リューナの昔語りと暗躍な訳で その3
・・・余りの壮大な話に、私の思考は暫く停止してしまった。
『世界樹』が存在したのも驚きだし、それを消滅させろって・・・
【どうなされた?】
【・・・あまりの話に少し呆けていたのよ・・・】
【そうじゃろうな。しかし全て本心じゃよ】
爺様の声色が真剣さを増す。
【そもそも『世界樹』とは何ぞ?と、思った事は無かったかの?】
【そうね・・知識としては知っていたけど、ソレが何をもたらすかまでは。一応 此方に伝わってる事は、「エルフに色々良い事が起こるよ」程度ね】
【・・・・何も判っておらぬな。その様な大層な物ですらない存在を・・・】
それを聞いた爺様が急に剣呑な雰囲気を醸し出した。成る程、どうやら相当な物らしい・・・ってかソレを私に破壊しろと!?
【一体何なの?『世界樹』は?】
【・・・『混沌と破壊を齎すモノ』・・・じゃ】
【・・・名前からは想像出来ないわね】
【そうな。それで『死淵石』はその封をなす物なのじゃて】
【成る程。で、その2つを守るのが守人と言う訳ね】
【その通り・・そして・・・・・・・その事実が、先の戦乱の引き金だったのじゃ】
【!?まさか!!】
【そのまさかじゃ・・・】
先の戦争、エルフと獣人が争ったあの戦いの真相は・・・エルフから仕掛けた侵略戦争・・しかも『世界樹』絡みだったとは。
そりゃ『ダーク・オリハルコン』の存在を『禁忌』として隠匿したがる訳だ。
【『世界樹』だけは奪われてはならぬ。その一心で『死淵石』を囮として使用したのじゃ】
【その効果は抜群だった。と】
【その所為で、我等獣人は奴隷へと身を落としたがのぉ・・・】
爺様が遠い目をし上空を仰ぐ。色々有った・・・と言う所だろう。
【じゃが、我等は後悔はしておらん。『世界樹』がエルフの手に渡れば・・・いや、誰の手に渡ろうとも世界は終わる】
【そこまで・・・一体どれ程の物なの!?】
私は思わず再び足元の幹に目をやる。
【伝承でしか知らぬが・・・一度目覚めれば「大地を喰らい、天を暗く染め、死を振り撒く」と言われておるよ。『世界樹』はの】
【・・・ハァ、オーケー。判ったわ。流石に『世界樹』を今すぐ如何こうは無理だけど・・取り合えず出来る事はする心算よ】
【済まぬのぉ・・・我等が迂闊に動けば、『世界樹』の場所がばれる】
【でしょうね。だから取り合えず『死淵石』を、出来るだけ遠くへ切り離すわ】
【頼む。・・お前様に託す事しか出来ぬ我等の不甲斐無さよ・・】
済まなさそうに頭を下げる爺様。
【頭を上げて下さい。それにこの案件、私の仕事にも関わっていますから】
・・・次会ったら絶対シバクからな・・・待ってろよぉ『白い子』め!
だが問題は・・・
【私は未だに『死淵石』まで辿り着けてないわ】
【それに関しては・・・先も言ったが方法は有る】
【ならば・・】
【まぁ待て、何の弊害も無い訳では無いのじゃぞ?】
【それしか方法が無いのなら、何か躊躇う事が有るとでも?】
暫しの沈黙。私と爺様はしっかりと見つめ合い・・・爺様が折れた。
【全く・・・何とも『強い』お方じゃて。ホッホッホッ、良いじゃろう。その方法とは、その自身の体に『ルーン』を刻むのじゃ】
【聞いた事が無いわね?そんな事が可能なの?】
【我等獣人、其の中でも守人内にしか伝承されておらぬ技術よ。しかし、ソレを行えば『体内の魔力の流れ』が変わる。つまり・・使える魔法に制約が掛かる】
【その程度なの?だったら今直ぐにでも始めて欲しい所よ】
【お前様!?魔法が仕えなくなる可能性が・・】
【今だってほぼ魔法は使って無いわよ。まぁ魔法に関しては拘りは無いわ】
【何と!?】
確かに魔法は使えば便利だとは思うが、別段使わなくとも何とでもなるし、なった。
【そうか・・・ならば利点しかないかもしれんのぅ】
【利点?】
【我等の秘術が色々使える。あの『転移』もそうじゃ】
【・・・尚の事迷う必要が無いわ】
あの『転移』が有れば、後のフォローも完璧だろう。益々何も悩む事など無い。
【あい判った!では今は戻りなされ。次に来た時に始めようぞ!】
【判ったわ。では今回は戻らせて貰うわ。あぁそれと爺様?】
【何じゃ?】
【監視するんで有ればもう少し殺気は抑えなさい?ソコとソコに居る人達】
その方向に目線を送った。すると爺様の脇に控えていた1回り大きい犬型獣人が、冷や汗を浮かべる。
私はソレを見て微笑むと、光太と共に『転移』をしてその日は帰った。
その後、私は休みの度に守人の里へと出向き、背中に『ルーン』を刻む。まぁタトゥーみたいな物だね。
『ルーン』が刻まれる度、確かに私の中の魔力が変わって行くのが判る。
そして3回程通った時、私の背中の『ルーン』は完成した。
【ふむ、これで光太と同じ『転移』が使えるの?】
【いや、もう少し体に馴らしてからだな】
【成る程ね】
私に『ルーン』を刻んでいたのは、最初に訪問した時爺様の脇に居た人物、あの1回り大きい人物。
彼の名前は「ゴーダ」この守人達の長らしい。
獣人特有の筋肉質でありながらしなりが良い身体に、髭を蓄えたナイスガイだ。・・・ただ、女性相手に腰巻だけなのは・・頂けないと思うんだ・・・・まぁ私は気にしないけどね。
【『転移』以外には何が出来るのかしら?】
【特定魔力の探知だ。これは『死淵石』を探すのに役に立つだろう。後は『気配感知』だな】
【獣が何かを急に察して、明後日の方を向いたりするアレ?】
【言い得て妙な例えだな。そう考えて貰えば良い】
ゴーダが苦笑いする。
【他にも身体強化などだな。まぁ暫くは不快感が続くかもしれんが】
【馴れるわ】
別室へ移動し、前だけを隠した服から私服へと着替える。確かに妙な違和感を感じるが・・・耐えられない程ではなかった。
ゴーダの元に戻ると、彼は私を見るなり目を見張って驚いていた。
【・・参ったな・・・『ルーン』を刻んだ直後にそこまで動けるのか・・ウチの軟弱者達は2週間はマトモに動けなかったと言うのに、全く!何をやっとるのか!!】
まぁ、私は色々な意味で既に鍛えられてるからね。そして私の他にも『ルーン』持ちは居るらしい、当り前か。
【後、これは長老からだ】
そう言ってゴーダが私に黒光りするロンググローブを差し出す。
【コレは?】
【里に残っていたドラゴンの皮膚をなめして作った物だ。下手な防具より強いだろう】
(差し詰めケブラーグローブと言った所ね・・・しかし・・)
【何だ?そんな困った様な顔をして?】
どうやら私はそんな表情をしていたらしい。まぁ・・・ね。又『龍』が絡んで来ちゃった訳だったからね。
【いや、此方の話よ。有り難く頂くわ】
受け取り、私は早速手を通す。うん、良く馴染むね。
【後は『コレ』だな。お前の言う通りに細工したぞ】
2つの鉄で出来た筒を受け取る、ソレを両方の手に持ち、ストッパーを押しながら両腕を思いっきり振った。
「「ガシャン!!」」
一気に柄の先が伸び、スティックが出現する。
【良い出来よゴーダ。流石ね】
【そりゃ良かった】
それをまるでスパイ映画の様に太股のベルトに通す。これで準備は整った。
その後の事はスムースに進んだ。『ルーン』を刻んだお蔭で、『死淵石』の位置は直に判った。
(全く、判るはずが無いわよ・・多重の隠匿結界を張って、且つ入り口を壁で埋めてるんだから・・・)
入り口すら壁で封をしてあるのだから・・・・判らない筈である。
それらを解くには王家の者のサインが入った書類が必要らしい。ここら辺は地球と同じなのね。
はっきり言って、書類を用意するのは問題が無かった。伊達に姫付きをしている訳では無いし、偽造もこの世界に来てからお手の物になった。
そして今年、その時が来た訳だ。
さて、そんなこんなで今だ。1人目の憲兵を倒し、残り5人の方へ向き直す。次に動いたのは手槍を持った憲兵。
「シッ!!」
息を吐きその手槍を突いて来る。私は右前へステップインをし回避、同時にステックを下から掬い上げる様に手槍へ打ち付けた。
ガキン!金属音と共に手槍が斜め上へズレる、瞬時に左手で柄を掴み大きく反時計回りに回すと、憲兵の右腕の外側に石突が掛かり圧が右手に集中する。
「ぐぁっ!!「バギン!」がぁあぁぁ!!!「ゴスッ!!」ブッ!!・・グ・・・」
思わず右手が手槍から放れた瞬間、スティックが残りの左肘に叩き込まれ、本来曲がらない筈の方向へと曲がった。
手槍から左手の力が抜けると、振り切った右腕の肘で折れた左腕をかち上げ、完全に手槍から手を放させるとエンドを人中(唇上部の溝)に突き込んだ。残り4!
目の前の憲兵が崩れ落ちるのと同時に、私の左手に有る手槍を瞬時に逆手てへと持ち替え振り返る。
『気配感知』で後方から迫って居るのは判っていた。私の視線が両手で持った剣を今にも振り下ろそうとする姿を捉える!
ギィン!
逆手に持った手槍がその斬撃を斜め下へと受け流す。
「ヌッ!「ゴシャ!バギャ!!」かふっ・・・」
剣を受け流され体勢が前のめりになる憲兵、私は側頭部へのエンド打ちから返す肘を再び人中に入れる。残り3。
力なく崩れ落ちて行く憲兵、私は手槍を放すと少し屈んで左腕をその又へ差込む。右腕を喉輪、エンドで後頭部を押さえ担ぎ上げる様に後方へ放り投げた!
ズドンッ!「うおぉっ!」
私の背面へ回りこみ、同時攻撃を仕掛けようとした2人へ脱力した体が襲う。1人は直前に回避。だがもう1人は見事に直撃を喰らい押し潰された。
向かって左から手槍を持った憲兵が迫る・・が、1人が床に拘束状態な為、焦りがアリアリだ。
腰の入っていない突きなど何の怖さも無い、その突きを軽くいなすとその左腕を左手で掴んで引っ張り、左前蹴りを踏み込んだ軸足内膝側に叩き込む!
ベキリ!「ぎゃっ!!」
見事に外側へ曲がる右膝。私は左腕を掴んだまま左へ半回りし、
「う!うわあぁぁぁぁ「ズドォン!」」
1本背負いでその体を、未だに床へ拘束されている憲兵の頭へと投げ付た。
「ぐっ・・・うぅ「ドゴッ!」」
投げられた憲兵が不用意に頭だけを起き上げる。私は躊躇無くその憲兵の髪を鷲掴みにし、後頭部へ膝を叩き込む。残り1。
最後の1人は・・・此方を見定めるかの様に佇んでいた。そしてゆっくりと自身の装備からショートソードを抜く。
(成る程、ソコソコ出来そうね)
「まさか、メイド如きが此処まで出来るとはな」
「お褒めに預かり光栄ですわ・・・とでも言えば良いのかしらね?」
「フッ、その減らず口・・・姫様方の前で!余りにも不敬!!」
その怒号と共に一瞬で間合いを詰め、ショートソードで突きを入れて来る!
メシィッッ!「がぁっ!」
が、私のフェンシングの様な、体を捻り込んだスティックの突きが、それよりも早く憲兵の右肩付け根に喰い込んでいた。
相手の腕の力が抜けるのが判る。そのまま左掌底で右肘を打ち上げ懐へ潜り込むと、首の後ろにスティックを通す。
反対側に出たスティックの先を左手で握りX状に頚動脈を圧迫。
「ぐっ・・・グくッ・・!」
何とかソレを振り払おうともがこうとする憲兵、だがそれが此方の狙いだ。
一瞬の重心のズレを私は見逃さない。
左へズレた重心を利用し、腰投げを繰り出すと・・・その体が宙を舞った。
その体をコントロールし、受身が取れない且つ後頭部から落ちる様にすると、スティックを握っていた左手を離す。
ドドォッ!ドシャァ!!
憲兵は後頭部を床にしこたま打ち付け、1度バウンドし2度程転がるとそのまま動かなくなった。
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・・どうしてこんな事になったのだろうか?
私、レリアはその光景を何も出来ず、ただ見ているしかなかった。
目の前では次々と憲兵がリューナに倒されて行く、此処に集めた憲兵とて、腕利きばかりだった筈だ。
それが如何だろう?いとも簡単に倒されて行く。
私の隣ではセシーリアが顔を青くし、震えている。
無理も無い、本格的な戦闘なぞ見た事が無いのだから。
最後の1人が倒され、リューナがゆっくりと・・・此方を向いた。
ただ佇んだだけな筈なのに威圧感が凄まじい。先程の戦いを見て居た所為でも有るのだろう。
「・・・さて、気が済みましたか?お姫様方?」
何故そんな言い方をするのだリューナ!?私達は・・・あれ程一緒に居たではないか!
「リューナ!!貴様ぁ!」
私は激情に駆られ剣を抜いた。
「何故だリューナ!何が!あの『奴隷』の何が!お前にそうさせるんだ!?」
それを聞いたリューナの威圧感が増し、私は更に圧倒されてしまう。
「・・・だからですよ」
リューナが感情を見せるでもなく、淡々とした口調で言う。
「あの子を『奴隷』としか見れない・・・私は奴隷制度が嫌い。だから私達は相容れられない」
「そんな!事!」
セシーリアが何とか声を絞り出す。
「無理ですよ。何が如何有ろうと、私も御2人も考えを変える事が出来ないから・・・」
そう言うリューナの表情は、曇り悲しそうだった。
「・・・ならば!私は!力ずくでお前を止める!」
剣を握る手に力が篭る。
「止めて如何すると言うのですか?例え止められようと、私は死罪を免れませんよ?」
「それでも!私は・・・私は友としてお前を止める!!」
「・・・残念です、レリア。こうして相対さなくてはならない状況も・・・そして、戦力を測れない貴方も」
「何を言うかぁ!」
戦力だと?此処4年程私に勝った事の無いリューナが何を言うのか!?私は何時もの如く一気に距離を詰め斬り掛かった。
ブンッ!
躱される。
ブンッ!ブンッ!ブンッ!
躱される。躱される。躱される。
「なっ・・・!何故だ!?」
「何故?あぁ、何故私がここ4年程『勝たなかった』かですか?答えは簡単ですよ?『お姫様』である『貴方』に『怪我などされては困る』からに過ぎなかったのです」
その答えに、私の血が沸き立った!何たる屈辱だろうか!?
「きっさまぁぁぁ!!!」
思い切り振り被る、何の考えも無く、ただ、激情に、駆られ・・・
リューナの表情が何故か良く見えた。
その表情は・・・何故か儚げで、悲しそうだった。
瞬間、リューナが私の懐に居た。その左拳は私の脇腹のプレートに添えられている。
「きさ・・ま!な・・」
「何を!」と、言おうとしたその時、リューナは言った・・・
「・・・殺しちゃったら・・御免ね?」
ゾワリ!!!!!
全身が粟立つ!何時聞いていた優しげな声が、その時はやけに冷たく聞こえた!
私の経験が、『危険だ!!』と警鐘を鳴らし、私が動こうとしたその時!
「鎧通し」
リューナが何かを呟く。
瞬間!有り得ない衝撃が私の脇腹から左肩へ向け駆け抜ける!!
ガラン・・!
私の手から剣が床へゆっくり滑り落ちた。
「・・・がっ!・・・・・・・ゴポッ!」
リューナが飛び退くと同時に私は両膝を床に付き、無様にも胃の内容物を吐き出てしまう。
そしてそのまま横向けに倒れ込むと全身が弛緩し、全く動けなくなる。
「・・・あ・・・・・ゴフッ・・・・・リ・・・・ナぁ・・・」
声を出す事すら儘成らない・・・『痛い』と言う感覚すら湧かないソレに、私は戦慄した。
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倒れたレリアを見下ろす。何とか死んでいないのを確認すると、何故だかホッとする。
そりゃ何だかんだで彼女達への情は有るのだ。
セシーリアの方を向く。彼女は最早蒼白になり、立っているのがやっとの様だ。
「セシーリア様」
「ヒッ!!」
相当に怯えているのが見て取れる。まぁ当り前か。
「私は、これにてお暇を頂きます。今まで有難う御座いました。御2人と過ごした日々は・・・今更ですが、大変有意義で御座いました」
「・・・り・・・う・・・な・・・・・・ぁ・・・ゴホッ!ゴフッ!」
倒れ込んで居るレリアが声を絞り出す。
「レリア様!無理をしてはいけません!回復魔法を受けた後、ポーション等でじっくり静養して下さい」
「・・・何故?リューナ・・・お姉ちゃん!?何故なの!?私達お姉ちゃんに何も悪い事も、意地悪もしてないよ!?何で!!!」
「セシーリア・・・」
腰を抜かし、その場でへたり込んだセシーリアが、堰を切った様に感情を爆発させた。
「・・・御免なさい。願わくば、これ以上私達が交わる運命が無い事を祈るわ・・・」
「お姉ちゃん!!!」
私は踵を返し、『ルーン』を発動させると次第に風景が白み掛り始める。
「2人とも・・・元気でね」
私の言葉は届いたのか?確かめる術も無く、体は光の中へ消えた。
そして大広間には倒れ込む6人に、倒れた姫とへたり込む姫のすすり泣く声だけが残された・・・
少し加筆




