リューナの昔語りと暗躍な訳で その1
「樋口 龍子」私の前世、日本に居た頃の名前。
どうやら私の人生は、『龍』と言う名詞から逃れられないみたい。今世では『リュー』ナだしね・・・
正直、私はこの龍子と言う名前が好きではなかった。「全く、何処の任侠映画の登場人物だよ!」と、子供ながらに思ったモノだ。
私の実家は武道の道場を開いていた。幼少の頃からそこで色々教わったね。
・・・今思えば何の武術なのか良く判らない・・本当、何の武術だったんだろ?
忍術?に近かったのかなぁ?まぁそれは置いて置こう。
そんなんだったから、小中通してのあだ名は「姉御」とか「姉さん」だった。不本意極まりないよ!
高校から柔道部に入ってインターハイなんかにも出たなぁ。勿論スポーツ推薦枠狙いですが?
で、大学行ってそこから民間の警備会社へ就職したんだよね。そこでは世界の武術を習ったよ。
そんで『SP』になった訳。
私の人生、順風満帆・・とは行かなかったものの、ソコソコ良いと思えた。結婚もしたし、子供も授かった。
・・・人生の転機は・・その子供が生まれた後だった・・・
『先天性心疾患』
病院の先生から聞かされた時・・最初何の事だか理解出来なかった。
ただ、「何で?」とか「どうして私の子なの?」とかの単語が、グルグル頭の中を回っていた事だけ覚えている。
最初の頃はね、旦那とさ、「それでも二人三脚で行こう」なんて綺麗事並べてた。
お互い若かったんだね。そんな器用な立ち振る舞いが無理に成って来たんだ。
何時しか私は私の子供・・「光太」に付きっ切り。旦那も距離を取り始めた。
方々(ほうぼう)手を尽くしたよ?光太も4歳まで生きれたんだ・・うん、精一杯生きてくれた。
天寿を全うした光太が居なくなった時、私と旦那を繋いでいたモノも消えた。
私は復職した。今まで以上に打ち込んだ。取り合えず思い出したくなかったんだ。
その日もさ・・・何時もの繰り返しだって思ってた。
丁度非番だった私は、前日少し・・結構飲み過ぎた。起きたのが何時もより2時間遅い時刻。
酷い在り様でさ、モゾモゾと布団から起き上がろう・・としたその時だった。
『世界が揺れた』
地響きなんて初めて聞いた気がする。ソレと共に凄まじい揺れ。あっと言う間に私の家は倒壊・・・
気が付けば私は瓦礫に埋もれ、動く事も出来ない。
散々鍛えた体なんて何の役にも立たない現実・・そして湧き上がる死の恐怖。
光太を失った時、あれほど未練も興味も失った筈の世界だったのに、今この瞬間、私は「死にたくない」と思った。
「助けて・・・」
誰に言うでも無く、ただ声が出る。
自分ではもうどうしようもない現実を突きつけられた時、私の中に在ったのは「無念」それだった。
そして・・・再びの揺れ。ソレと共に崩れる瓦礫。前世の私が最後に見た光景・・・
ふと気が付くと、私は部屋の様な所に居た。四方が壁で囲まれており家具等は無かった。
「あれ!?何で!?」
声のした方を向くと、シンプルな白い服を着た8~9歳位の少年が一人立って居た。
「・・・・そうか・・・いや、これは・・・」
なんだか1人で思案している。
「あの・・」
「ああ、スイマセン。少し考え事してました」
少年が此方を見た。外見は普通なのに、何故か浮世離れしていると感じる。
「えと、樋口 龍子さんですね」
「え?あ、そうだけど・・・何で私の名前を?」
「あ~・・私、神様なんですよ」
「え?」
「信じられませんよねぇ。しかも、龍子さん・・貴方は亡くなられました」
最後に見た光景を思い出すと、何と無く思い当たる節は有った。
「死んだ・・・のね?私」
「はい。瓦礫に・・・押し潰されました」
「そう・・当事者相手に何とも明け透けに言うのね」
「回りクドイの・・嫌いですよね?」
「そうね」
何とも、神様との会話とは思えないやり取りだなぁと思う。
「それで?私はどうして君の所に居るの?」
率直な疑問を投げ掛ける。
「ソレなんですが、どうやら龍子さんは「引っ張られた」みたいなんですよ」
「「引っ張られた」?」
「はい、龍子さんが亡くなる少し後、同じく亡くなられた方が居ました」
少し思い返す。そう言えば・・・誰かが叫んでいた声が聞こえていた。
「少し前まで、此処でその方と色々話をしていたんですよ」
「へぇ」
「で、その方が此処へ来る切っ掛けとなった『思い』に龍子さんの『思い』が重なった」
「成る程。で、私は此処へ序に来ちゃった。って訳か」
「まぁ、そう言う事ですね。ですがこれは私にとって、とても嬉しい誤算ですよ!」
何だか『白い子』が興奮気味に私に迫る。
「龍子さん!是非私の世界に来て下さい!」
「え?ええぇ!?」
行き成り何を言ってるんだ?この子は!?
「訳の判らないって感じですよね。尤もです!ですが・・・大変重要な事なんです・・・」
そう言うと、『白い子』は視線を床へと落とした。
「重要?」
「ええ。詳しくは言えませんが・・・地球(向こう)にも関係が有る事なんです」
「何とも・・大きな話ねぇ」
「はい。とても大きな規模の話なんです」
正直、私は乗り気じゃなかった。
私の人生、楽しい事も沢山有ったのは判る。けれど、今の私は・・・光太へのウエイトが過ぎていた。
「・・・判りますよ?貴方が何を思っているか」
「そう・・・」
すると『白い子』は顎に手をやり、少し考え始めた。そして・・・
「なら、『報酬』を出します」
「報酬?」
「はい。龍子さんが了承してくれるのなら、それに見合った報酬を贈ります」
「・・・・・・」
思わず黙ってしまう。そんな事が可能なのか?と。けれど相手は一応神様(仮)みたいだし・・・
「だから(仮)じゃ有りませんって・・・」
「私の思考を読んだ!?」
「何この天丼!?」
『白い子』が1人で突っ込みを入れている。何の話?
「はぁ・・話を進めましょう。龍子さん、もし貴方が私の世界へ来てくれるのなら・・・光太君に会わせます」
「なっ!!!」
まさか・・・此処で『光太』の名前が・・出て来るなんて。
「そ・・・んな・・」
声が・・出ない。そんな事が・・
「可能です。流石にソックリそのまま・・・とまでは行きませんが。お互いに認識出来る様にします」
「・・・・」
絶句する私を尻目に、『白い子』は続ける。
「勿論、見た目が全然違っていたら意味が有りませんよね?そこの所も大丈夫です」
「そんな・・・そんな事・・」
死者を冒涜する様な・・・そんな事が・・・光太に・・会える?
「報酬で釣る様な形に成るのは不本意ですが・・・それだけ切迫している状況と言う事なんです」
「・・・・本当に・・・会えるのね?」
「はい!絶対に会えます!会わせて見せます!!」
力強く頷く『白い子』を見て、私の腹は決まった。
「・・・何をすれば良いの?」
・・・それから私はその世界、【ルナルース】の事を教えて貰った。
「で?私に何をさせたいの?」
「スパイです」
「スパイ?」
「はい。龍子さん、貴方には【亜人領】に潜り込んで欲しいんです」
「ぅん?」
「そこで・・・『在る物』を、後から来るであろう『適合者』へ渡して貰いたいんです」
「『在る物』に『適合者』・・・ねぇ。確実に・・『来る』の?」
「はい。確実に・・『行きます』。あの国は・・・古来より『召喚の儀』を行って来ました」
「『召喚の儀』?」
「文字通りですよ。【亜人領】へ他の世界から知性の有る者を呼び寄せるんです」
「それって!?誘拐じゃない!!」
「・・・そうですね」
「何で!?貴方神様でしょ!?何でそんな事・・・」
「私の・・・力が及ばないんですよ・・・アレは『私が干渉した力』では無いんです」
何とも、ばつの悪そうに顔を歪める『白い子』。
「複雑そうね」
「ええ・・滅茶苦茶です」
「・・・まぁ、取り合えずそれは保留にして置きましょう。それで?『在る物』って何?」
「【亜人領】、エルフ族に渡った『ダーク・オリハルコン』と言われる物」
「それを『適合者』へ渡せば良いのね?」
「はい。ですが・・・ソレは国宝として厳重に、しかもその存在は『禁忌』として隠匿されています」
「それを手に入れて渡すの!?中々ハードね・・」
「ええ。しかもその後、逃げ切らなければ成りませんから」
「そうね・・・逃げ切らなければ意味が無いわ。当てが・・有るの?」
「一応仕込みはします。ただ・・・」
「ただ?」
「光太君にも頑張って貰う事になります」
「・・・そう」
「・・・怒らない・・んですか?」
「何と無く予想は付いていたわ」
「・・・正直な話、龍子さんが此処へ来なければこの『計画』は有りませんでしたし、光太君も登場しませんでした・・・」
「運が良いんだか悪いんだか・・・」
私から思わず苦笑いが漏れる。光太に会えるのは良いが、その所為で光太が危険な目に合うのだ。母親として・・・宜しくないと思うのは当然だろう。
「で?どうやって入り込むの?」
「それは勿論!龍子さんがエルフに生まれ変わってメイドとして!」
スパァン!
「いった!!何故叩かれたし!?」
私は思わず『白い子』を引っ叩いた。
「何なのソレ!?エルフってのはまぁ良いわ!何でメイドなのよ!?しかも決定してる!?」
「良いじゃないですかぁ!姫付きのメイドになれば内部での行動が楽ですよ!?その為の助力は惜しみません!!」
「・・・力一杯言うのね・・・本音は?」
「メイドさん (・∀・)イイ!!」
パァーーン!
再び私の平手が頭へ舞う。
「いったぁー!私!神様!」
「こんな威厳の欠けた神様が居るか!」




