーバーだ。
「そう、有難う」
俺は会釈も早々に、次の目的地へと急いだ。
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