今日と明日との狭間でな訳で
「・・・・・はぁ」
時間は深夜。メインベースの一室、所謂フリースペースでシオンは椅子に座って居た。
魔導具と魔石の組み合わせで、光源が有る程度確保されているのは有り難い事だろう。
日本に居た頃では考えられない程の静けさの中、今日何度目かの溜め息を再び吐く。
(・・・結局受け取れなかったなぁ)
椅子にもたれ掛りながら思い出すのは今日の昼の出来事だ・・・
「自らの『意思』で『人』を、『生命』を奪う覚悟が」
イシスに言われた言葉が再びフィードバックした。
(・・・正直・・・考えて無かった。ってか考えようとしなかった)
あの言葉を受け、シオンは銃を受け取るのを躊躇った。
勿論、豪もそうだ。
「武器を振るうと言う事はね?常に相手の『命』を奪う可能性を持つと言う事よ?」
答えは出なかった。いや、武器を受け取れなかった時点で既に出ていたんだと思える。
「・・・取り合えず、武器の譲渡は保留にして置くわね?」
武器を持ち去って行くその背中を、私達は見送る事しか出来なかった。
「・・・シオンも居たのか・・」
ぼ~っと窓の外を眺めていると、豪が声を掛けて来る。
「・・・ま~ねぇ~・・」
「眠れる訳ねぇよなぁ・・・」
豪はシオンの対面に座ると、机へ頬杖を付く。
「・・あの時なぁ・・・確かに何も感じなかったんだわ」
「ん?」
「ほら、エルフの森で逃げてた時だよ」
「ああ・・・そう言えば、私もそん時やらかしたんでしょ?」
「まぁな。その光景を見ても・・・『嫌悪感』も何も感じなかった・・・今思えばゾッとしねぇよ」
あの火達磨塗れの光景を思い出し、ブルリと震える豪。
「・・・豪はさ、あの術式(精神汚染)だっけ?あのままの方が良かったって思う?」
「思わねぇよ。これだけは絶対だ」
「だよねぇ・・・だから悩んでんだよねぇ」
「・・・・あぁ。全くだ」
お互いに合わせた訳でも無い溜め息が同時に漏れた。
その後、特に言葉を交わすでもなく時間ばかりが過ぎる。
と、不意に足音が近付いて来た。
2人が音のする方へと目線を移すと、ソコにはポットとカップを人数分持った狼男・・ヴォルフが居た。
「随分と悩んでいるようだな?」
「「・・・・・・」」
「ん?どうした?」
ヴォルフの姿を見て唖然とする2人に、ヴォルフは不思議そうに問う。
だがそれは仕方が無い事だ。
つい先程まで所謂『人型』の人物しか見て来なかった訳だし、幾ら『魔族』が居ると知っていようとその姿までは見たことが無かった。
と言う事で、2人が固まるのは当り前なのだが・・・等のヴォルフには自覚が無い。
「・・・あ、えっとゴメン。ちょっと思考が追っつかなかった」
「ん?・・・・あ、ああそうか!成る程。俺の姿が珍しかったか。いやスマン、配慮が足りなかったな。俺は『ヴォルフ』始めまして・・だな」
「え、あ、いや、ヴォルフさんは悪く無いですって。自分は『豪』です。始めまして」
「シオンだよ。ヨロ」
「座って良いか?」
「あ、どうぞ」
豪が開いてる席へ手を伸べ、促される様にヴォルフが座った。
「酒でも良かったんだがなぁ・・・何分待機中でな」
「あ、いえ、俺達、酒まだ飲めないんで」
「・・・・・・本当か?」
「マジだよ?マジマジ。私等の世界じゃ20歳まで禁酒~」
「な!?なん・・・だと!?」
「・・・・プッ」「・・・ククッ」
ヴォルフの顔が驚愕に震え、それを見た2人が思わず吹き出す。
「ハァ・・・何ともなぁ。これが世界観の違いか」
そう言いながらヴォルフは器用にお茶を2人分用意し終え、2人に差し出した。
「・・・ヴォルフさんは何で此処に?」
お茶を一啜りした豪が言う。
「そりゃな、お前さん達のフォローさ。・・・まぁお嬢に頼まれたんだがね」
「それ言っちゃ台無しじゃん」
呆れた様にシオンが突っ込む。
「ハッハッハ。で、だ。何を悩んでいる?」
見た目とは裏腹に、ヴォルフは何とも穏やかな声を2人へ向けた。
「・・・・ヴォルフさんは・・・・始めて人を殺した時の事・・覚えてますか?」
豪の言葉を聞いたヴォルフは一瞬ピクリとし、直に何かを悟るとゆっくりと口を開き始める。
「5歳位だった気がするなぁ・・・あん時は、仲間の1人が大人にボコボコにされてた」
ヴォルフの語らいに、2人は聞き入る。
「俺は無我夢中でそこらに転がってた石を握って、その大人の頭へ叩き付けたよ。ソイツは怯んで、こっちを見た。何とも言い難い目をしてたな」
「・・・んで・・・どうしたの?」
「そのまま殴り続けた。勢いに任せてな。気が付きゃ俺の握ってた石はボロボロに欠け、序に相手の頭も訳が判らない状況になっていたよ」
シン・・・と静寂が漂った。ヴォルフは何も言わずカップを仰ぐと、2人の方へ向き直す。
「・・予め言って置くが、別に俺達は君らに殺しをを強要する心算は無いぞ?」
「「え?」」
「昼間の話だろ?悩んでいるのは?」
「・・・はい・・・此処へ来る前、俺は『力』を使いました。けどそれは『精神汚染』が有ったからで・・・」
「・・・・・私もさ、ブチ切れしてとんでもない事してたって聞いた・・・・・今度もそうなったら・・」
「知らん!」
「「ええぇ!?」」
ヴォルフのアッサリとした返しに、2人は驚愕した。
「まぁ言葉が足りないよな。要は『今考えても仕方が無い事』に答えられんってこった」
「それは・・・」
「確かに心構えは必要だろうよ。だがな、『人を殺めた』その時に何を思うかなんざ『その時の自分』にしか判らんさ」
「・・・そりゃ・・・そだね」
シオンから苦笑いが漏れた。
「だがこれだけは覚えて置いてくれ。まず武器を持ったら迷うな。迷いは自分も、相手も殺す」
「相手も・・・ですか?」
「ああ、相手もだ。迷って中途半端に斬ったら意図せず・・・なんて事も。な?」
ヴォルフの言葉を真剣な眼差しで噛み締める。
「それと・・・これが一番重要だ」
ヴォルフの剣幕が一層強くなり、2人は息を飲んだ。
「・・幾らでも迷え。後悔しろ。悔やめ。だが俺達はそれ以上に支えてやる。辛かったら守ってやる、逃げたかったら逃げりゃ良い」
ポンッと、ヴォルフの大きな手がシオンと豪の頭に乗る。
「2人を支えられん程、俺達は弱かないさ。戦いたく無いなら俺達が倍戦ってやる。だから安心して迷え。時間は・・・有限だろうが。否応無く戦いはお前さん等を飲み込むだろうからなぁ」
髪をわしわしとされた。だが何故かそれを心地良く感じた。
「兎に角、やれるだけの事はしときゃ良いさ。後は俺等に任せろ」
「・・・何で其処まで?」
シオンが問うと、ヴォルフは何の迷いも無くこう答えた。
「俺達はもう家族(仲間)だろ?」
「・・・・・大分マシな顔付きになったわね?2人とも」
次の日、シオンと豪が真っ先に俺の所へ来た。
「そうですかね?俺、未だに迷ってますよ?」
「私もだけど?」
「フフッ、じゃぁコレを返すわ」
シオンへ銃とホルスターを、豪へは剣を返す。
「あれ?俺の剣・・・こんなに小さかったっけ?」
「取り回しが悪そうだったから、少し改良しておいたのよ。迷惑だったかしら?」
豪は受け取った剣を数回振る。と、何かを納得した様な顔をした。
「いえ、前の大剣より良い感じですよ。前のは・・なんつーか必要以上だった気がします」
「気に入って貰えて良かったわ」
その横では、シオンが銃を手に取りあれこれと弄っていた。
「使い方は・・・問題無さそうね?」
「ん、まぁ昔使ってた事有ったし」
「マジかよ!?」
「・・・何で豪が驚くかね?」
「そりゃそうだろが!?銃を使ってたなんて・・」
「あ~・・・・海外で試射した事有るんだわ。夏休みとかでさ」
・・・何処の体は子供で頭脳は・・・とか考えてたら、
「お前は名○偵コ○ンか!?」
と、豪が俺の代弁をしてくれた。
「うっせ!私だって思ったわ!!・・・はぁ、人生何が有るか判んないなぁ」
「そうね。あぁ、後、武器(その子達)に名前を付けてあげなさい?」
「「え?」」
なにやらイタイ人を見る目を俺へ向けて来る。いや、そうじゃないんだよ!
「・・・ソレらはね、貴方達の『魔力』を通した、所謂『カスタム』なのよ。『名前』を付ける事でその性能を更に引き出す事が出来るのよ」
「・・・そう言う事なら・・」
あれぇ?豪君、神妙な口調の癖に・・・何でそんなに嬉しそうなんですかねぇ?シオンも嬉々としてるのは俺の見間違いですか?
皆、心の何処かに厨二病(子供心)を持ってるんだよ?ああ大人になってもな!!・・・ワタシ?コドモデスヨ?7才デスヨ?
「・・・『無名』で良いな。俺は」
大剣より1回り小さくなりミドルソードとなったソレは、それでも刃の厚さは元のままである。
「・・・無難に逃げよった!」
「うるせ~よ!それよりシオンの方はどうなんだよ!?」
「・・・この子達を握った時からさ、その『声』は聞こえてたんだ」
そう言って、『オリジナル』を手にする。
「この子達の名前は『ケルベロス』。『リボルバー式』がレフト、『マシンピストル』がライト。そんで『オリジナル』がセンター・・・かな」
そう言い終わると同時に、2人の武器が淡い光りを纏う。その光りは数秒もしない内に、武器へ吸い込まれる様に消えた。
「どうやら気に入ったみたいね。後は使って馴らして行きなさい」
「オッケ~!」「判りました」
力強く返事をする2人。俺は最後の仕上げにもう一度問う事にする。
「2人は自らの『意思』で『人』を、『生命』を奪う覚悟が有る?」
2人は互いを見ると俺の方へ向き直し、再び力強く答えた。
「「覚悟は無いです!(けど!)でも答えは探し続けます!(るよ!)」」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・
【グラルラーゴ領】首都、その町並みの一角に、憲兵と自警団が集まっていた。
お世辞にも大通りとは言えない、2・3本程大通りを外れた所謂裏通り。
そこにある袋小路の壁にもたれ掛る様に倒れる人物が在る。
「・・・・これで12件目ですよ」
先に口を開いたのは、『コレ』を発見した自警団の隊長。
「ああ・・・全く、何が起きていると言うのだ!?」
倒れる人物を横目に憲兵の隊長が苛立つ様に怒鳴った。
その人物は・・・体をズタズタに切り裂かれ、息絶えていた。
体中に有る切り傷は致命傷ではなく、アスファルトにも似た道に『血の道しるべ』を描いている。
致命傷は最後の一撃。首筋の見事な切り傷が物語っていた。
そして、その壁に『血』で描かれた文字・・・
『Jack the Ripper(切り裂きジャック)』
遅くなってスンマセン orz 仕事が悪いんじゃぁちくせう ('A`)




